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連載
宇野常寛の「現代用語の『応用』知識」第5回

ナンパ目カルチャー科ロハス属「森ガールハンター」

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「森ガール」という言葉がある。ゆるゆるワンピースに、ニットのモコモコした帽子をかぶり、首からはいつもトイカメラを下げていて日常生活の何げないワンシーンをパシャリ。つまるところ、ぷち文化系&スローライフ系に走っている割には恋愛方面にコンプレックスが少なく、わりかし乗り気なイマドキの女子が軟着陸しそうなキャラクター、といったところだ。なんで「森」ガールなのかというと、その外見がなんとなく「森にいそうな」感じの女の子だからだ(『ハチミツとクローバー』のはぐみを想像してもらいたい)。よって、森ガールは決して森には生息していない。彼女たちが生息しているのはむしろ、中央線沿線のぷちオシャレカフェや雑貨店だったり、写真や音楽などの表現難民系イベントだったりする。

 ちなみに、本誌でもよく執筆している私の先輩Nさん(仮名)は、一部で「森ガールハンター」として恐れられている。彼は、主催するスローライフ系の古民家カフェのイベントにやってきた森ガールたちの独特の自意識に訴えることで、次々とその毒牙にかけようと常に試みている、ある意味現代の狩人(エルフ)のような人物なのだ。こういう人物もいるので、全国の森ガール初心者の諸君はこの手のイベントに頻出するハンターに注意していただきたい。

 ということで、関連書籍などの発売が相次ぎここ一年で急速に認識が広まった「森ガール」だが、真面目な話をすると、知人のインテリアデザイナー・浅子佳英氏の言葉を借りれば、森ガールとはつまるところ「グローバル化に対するローカルかつ安全なライフスタイル上の抵抗運動」である。さらに私の比喩に置き換えるのなら、森ガールとは、地方のメガモールに出店した郷土料理の名店のようなもので、グローバル資本主義と高度消費社会に抵抗しているようでいて、むしろ取り込まれている存在だ。これでもまだわかりにくいので直接的に言い換えれば、彼女たちの個性は安価に買い揃えられる個性にすぎない、ということになる。当然、それは「本当の個性」(グローバリズムへの抵抗)には成り得ない。グローバリゼーションというゲームのルールは内側からしか変わらない。なぜならば、ゲームの外側を志向するという態度こそが、最もティピカルな「商品(カード)」としてシステムに(なんの批判力も伴わず)回収されるのがこのゲームの最大の特徴だからだ。

 ところでmixiには当然「森ガール・コミュニティ」があって、そこでのやりとりを僕も興味深く拝見していた。そこでは「私ってこんなに森ガールっぽい」とアピールするトピックや、「森ガールの彼氏を紹介します」的な彼氏自慢トピックが乱立し、この現象を考える上で非常に興味深い世界が展開されていた。だが、一部の悪意あるユーザー(主に男性)がそこでのやりとりを中傷するケースが相次ぎ、気がつけば同コミュは承認制──つまり管理人の許可がないと閲覧できないコミュニティになってしまっていた。前述のNさんにこの話をしたところ、彼は勝ち誇って「それって森ガールハンターになれなかった奴らがヒガんでいるんだよ、甘いね」と笑っていた。まあ「スイーツ(笑)」と赤文字系女子をバカにしたり、『ROOKIES』のファンを批判して喜ぶ映画秘宝系のファンのように、本当は彼女たちと付き合いたいのに相手にされない悔しさが攻撃衝動に向かった、ということなのだろう。

「森ガールハンターって君はからかうけど、僕は彼女たちの本当の居場所を作ってあげたいだけなんだよ」とNさんはその日最後に力説した。それはそれで別の病を発症しているような気がしなくもなかったが、突っ込むと話がこじれそうな予感がしたので深くは追及しなかった。

<使用例>
(「サ●ゾー」編集部で)
「Nさんって森ガールハンターなんですか?」
「Sさんも、今度彼と会うときに全身tsumori chisatoかcucciaで身を固めてきてください。きっと彼の目の色が変わりますよ」
「(心底嫌そうな顔をして)……いえ、遠慮しておきます」(実話)

<関連キーワード>

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『トイカメラ』
森ガールのトイカメラ&fotologue使用率は何と全森ガール人口の53.7%に上るといわれる(惑星開発委員会調べ)。

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『別冊spoon.2009年03月号』
森ガールの存在を世に知らしめたムック本。実はヤフオクでプレミアがついていたりする。ちなみに宇野は発売時に購入済み。

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『ハチミツとクローバー』
2009年、自称森ガール研究家中川大地氏(34)により「はぐ−絵の才能=森ガール」という公式が発見された。(文中Nさんとは無関係)

宇野常寛(うの・つねひろ)
1978年生まれ。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。ミニコミ誌「PLANETS」の発行と、雑誌媒体でのサブ・カルチャー批評を主軸に幅広い評論活動を展開する。著書に、『ゼロ年代の想像力』(早川書房)がある。本誌連載中から各所で自爆・誤爆を引き起こした「サブ・カルチャー最終審判」は、今秋書籍で刊行予定。


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