サイゾーpremium  > 連載  > 不定期連載「東京五輪1964-2020」【5】/プレ東京五輪で優勝した期待の自転車選手【大宮政志】
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不定期連載「東京五輪1964-2020」【5】

プレ東京五輪で優勝した【自転車選手・大宮政志】が語る東京オリンピック

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2020年に五輪開催を控える東京と日本のスポーツ界。現代のスポーツ界を作り上げ、支えてきたのは1964年の東京五輪で活躍した選手たちかもしれない。かつて64年の東京五輪に出場した元選手の競技人生、そして引退後の競技への貢献にクローズアップする。64年以前・以後では、各競技を取り巻く環境はどう変化していったのか?そして彼らの目に、20年の五輪はどう映っているのか――?

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おおみや・まさし

[自転車]個人ロードレース 36位

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1938年3月10日生まれ。岩手県岩手郡滝沢村出身。盛岡第一高等学校在学中に自転車競技を始める。高校3年時に、現在のインターハイである第1回全国高等学校自転車道路競走中央大会の個人・団体の部で優勝。日本大学進学後は全日本選手権優勝を収め、60年ローマ、64年東京五輪に連続出場を果たす。65年に競輪に転向し、96年58歳まで現役を続け、通算勝率は16・1%。引退後は昭和第一学園高等学校自転車競技部のコーチに就任し、若手選手の育成に力を注いでいる。


 2017年5月1日、自転車活用推進法が施行された。来るべき20年東京五輪を見据えてのものであることは言うまでもない。自転車産業振興協会の調査によると、日本の自転車保有台数は13年に約7200万台。人口に対する自転車の普及率は1人あたり0・67台で世界6位。自転車専用道路の整備が進んでいる、イギリスやフランスの0・38台を大きく引き離している。東京都内では区が主体となってレンタルサイクル事業も始まっており、こういった施策や数字だけを取り上げれば日本は立派な「自転車先進国」に見える。

 だが、御存知だろうか? 20年東京五輪の「象徴」とも言うべき、6万8000人収容の新国立競技場の駐輪場はたったの1カ所。しかもわずか95台しか収容できないことを。この状態は日本の自転車政策を象徴している。表面上はやっているように見せているが、実態が追いついていないのだ。せっかく20年東京五輪を口実に進めていくなら、実態を伴った自転車振興を行政には求めたい。

 そしてそれは、本当なら五輪の恩恵を真っ先に受けているはずの競技者にとっても、切実な願いになってしまっている。大宮政志は、自転車で駆け抜けた64年以前の東京を懐かしみながら口を開いた。

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「日大の自転車部に所属していた頃は、世田谷の合宿所からバンク(角度がついた自転車競技場の走路)がある後楽園まで、みんなで校歌を歌いながら自転車で走って通っていたんです。今じゃあ考えられないでしょうけど……」

 大宮は自転車ロードレースで、60年ローマ・64年東京五輪に連続で出場。その後は競輪に転向し、現役引退後は東京都立川市にある昭和第一学園高等学校の自転車部コーチを務めている。大宮が自転車競技を始めたのは高校生の頃、地元岩手県の新聞社が主催するレースに応募したことがキッカケであった。

「高校に入ってすぐはスケートのレースにも出ていたんですが、ちっとも速くならない。それで高校1年生の時に、知り合いに誘われて水沢~盛岡間70キロくらいの自転車レースに応募したら、初出場で優勝したんです。その頃は競技用の自転車ではなく、父親が乗ってた実用車と呼ばれる、いわゆる普通のママチャリを改造してレースに出ていました。今は道路も綺麗に舗装されていますけど、私が高校生の時は街道も砂利ばっかりで砂埃も凄くて、雨水も下に浸透しない。自転車の乗り方を教えてくれる人もいなかったので、そんな道を我流で走ってトレーニングしていました」

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五輪ロードレース開催のために、八王子市の道路は舗装された。

 スケート選手が夏場に自転車でトレーニングを積むことは有名だが、大宮はその逆パターン。本人は「スケートは速くなかった」と謙遜するが、故郷の岩手県滝沢村(現・滝沢市)の豊潤な自然に囲まれた環境が、後のオリンピアンを生みだしたことは間違いない。その後も岩手県内の大会で優勝を収め続けた大宮は、高校生ながら岩手県代表として宮城県の河北新報が主宰する、東北一周ロードレースに選抜された。だが、そのコースは現代では考えられないほど過酷なものであった。

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