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町山智浩の「映画がわかるアメリカがわかる」第119回

『バリー・シール』――トム・クルーズが演じる麻薬売人を殺害したのは誰だ?

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『バリー・シール』

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70~80年代、天才的な飛行操縦士は麻薬の密売に手を染め始めた。そこに目をつけたのがCIAと麻薬カルテル。やがて、大量の麻薬密売に手を染めた操縦士は逮捕され、囮捜査に協力するが……。

監督:ダグ・リーマン、主演:トム・クルーズ。10月21日全国公開。


 トム・クルーズはいつも白い歯を見せて微笑んでいる。愛想を振りまいているのか。加齢で口角が下がるのに逆らっているのか。状況と無関係にさわやかに笑っている彼がヤバイ薬でもやってるように見えてくる実録映画が『バリー・シール』だ。

 バリー・シールは実在のパイロット。16歳でライセンスを取ったほどの操縦の天才だった。その彼が80年代、アメリカにコカインを蔓延させた。

 70年代後半、バリーは民間の大手航空会社TWAに勤務しながら、少しずつ中米からの密輸入に手を出した(映画ではキューバ葉巻だが実際は大麻)。それを知ったCIAとコロンビアの麻薬カルテルから運び屋としてスカウトされる(どちらが先かは諸説あり)。

 CIAは当時、中米ニカラグアに成立した社会主義のサンディニスタ政権を潰したかった。しかしベトナム戦争で懲りたアメリカは、軍事介入したがらない。そこで反サンディニスタ軍コントラを組織して資金と武器を援助した。その武器を運んだのがバリーだ。

 手口はこう。高性能の小型機にソ連製のAK47ライフル(アメリカの関与がバレないように)を満載してニカラグア政府軍の銃撃をかいくぐって、ジャングルに作られた凸凹で短い滑走路に命がけで着陸する。帰りはコロンビアから出張してきたメジシン・カルテルのコカインを積み込む。1キロ運べばバリーには2000ドル入る。それを飛行機が離陸できる重さの限界まで載せて、レーダーに引っかからない超低空でニューオリンズの海底油田の間をすり抜けてアメリカに入国、空からコカインを投下して、地上部隊がキャッチする。バリーの乗る飛行機は彼が住むアーカンソーの人口わずか5000人の田舎町メーナの飛行場に着陸する。仕事の量は増え続け、バリーは飛行機を買い足し、パイロットを増やし、ほとんど運輸会社みたいになっていく。その途中でCIAのために中米の反米政権事情をパナマのノリエガ将軍から買う「おつかい」もやらされた。

 この稼業でバリーが1983年までに稼いだ額は最大50億ドル(当時)といわれる。

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