>   >   > 【下流老人】を増加させる自己責任論
連載
神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第120回

【神保哲生×宮台真司×藤田孝典】下流老人を増加させる自己責任論と自治体の思惑

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]
藤田孝典[NPO法人ほっとプラス代表理事]

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高齢者の貧困は、深刻な社会問題となっている。(写真はイメージ)

若者や子どもの貧困が取り沙汰される時、決まって「悠々自適な年金生活を送る老人たちが、社会保障財源を食いつぶしている」ことにその原因の一端があると指摘されることが多い。しかし、現実には老人の貧困が、深刻化の度合いを増しているという。今回はNPO主宰者をゲストに迎え、普段見えづらい「下流老人」について議論してみたい。

神保 今回は老人の貧困問題をテーマに議論したいと思います。最近、巷では、子どもや若者の貧困という話をよく耳にするようになりました。それはそれで重要な問題ですが、同時に、それを解決するためには、根っこにある、高齢者の貧困問題を手当てしなければならないのではないかというのが、今回の企画意図です。なぜならば、言うまでもなく高齢者は人口が多く、投票率も高いため、政治力がある。政治力のある高齢者たちが将来不安を抱えたままの状態では、若年世代への所得移転も起きにくいと考えられるからです。

宮台 子どもの貧困問題よりも先に、下流老人が話題になったという記憶があります。下流老人について言えば、今の70歳と20年後の70歳とどちらがハッピーに暮らせるのかを思えば、時間がたてばよくなっていくとは到底思えません。さて、今の10歳と10年後の10歳と、どちらがハッピーに暮らせるのかということです。

神保 ゲストはNPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典さんです。『下流老人』(朝日新書)という本でも有名で、この言葉は2015年の新語・流行語大賞にノミネートされています。この本を書いたとき、20万部を超えるようなヒットになると予想していましたか?

藤田 まったく予想していないですね。現在では翻訳されて、韓国、台湾、中国でも読まれています。アジアの多くの人たちが、高齢者の貧困問題というのが次に来るだろうということで、非常に注目しているような状況です。

神保 なぜこの本が爆発的に売れたのだと思いますか?

藤田 後から考えると、団塊世代の方がすべて高齢期に入ったということです。高齢者の層が非常に分厚くなっているという状況で、当然、年金に対する不安を抱える人も増えているし、その親世代が介護を受けるようになってきている。あるいは子どもが非正規雇用であったり、老後が不安定化しています。なので、自分ごととして初めて、貧困、生活問題と向き合ったという感想を多く頂いています。

神保 藤田さんはもちろん、若者の貧困問題も非常に重く見ていて、『下流老人』に続いて『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社現代新書)という本も出されていますが、最初に高齢者にスポットを当てようと考えた理由は?

藤田 まず、私たちのもとに相談に来る方が、リーマン・ショック前後で一変したのが大きい理由です。それ以前は、不安定雇用であるとか、日雇い労働であるとか、そうしたところで貧困に陥らざるを得なかったと想像できる方たちが、多く相談に来られていました。しかしリーマン・ショック後は、はっきりと、いわゆる普通の人たちが相談に来るようになったんです。それも上場企業で働いていた人であるとか、まさか困窮するとは思っていなかった方たちの相談が、急速に増えていった。その背景に何があるんだろうかということを分析していくと、企業の福利厚生が削られてきていたり、子ども世代が親に依存しなければならなくなっていたり、また介護費用が非常に高かったりと、さまざまな面で大きな危機感を持つ状況がありました。若い世代より人口も多いですし、現場の相談を受けて、先に高齢者の貧困を取り上げようと考えたんです。

 高齢者は悠々自適で、年金をもらっていれば大丈夫だろう……というイメージが、まだあると思います。しかし、年間500件の相談のうち約半数が高齢者で、年金自体がほとんど社会保障の役割を果たしていないと言っていいような状況の中で、次にはもう雇用が不安定で年金も払っていないという世代が控えている。さらなる状況の悪化は目に見えており、今のうちに警告を発しておきたかったんです。

神保 相談に来る方々の中でも、高齢者の方々は特に状況が悪いんですか?

藤田 そうですね。うちに相談に来られる方は、病気や障害を持っていたり、あるいは要介護状態だったりすることが多いです。なおかつ身寄りがなかったり、借金があったりする。そういう複合的な課題を持っている方も非常に多く、これが若者であれば、家族がなんとか面倒を見ていたり、支援できる余力が残されているという状況もあるのですが、高齢者の方は人間関係からも遮断されています。

宮台 1990年代末から2000年代初頭にかけて「パラサイト・シングル」という言葉がはやりました。団塊世代の親を持つ子ども──団塊ジュニア世代──なら、まだ親に“かじるスネ”があって、パラサイト(寄生)できました。しかし、団塊ジュニアも、すでに40代前半です。引きこもりも多いと聞いていますが、その親の団塊世代も70代に入っています。
神保 山田昌弘(「パラサイト・シングル」の命名者)先生が来たとき、そう言っていたね。「まだかじるスネがある」と。

宮台 そう。当時は、高齢者が死ぬと、平均2 000万円近くの預金を残していました。今でも統計的には平均1200万円弱を残すとされています。でも、あくまで平均の話で、分布や分散は教えてくれないのですが、この数字だけを見ると「若者と違って高齢者は楽チンじゃないか」と思えてしまうし、ついこの間までそんなイメージがありました。だから、去年「下流老人」という言葉が話題になった際、「え?」という感じがあったのですね。

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