サイゾーpremium  > ニュース  > 芸能  > 三原舞依の伸びしろ、オズモンドの完成度と危うさ…スケオタエッセイスト・高山真が見た四大陸選手権(女子編)

――女性向けメディアを中心に活躍するエッセイスト・高山真が、世にあふれる"アイドル"を考察する。超刺激的カルチャー論。

1702_takayama01.jpg
フジテレビ「四大陸フィギュアスケート選手権」ページより

 フィギュアスケートの四大陸選手権、本当に面白い大会でした。女子と男子、それぞれに見どころが多すぎて、すべてを書いてしまったら膨大な量になりそう…。「なるべく簡潔に」と意識しながら、観戦中に心に浮かんだことを綴っていこうと思います。

●三原舞依
いやもう、ソファに座りながらテレビを見ていたのですが、ショート、フリーとも立ち上がって拍手をしてしまいました。全日本選手権とこの四大陸選手権、大きな大会ふたつを、ショートもフリーもほぼパーフェクトで行うとは、只事ではない精神力です。

 以前、全日本選手権についてのエッセイで、私は「個人的に大注目している選手。三原選手の大きな強みは、明解なエッジワークがどんどんスピードアップしていくこと。ジャンプを力ではなくスピードとタイミングで踏み切ること。加えて、ジャンプの着氷直前の体のほどき方が素晴らしいこと」と書きました。そのことが、大舞台で2試合続けてできるということは、普段からどれだけ張り詰めた練習をしているか、という証明でもあると思います。

 個人的には、フリープログラム最後のトリプルサルコウ、そのエントランスにいつも感嘆のため息が出ます。非常に鋭いロッカーターンからカウンター、スリーターンへとつなげ、そこからサルコウを跳ぶあたりが私の大好物。着氷後のスピードある流れも見事です。演技全体を締めるジャンプとして、申し分ありません。「この着氷のクオリティがあれば、ジャンプ後のトランジションにもまだまだ伸びしろがありそう」と思える。それも嬉しいものです。

 私は以前、「三原舞依の上体の動きが洗練されたら、世界中にファンが生まれるはず」とも書いています。私は基本的に、自分のことならともかく他人様(ひとさま)のことについて、「○○が××だからダメ」という考え方、書き方をしたくない人間でして、「○○が◇◇だったら、さらに素敵よね」という考え方をするタイプです(自分の本業である「女性に向けてのエッセイ」においても、フィギュアスケートのことを書くときにおいても)。

しかし三原選手自身は、「表現力の点では世界と戦えない」と、優勝後のインタビューではっきり口にしていました。この自分に対する厳しさも、本当にリスペクトに価します。

 その言葉通り、三原選手は、全日本選手権から2カ月足らずで、振り付けを何カ所かはっきりとブラッシュアップしていました。特に印象的だった箇所をひとつ挙げるとすれば、単発のダブルアクセルを降りて、ステップシークエンスに入る直前。今シーズンはずっと、「両腕を水平に広げ、音楽に合わせて拳をグーからパーにする」という振り付けでしたが、今回は、ニュアンスのある、エレガントなアームのポーズ(かつ、片足滑走)に変えていた。こうした変化が、世界選手権でも見られるのかもしれないと思うと、本当に楽しみです。

 ジャンプ着氷後のトランジションのバリエーション。そして、エッジワークと上体の振付が連動し、かつ、音楽と一体化すること。このふたつが身につけば、世界のトップ中のトップたちの間に一気に割って入ってくる可能性もある選手だと思います。浅田真央選手に憧れているという三原選手、演技全体から香り立つ爽やかな持ち味も、なんとなく共通するものを感じて、浅田ファンとしてはそれもまた嬉しくなります。

●ケイトリン・オズモンド
 ショートプログラム限定で書きます。ダブルアクセルで転倒。ルッツジャンプの踏切のエッジが少し怪しい…。それでも得点が三原選手を上回ったことに納得がいかない人もいるかもしれません。が、私個人は、オズモンドのショートプログラムは、今シーズンの全選手の中でもっとも好み。ちょっと箇条書きで挙げてみます。

○プログラム全編にわたって、「右足・左足のそれぞれの片足滑走」で、「フォア・バック」「イン・アウト」のエッジワークを盛り盛りに入れまくり、そのほとんどが曲のリズムや音符とピッタリ合っている。誤解を恐れずに言えば「おかしい」レベル。
○トリプル・トリプルのコンビネーションジャンプであっても、ジャンプの前と後に凄まじいコネクティングステップを入れている。かつ、ジャンプ自体のスピード、大きさとも群を抜いている。

○フライングキャメルスピンに行く前、小さなターンから非常になめらかで大きなイーグル、そしてバタフライへ。この一連の流れがトランジションになっている。スピン自体も、難しいポジションになってからチェンジエッジをおこなっている。

○エッジを変えていくステップとムーヴズ・イン・ザ・フィールド、両方を組み合わせた、ダブルアクセルのエントランス(ダブルアクセルが着氷していたら、そこからレイバックスピンまでを「ひとつの流れ」として、トランジションを入れています)。

○ウィンドミルからレイバックスピンに行く際の流れが非常にスムーズで、スピードも充分。

 ここまで密度の高いことを、しかも「難しいことをしている」素振りをまったく見せず、「エディット・ピアフのボーカルのイメージそのものである、情感やオンナっぷりが豊かで、ちょいセクシーに」実施しているのですから、ただただうなるばかり。仮にダブルアクセルが成功していたら、75点前後の点数が出たとしてもまったく不思議ではありません。

ただ、あれだけ大きくてスピード豊かなジャンプを、ショート、フリーともノーミスで抑え込むのも、また至難の業なわけです。世界選手権ではどうなるでしょうか。ノーミスで揃えたところを見たいんですけどね。

●ガブリエル・デールマン
 率直に言って、「ナチュラルタレント(生まれ持っての才能)に恵まれまくっている」というタイプではないと思います。「跳び上がる」方向のバネはあるものの、ジャンプ着氷時のひざのクッションの弱さも含め、「なめらかに吸収する」方向のバネに固さがある選手。難しいポジションをとるうえで必須の柔軟性も弱かったりもする。ただ、「持っているものを最大限に生かす」ということに関して、本当にギリギリのラインまで突き詰めている。それが何よりも素晴らしいと思います。

たとえば、イナバウアーから雄大な大きなトリプルトゥ+トリプルトゥのコンビネーションを跳び、着氷後にインサイドのイーグルまでを入れていく一連の流れ。こういうのは、デールマン自身とコーチ陣の両方で、「突き詰める」方向性がピッタリ同じでなければ、完成しえないものだと思います。

 あふれんばかりの才能で人生をわたっていける人など、「ひと握り」どころか「ひとつまみ」。当然、私も「自分の仕事を、生まれ持った才能メインでやっている」などとはビタ一文思えないわけです。そういう点でも、なんと言うか、思い入れを持ってしまう選手です。

●樋口新葉&本郷理華
 樋口選手、ケガしてますよね? 非常に心配です。フランス杯のフリーの素晴らしい出来ばえ、スケーティングの滑らかさ、ジャンプの質の高さを見ていますので、本調子でなかったことがとにかく気の毒です。

「いつもの」調子でジャンプを踏み切れないとなれば、当然その後の、空中での体の締めにも影響が出てくるもの。フリーのダブルアクセル、回転が途中でバラけてしまったのも、体がいつもの調子でないことと、それに起因する集中力の乱れが原因だと思います。

 まだ若い選手です。体もまだまだ成長していくはず。なんとかここを乗り越えてほしいなと切に願っています。ポテンシャルは言うまでもなく素晴らしいのですから。

 本郷選手は、急に決まった代役出場、本当に大変だったと思います。冬季アジア大会に照準を合わせていたはずですので、アジア大会の直前の週に、東アジア圏とはいえ海外に渡るなんてことは想定もしていなかったはず。その中でも、最後まで「自分の演技」に食らいつこうとする姿に感銘を受けました。

 そして今回、疲労骨折により欠場の宮原知子選手。何よりも回復を祈っています。

高山真(たかやままこと)
男女に対する鋭い観察眼と考察を、愛情あふれる筆致で表現するエッセイスト。女性ファッション誌『Oggi』(小学館)で10年以上にわたって読者からのお悩みに答える長寿連載が、『恋愛がらみ。 ~不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』(小学館)という題名で書籍化。人気コラムニスト、ジェーン・スー氏の「知的ゲイは悩める女の共有財産」との絶賛どおり、恋や人生に悩む多くの女性から熱烈な支持を集める。月刊文芸誌『小説すばる』(集英社)でも連載中。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2024年5月号

NEWS SOURCE

サイゾーパブリシティ