サイゾーpremium  > 連載  > 俺たちに明日はない――刺激を求めた現代のボニーとクライド
連載
【プレミアム限定連載】アメリカン・トゥルー・クライム列伝【6】

保守的な田舎町、安定した未来への焦燥――2010年代の「ボニー&クライド」事件

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――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

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アンジェラ・ヒル、ローガン・マックファーランド、2人のマグショット。

「このまま田舎町で、ただ年をとっていくつもりか?」

 映画『俺たちに明日はない』で、クライドはボニーにそう投げかけた。1930年代前半にアメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返したボニー・パーカーとクライド・バロウによる実際の事件を扱ったこの映画はあまりに有名だが、2011年の暮れに、「現代のボニー&クライド」と騒がれた事件が発生したことをご存知だろうか? そこには、安定した生活に満足できなかった女の悲劇があった。

モルモン教徒の両親、保守的なユタの田舎町…

 モルモン教徒が人口の6割を占めるユタ州で、アンジェラ・ヒルは敬虔なモルモン教徒の両親のもと、3人兄妹の長女として大切に育てられた。広大な自然に囲まれた小さな町で、教会に通い、動物を愛し、明るい性格で周囲からも評判だった彼女は、思春期を迎えるとブロンドヘアーに青い目の美女として学校の人気者となり、青春を謳歌する毎日を送った。

 しかし、アンジェラは高校に進学すると、宗教色が強い退屈な田舎町での生活に刺激を求め、、頻繁にパーティーに顔を出し始める。アルコールとドラッグに手を出した彼女は、若くしてドラッグ中毒となり、通っていた高校を辞め、やがて周囲から不良少女と呼ばれるようになった。荒んだ生活を送る彼女は、保守的な両親からのプレッシャーから逃げるようにドラッグを続け、金がなくなれば盗みを働き、コントロールを失って先の見えないどん底の生活を続けた。だが、22歳の時、人生を変える転機が訪れる。彼女は恋をしたのだ。

 地元に住む、道徳的で堅実な海兵隊の男性と出会った彼女は、初めて本気で人を好きになった。男性から注がれる愛に応えるために、ドラッグを絶つリハビリを決意。1年後、リハビリに成功した彼女は、男性と婚約し、地元の町で同棲を開始した。2人は順調に愛を育み、将来の計画を立て始める。荒んだ生活を送ってきたアンジェラにとって、ようやく掴んだ幸せな生活に思われた。

 だが出会いから3年後、25歳になったアンジェラは男性との安定した生活を続けるうちに、葛藤を覚えていく。このまま結婚して専業主婦になり、地元から出ずに年をとっていくことに、再びストレスを感じ出していたのだ。かくして、若き日の刺激的な毎日を思い返すようになったアンジェラは苛立ち、男性に当たる日々を過ごすこととなった。
 
 2011年12月28日、この日もアンジェラは男性と激しい口論を繰り広げた。やり場のない絶望感を感じた彼女は、気晴らしのつもりで友人が開くパーティーに参加したのだった。

パーティー会場で出会ったアウトロー

 久しぶりのパーティーで、アンジェラは退屈な日常を埋め合わせるように刺激を求め続けた。友人達と酒を飲み交わし、絶ったはずのドラッグに再び手を出してしまう。そして、羽目を外して楽しむ彼女は運命の男と出会った。ローガン・マックファーランド(当時24歳)。アンジェラと同じ中学に通い、顔見知り程度の知り合いだったという彼もまた、敬虔なるモルモン教徒の両親と共に教会に通う少年時代を過ごしていた。両親を慕い、信仰を重んじていた彼は、学校でも模範的な生徒だった。しかし、両親が離婚したことから信仰に疑問を持ち始め、教会から遠ざかる。絶望に溺れた彼は、ドラッグに手を出す不良少年になっていった。

 街のアウトローとして生きるローガンに、アンジェラが惹かれるのに時間はかからなかった。彼が持つ危険な香りは、まさにアンジェラの求める刺激的な日々を予感させるものだったからだ。お互いの過去を重ね合わせた2人の距離は急速に縮まり、惹かれ合った。友人から借りた車でパーティーを抜け出すと、体を求め合い、そのまま宝石を奪う為に強盗を働いたのだ。

 以降も、アンジェラとローガンの暴走は止まらなかった。12月31日、パーティーで出会ってから3日後、2人はネバダ州にあるカジノの駐車場で再び事件を起こす。カジノから帰宅しようと駐車場を訪れた女性に、アンジェラは強盗目的で銃口を頭に突きつけた。女性は抵抗し、車に乗り込むと、アクセルを踏み込んだ。逃げようとする女性に向かってアンジェラは発砲。銃弾は女性の頭に命中したが奇跡的に急所を外れ、一命を取り留めた女性は自力で車を運転し、警察署に助けを求めた。重傷を負った女性からは「若い白人の男女に襲われた」以外に有力な情報はなかったが、普段は静かな町で起きた事件に、警察は総動員で捜査を開始。その日のうちに、乗り捨てられた盗難車を発見した。 車の中に捨ててあったレシートに記載されたクレジットカードの番号から、ユタ州に住むある老夫婦を割り出すと、自宅へと急行。そこで発見されたのは、銃弾を受けて殺害されていた老夫婦の死体だった。さらに、その自宅からは大量の宝石が盗まれていた。

 次々と起こる事件に、警察は市民へ情報提供を呼びかけた。これに応じて連絡をしてきたのは、アンジェラとローガンが出会ったパーティー会場で、2人に車を貸した男性だった。男性が証言したのは、2人がパーティーから抜け出し、戻ってくると大量の宝石を男性に見せつけ、自慢していたこと。そして、貸した車の中には、宝石が散乱していたということだった。警察がそれらの宝石を預かり、殺害された老夫婦の遺族に確認をすると、案の定彼らの所有物であると判明した。

カーチェイスから砂漠への逃亡

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砂漠で逃走中、発見された2人。

 一連の犯行がアンジェラとローガンによるものと断定した警察は、2人の行方を追う。やがて高速道路を走る盗難車を発見。車に乗っていたのは、アンジェラとローガンだった。2人は追跡するパトカーを猛スピードで引き離し、ど派手なカーチェイスを繰り広げると、高速道路から外れ、砂漠の中を爆走し、逃走を成功させた。砂漠へと消えた凶悪犯2人に厳戒態勢が敷かれた。

 カーチェイスから3日後の2012年1月3日、ユタ州で牧場を営む男性は、広大な敷地で飼う家畜の確認のために、セスナ機で見回りしていた。そこで彼は、砂漠を歩くアンジェラとローガンの姿を発見する。ニュースで事件を知っていた男性はすぐに通報。駆けつけた警察に、2人は大人しく降伏した。十分な装備もなく、3日間も砂漠を歩き続けた彼らは衰弱しており、アンジェラは手錠をかけられながら、発見されたことを喜ぶように「神様ありがとう」と何度も口にしたという。

逃避行から一転、罪をなすりつけ合う恋人たち

 パーティー会場での数年ぶりの再会から、ドラマティックすぎるほど燃え上がった2人だが、裁判を前にすると、お互いの罪を押し付け合い始めた。アンジェラが「ローガンに恐怖を感じ、次の被害者は自分だと思い込み、同行せざる得なかった」と主張すれば、ローガンは「すべての事件はアンジェラが計画したもの」と主張。結局、最初に犯した女性を襲った事件での裁判を前にアンジェラは司法取引に応じ、罪を認めて懲役30年の刑を受け入れた。ローガンは責任をアンジェラに押し付けようと裁判に挑んだが、陪審はその主張を受け入れず、懲役56年を言い渡した。

 現在2人は、老夫婦強盗殺人の裁判を刑務所の中で待っている。主犯格であるローガンは最高で極刑の可能性もある。幸せを掴みかけていたアンジェラが求めた刺激への代償はあまりに大きかった。

井川智太(いかわ・ともた)
1980年、東京生まれ。印刷会社勤務を経て、テレビ制作会社に転職。2011年よりニューヨークに移住し日系テレビ局でディレクターとして勤務。その傍らライターとしてアメリカの犯罪やインディペンデント・カルチャーを中心に多数執筆中。

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