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クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第48回

【クロサカタツヤ×中西崇文】僕たちはAIにいったい何を期待しているのか? 日本社会が直面するデジタル革命の理想と現実

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●自分の職場への人工知能(AI)導入についての賛否
出典:総務省「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(平成28年)より

――花盛りのAIブームは止まるところを知りません。日本を救う頼みの綱として、企業や政府まであらゆる人たちがAIに多大な期待を寄せています。そんな期待にこたえるかのように、AIに関するニュースが毎日々々、山のように流れてきます。これだけAIについて盛り上がっているのは、僕たちはAIに大きな期待を寄せているから。でも、SF映画やアニメに出てくるスゴいAIは、まだまだ実現しないことも僕らは知っている。じゃあ、いったいぜんたい僕たちはAIに何を望めばよいのだろうか。

クロサカ 今回は、とうとう人工知能(AI)がテーマです。ゲストには、AI研究者の中西崇文さんをお招きしました。中西さんは、今の日本のAI議論を、どのように見ていますか?

中西 まず、一般の方の反応を見たくて、ブログなどを分析したんですが、未来を見据えて前向きに語っている人が多かったですね。

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すでに家電量販店では投げ売りされつつあるスマートスピーカー。普及の鍵は!?

クロサカ それは意外です。AIに関する情報があふれる中、多くの生活者は、まだ最新のAI技術に触れる機会が限られています。正直、スマホやPCの音声アシスタントやスマートスピーカー【1】がまだまだな状態で、評価できないという人も多いかと思っていました。

中西 私も、もっと悲観的な印象が強いのではないかと思っていました。でも、一般の方はそうじゃない。もしかすると、今の社会全体の停滞感や閉塞感を打ち破ってくれるものだと思っているんじゃないでしょうか。日本人は、元来そういうものが好きじゃないですか。私は工学系ですが、AIのことを語る時に、技術のことだけにしたくない。同じように多くの人たちも、新しい技術が出てきて、日本が勝てる可能性があるとか、やっぱりロボットは日本だろうとか、直感的に明るい兆しを見ているんじゃないかな。

クロサカ これまでの人工知能ブームにしても、ロボットブームにしても、日本にはもともと、こうしたものを受け入れる素地がありますよね。だから今回のAIブームが終わったとしても、この期待はそのまま伸ばしたいですよね。

中西 そうなんです。テクノロジーの観点で見れば、現状でできることは大したことじゃない。もちろん、画像認識技術が人間を上回った【2】のは非常に大きいことですけど、この技術も、まだ直接的に大きな利益を生んでいるわけじゃない。ただ、今の技術がそこまでだったとしても、そこで諦めちゃうとイノベーションは起きないんです。今の技術でできること、できないことを見定めて、その上でどういうふうにビジネスにするかを考え続けないと。そうやっていくと、AIブームもブームじゃなくて、もっと大きな社会全体の流れに持っていけると思うんです。

クロサカ 先日のAIネットワーク社会推進会議【3】で私も指摘したんですが、AIに関して本当にリスクだと思うのは、AIそのものによって引き起こされるトラブルではなくて、ユーザーがAIに飽きてしまうこと。AIが育つのに時間と手間がかかりすぎて人間が待ちきれず、脅威と言われるようなレベルまでにはAIが社会に浸透しない可能性がある。

中西 それが本当に怖いことです。

クロサカ 日本でもGoogle HomeやAmazon Echoなどのスマートスピーカーも、期待しすぎた人たちからはすでに失望の声が聞かれます。“天気とニュースとピカチュウ”だけで終わっちゃ、あまりにもったいない。

中西 AIも、スピーカーというインターフェイスだけだと、すぐに飽きちゃうんです。でも、これからスピーカー以外にもいろいろ登場してくるはず。そこはAIだけじゃなくて、ほかの新しい技術が必要なところですが、そうやって新しいインターフェイスが少しずつ生活の中に入ってきて、肌身で感じることができれば、飽きるのを先延ばしできるんじゃないかな。

クロサカ 少しずつ、生活の深いところに入ってくるんでしょうね。初めはニュースや天気を読み上げたりする程度でしたが、テレビをつけたり、タクシーを呼んだりできるようになってきた。これなら、スマホを使えない年老いた僕の両親にも使えるかもしれない。よく言われることだけど、パソコンとかスマホとの違いは、ITへの入り口になっているところ。そこを掘り進んでいくと、ものすごく可能性がある。

中西 パソコン、ガラケー、スマホのいずれの普及期も、いろんな人々がウェブサイトやサービス、アプリをスゴい勢いで作って、今までになかった新しい体験=エクスペリエンスを作り出してきました。ガラケーからスマホへシフトした時、最初はガラケーのサービスのほうが洗練されていました。でも、スマホアプリが増えて、それに合わせて実社会のサービスもスマホに合わせて増えていった。AIについても、そういう状況を作ることが必要です。その中心のデバイスは、今のスマートスピーカーではないかもしれないですが。

クロサカ ユーザーを飽きさせないよう、絶え間なくサービスを開発していく。例えば1週間に1回は新しいものが出てくると、生活が便利になっていくその速度を多くの人々が実感できるはずです。しかし、スタートアップも含め、日本の産業界でそんなことが今後もできるのか。AIについては、グーグルやフェイスブックなどが圧倒的に進んでいます。彼らが今後のAI利活用の中心になって、日本向けのサービスが後回しにされたり、ローカライズのクオリティが低かったりする可能性があるとしたら、どうやってそれを回避すればいいんでしょうか。

中西 僕自身は、あまり日本語に特化したAIを作る必要はないと感じています。ただ、同じ技術を使っていたとしても、日本でずっと使い続けることで機能に違いが生じてくるでしょうね。もちろん、グーグルなどが持つビッグデータは莫大で、AI開発においては大きなアドバンテージですが、日本にしかないデータだってあります。そういう、まだ使われていないデータをもとに、ずっと使い続けていけば新たな産業が生まれる余地はあるんじゃないでしょうか。

クロサカ 確かに、インターネット上のデータではグーグルに勝てませんが、デジタル化が進まず、まだデータ化されていない情報はたくさんあります。一方で、日本はそうした既存産業のデジタル化が海外に比べて遅れており、それが国際競争力低下の一因にもなっています。

中西 そこが最大のボトルネックでしょう。今の社会の仕組みは、中途半端にIT化されたことで、かえって非効率が生まれている。メールで添付されてきたエクセルに入力して、プリントアウトしてハンコを押して郵送するなんて、ものすごく無意味なことをさせられている。エクセルに入力した時点でデジタル化されているんだから、そこですべて完結していないとおかしい。本来、効率化や自動化が短時間で行われると、それだけで利益を生み出すことができます。例えば、トレーディングでのHFT【4】は、高度な人工知能を使っているわけじゃないですが、莫大な利益を生んでいます。そういう現実が目の前にあるのだから、やらないと生きていけない時代になってくる。

クロサカ こういう話をすると「デジタル化に乗れない人も尊重しよう」というデジタルデバイドの視点が出てきます。僕自身は、それも大切だと思う気持ちは変わっていない。ただ、ここ数年でAIに真剣に取り組むようになってから、しびれを切らしているんですよ(笑)。正直、どうすればいいんでしょうね。

中西 正直なところ、あまり答えがないんです。例えば、日本でCRM【5】がはやった頃、業務が効率化すると言われて、多くの企業がこぞって導入しました。でも、実際には全然便利にならず、かえって業務が煩雑になった。海外はCRMに合わせて組織や業務フローを更新するんですが、日本はそれを変えなかったからです。AIには、そうなってほしくない。企業がトップダウンで一斉にAIを導入するのは、ひとつの方法かもしれないけれど、それがCRMの二の舞いになることを危惧しています。だから、理解のある現場のできるところからAIを使っていくしか、思いつく解がない。

クロサカ 日本社会で一番デジタル化が進んでいるのは、ビジネス分野じゃなくてコンシューマーかもしれないですね。もともとITは、生産のためのツールとしてPCがビジネスシーンで使われていったけど、今は多くの人がスマホをゲームやコミュニケーションといった経済合理性から離れたところで積極的に使っている。

中西 やっぱりサービスの充実という観点が重要ですよね。ユーザーの便益をきちんと見据えて、研究開発をしていく。そのためには、単にAIやクラウド、ネットワークといった個別の技術を見るのではなく、全体を俯瞰しながら必要なサービスを考え、それに合わせて個別の技術を積み上げて設計していく。

クロサカ 俯瞰というのは、一つひとつを丹念に見るのはもちろん、ちょっとぼんやりしているくらいのゆるい意識で、全体の関係性を見渡すということでもありますよね。

中西 「見渡す」というのは、とても大事です。AI研究者は、ディープラーニングが出てきて以降は、研究者の存在意義をなしていません。何しろ、どうしたらうまく動くのかの説明が難しい技術なんです。これまでの研究者は、新しい技術を説明するのが仕事だったのに、ディープラーニングではそれが奪われている。だから、 今の研究者の役割は「こうやったら見やすいでしょ」と視点を提供することかもしれません。視点を皆で共有し、そこから新たな知見を得て、また新たな技術やサービスの開発につなげていく。そういう機会を作りたいですね。

―対談を終えて―

 今年の初め、普段はゲームやテレビに興じている子どもたちが、起き抜けにソファに座りながら、タブレットに話しかけていました。楽しそうに人工知能との会話を試みるその姿は、どこかで見た近未来SF映画そのものでした。寝坊してぼんやりしていたこともあり、正直「未来が来た」という思いを強くしたのを、今でも覚えています。ところが年末に近づくと、最近まったくタブレットに話しかけていません。どうしたの、と尋ねてみたら、「うん、もうやめた。だってバカなんだもん」とニコニコしながら返されてしまいました。

 中西さんと私は、AIネットワーク社会推進会議に構成員として参加しています。そこでは、ネットワーク化されたAIシステムが社会に与える便益やインパクトを、私たちの社会がどう受け止めるべきか、検討を進めています。そこでは、専門家による警鐘も含め、潜在的または将来的なリスクについても、検討されています。

 しかし、前述した我が家の子どもたちを見ていて、AIシステムにとっての最大のリスクに気づきました。それは、シンギュラリティ(技術的特異点)を超えたAIが、人間の仕事を奪うことではありません。

 おそらくそれは、人間が本当に懸念すべき段階までAIが到達しない、ということではないか。そしてその理由は、そもそもデジタル化が足りないこと、そして、人間がAIの成熟の遅れに我慢できなくなること、ではないだろうか。

 機械学習・深層学習をはじめとした今日のAIは、言うまでもなくデジタルを基盤とした技術です。だからデジタル化が進まなければ、AIはそもそも「学習」できません。学習できないAIは、ただのアルゴリズムの塊に過ぎず、我が家の子どもたちから「バカ認定」され、放り出される。当たり前すぎて見過ごされがちな、しかし致命的な課題です。

 しかしその道のりが険しいのは、10月号で対談した高口哲平氏の研究からも明らかです。おそらく来年は、単なるAI脅威論ではなく、「AIがなかなか来ない」ことへの苛立ちとも、立ち向かわなければならなさそうです。

中西崇文(なかにし・たかふみ)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)准教授/主任研究員、デジタルハリウッド大学大学院 客員教授。筑波大学大学院システム情報工学研究科で博士号(工学)取得後、情報通信研究機構にてビッグデータ関連の研究開発に従事したのち、2014年4月から現職を務める。ビッグデータ分析、統合データベース、対話文脈分析、感性情報処理が専門。近著は『シンギュラリティは怖くない』(草思社)。

クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。クロサカタツヤ事務所代表。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや国内外の政策プロジェクトに従事。07年に独立。「日経コミュニケーション」(日経BP社)、「ダイヤモンド・オンライン」(ダイヤモンド社)などでコラム連載中。

【1】スマートスピーカー
AI技術による音声認識技術を活用し、言葉による指示で家電の操作やウェブ検索、ショッピングなどが可能なデバイス。2014年に登場したアマゾンのEchoは、すでに累計で3000万台以上を販売。グーグルやアップルだけでなく、LINEも追走している。

【2】画像認識技術が人間を上回った
スタンフォード大学が中心となって毎年開催する画像認識技術のコンテスト「ImageNet」において、2015年にマイクロソフトが認識率95・1%を実現し、人間の正答率95%を上回った。

【3】AIネットワーク社会推進会議
AIが普及した社会における便益やリスクを検討し、社会や生活への適切なAIの普及に向けた国際的な検討の推進を目的とした、総務省情報通信研究所が開催する有識者会議。中西さんとクロサカも、構成員として参加している。

【4】HFT
高頻度取引(High Frequency Trading)の省略形で、コンピュータを使って1000分の1秒レベルで超高速に株式などの取引を行うこと。政府や企業の発表による値動きをいち早くとらえて売買することで利益を上げること。現在では、投資会社や証券会社などによる取引の多くがHFTになっているといわれている。

【5】CRM
顧客関係管理(Customer Rela-tionship Management)の省略形。単に顧客リストを管理するだけでなく、過去の購買履歴やサポートとのやりとりなど、顧客に関するあらゆる情報を統合管理することで、継続的なセールスや適切なサポートなどの実現を目指したシステムのこと。

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