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批評家・宇野常寛が主宰するインディーズ・カルチャー誌「PLANETS」とサイゾーによる、カルチャー批評対談──。

[批評家]宇野常寛×[映画評論家、ライター]森 直人

 今年8月に公開され、じわじわと人気を広げてロングランヒット上映中の本作。ゼロ年代に文芸を中心に流行したいわゆるスクールカーストものであり、不在の人物をめぐる群像劇でもある。公開後にはさまざまな読み解きがなされたが、この成功を支えたのは、監督が“ゼロ年代的青春もの”を理解しきれなかったことだった!?

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前田“監督”の元、ゾンビ映画を映画部員(上)たちが屋上で撮影していると、闖入者が……。やがてかすみ(下)も屋上に現れる。

宇野 『桐島、部活やめるってよ』(以下、『桐島』)については、2010年に 朝井リョウの原作小説【1】が出た当時読んでるんです。そのとき、とてもよくできているけど、新しいことをやっているようには思えなかった。この時期、つまりゼロ年代には中学高校のローカルな人間関係の問題ばかりが肥大してしまう空間を、社会それ自体の縮図として捉える物語作品がいわゆる青春小説のフォーマットとして、一つの流行を作っていたと思うんですよ。直接のきっかけは綿矢りさの『蹴りたい背中』【2】のヒットなんでしょうが、白岩玄の『野ブタ。をプロデュース』【3】とか、木堂椎の『りはめより100倍恐ろしい』【4】など、ブームの中で教室内の「キャラ」をめぐる小さなコミュニケーションにばかり囚われてしまう貧しさと通して人間観や世界観を表現する物語が洗練されていった。そのうちの何冊かは映像化もされてベストセラーになったりもしましたけど、原作の『桐島』はその中で最も後発のものだった分、よく練られてました。そして、そこが退屈さでもあったんですね。この系統の作品の集大成だとは思ったけれど、新しいものは何も付け加えられていないように思ったんです。

 それから2年経った今作られた映画版については、はっきり言えばおじさんの視点からこうしたゼロ年代的な学園物語が、スクールカーストものがどう見えているかを批評的に捉えた作品だな、というのがまず最初に言っておきたい感想ですね。いや、これは前提として確認しておきたいんですが、この映画や原作に対して「世界が狭い」とか「外部がない」、「学校を社会の縮図として捉えるのは幼稚だ」とか批判するのは何もわかっていない。教室内のキャラ戦争やローカルな人間関係が世界の全てに見えてしまう若さゆえの「狭さ」や「貧しさ」を通して表現できるものを追求しているんだから、それはなんの批判にもならない。

 僕は今のところ、今年の日本映画では本作が一番推せると思っています。宇野さんが言うように、吉田監督が原作者や登場人物たちと比べて年長世代であることがよく働いていましたね。原作文庫版の解説を吉田監督が書いているんですが、そこで彼は「最初はオファーを受けるのを躊躇した」と記しています。自分みたいなオッサンが高校生の話を描いていいのだろうか、と。そこですでに批評的な距離感が働いているんですよね。そして原作を読んでみると、そこに描かれ、ゼロ年代にずっと言われてきたローカルなコミュニティ空間が、現代日本社会における「世界の縮図」だと彼には取れた。文庫版解説の言葉を借りると「戦争」ということになりますが、確かに完成した映画を見ると、戦争映画のジオラマ的な作り込みに近い。

 また、スクールカースト的な学園模様を批評的に年長の視点から描くという点で、一番近いと思ったのはアメリカのドラマ『グリー』【5】です。それから、劇中で映画部の前田(神木隆之介)がタランティーノに言及するせいもあって、時制をシャッフルする本作の構造はタランティーノ的だと解釈された気がするんですが、それはミスリードで、むしろガス・ヴァン・サントの学園映画『エレファント』【6】が参照元でしょう。あと、世界の縮図の描き方という点では、ロバート・アルトマンの『ナッシュビル』【7】に近い。アメリカ社会を、カントリーミュージックのライブコンサートを核に、縮図としてジオラマ的に見せるというパースペクティブが似ています。同作ではその人間関係が集約されるのがカントリーのライブ会場で、『桐島』では学校の屋上というわけです。実は結構映画的な文脈にも優等生的に乗っかっている。

宇野  僕はこの吉田大八さんの作品は全部観ているんですよ。1作目の『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』【8】を観た時は、原作との距離感で作っているな、と感じました。本谷有希子さんの原作は「自意識過剰なことに自覚的な私ってイタかわいいでしょ」というアピールをわざと抜いた、スカスカの文体で露悪的に表現している。そこに映画版は半分乗っかっていて、半分は乗っかっていない。ちょっと引いて、そこで露悪的なポーズを取っちゃうところが強がってて貧乏くさいよ、でもそこがかわいいよ、みたいな視線からアレンジしている。これは間違いなくオヤジ的な視線なんだけど、いい意味で距離が取れているせいで射程が長くなってるし、あの黒ずんだ画面の質感もそこから出てきていて、演出のコンセプトとしてもうまく機能している。2作目の『クヒオ大佐』【9】は事実上のオリジナルで、多分一番綿密に作られてはいる。でも、申し訳ないけれど吉田監督が持ち込んだであろうあの中途半端な戦後社会論のようなものは、映画の中で空回りしていたと思う。3作目の『パーマネント野ばら』【10】も基本的には『腑抜けども』と同じような作りになっているけれど、こちらは本谷さんに対してやったような絶妙な距離の取り方を、西原理恵子さんに対してはあまりやっていないように思えた。とてもマイルドにまとまっていて腕は証明しているけど、西原さんのあざといところにもっと突っ込んでもいいんじゃないか、と。3作観て思ったのが、吉田監督は、自分の中にあるものをそのまま吐き出すより、何かよくわかっていない対象、要するに他者と向き合ったほうが面白いものが出てくる人だってことなんですね。

 で、この『桐島』は、それが一番きれいにハマっていた。本作は群像劇なので5~6人視点人物が存在しているんだけど、明らかに吉田監督自身が1~2人のことは理解できないまま描いている。そして、それがいい効果を生んでいるんですよね。おそらく彼なりにすごく努力して、朝井リョウの原作の世界観を6割くらいはわかっている。しかし残りの4割はわからなかったと思う。そして、それをわからないままに描いた。

『クヒオ大佐』を観るとよくわかるんだけど、この監督は自分の中で理解できているものだけで作ると、とても閉じた論理に支配された世界を描いちゃって、完成度は高いけど何か思い込みのようなものが空回りしてしまう。対照的に『桐島』は、「わからない」ものがそのまま放り込んであるおかげで、おそらくは監督がほぼ完全に理解できている主人公の前田から、まったく理解できていない何人かの女子キャラクターまで、非常にグラデーションのついた描写になった。結果論かもしれないけれど、そのせいもあって、この作品は非常に射程が長い作品になっている。言ってみれば、同世代間の共感の中に閉じがちだったゼロ年代のスクールカーストものが、この映画版で普遍的な青春映画のテーマに昇華されたんじゃないかと思う。

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