サイゾーpremium  > 特集3  > 『HiGH&LOW』は〈国産の海外映画〉である。そのワケとは?
第3特集
2016年一番の怪ヒット!? 『HiGH&LOW THE MOVIE』大研究【2】

『HiGH&LOW』は〈国産の海外映画〉である。"EXILEへの偏見"が、かえって映画への没入を加速させた!

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――今夏、元来のLDHファンのみならず、一部の層にやたら突き刺さった映画『HiGH&LOW THE MOVIE』。その概要はこちらの記事で紹介した通りだが、では一体、何が我々をそんなに惹きつけたのか……? ヤンキーマンガや映画を長年見続けてきたライター・藤谷千明氏と、アクション映画やバイオレス映画に造詣の深いライター・加藤ヨシキ氏が、その理由を戸惑いながら分析します。なお、同席している担当編集は重度のLDHヲタです。

【鑑賞POINT・1】『HiGH&LOW THE MOVIE』は〈国産の海外映画〉

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どうやって人に勧めたらいいかわからない。「HiGH & LOW SEASON 1 完全版 BOX」

加藤 この作品を語るときに難しいのが、「ココがすごい!」的なとっかかりがわからないというか、人にすすめる時に「何から話せばいいのかわからない」と悩んでしまう。なんというか、LDH国からやってきた「国産の海外映画」みたいな印象があるんですよ。日本の映画なんですけど、LDH国の文化や価値観でできている感じというか。

藤谷 わかります。EXILEに対する先入観、悪く言えば偏見がうまく作用としたというか、どんなに素っ頓狂な設定でも「これはEXILEという一族(EXILE TRIBE)の神話世界の話なんだ」という精神的な距離感があった。つまり、ある意味「偏見」があったからこそ没入できたのかもしれません。

 映画として最初にインパクトがあったのが、まずアクションですよね。冒頭からトラックが派手に突っ込んできて、スラムが勢い良く爆発する。大画面でそれを見て、そこで頭を殴られるような衝撃を受けたわけで。

加藤 そう、あれはすごかった。アクション映画は、ガツンと来るオープニングが大事だと僕は思ってるんですよね。『マトリックス』の最初のマシンガン撮影なんかがまさにそうだったように。そういう意味では久しぶりにオープニングからガツンと来たな、と感じました。しかも、おそらく日本のどこかなのであろう商店街が映って、なんの説明もなくカットが切り替わったら「無名街」という、カエルの串刺しを露天で焼いてるようなスラム街に移る。普通はその間で説明を置くでしょう。それがまったくない。

藤谷 「こういうシーンを撮りたい、観せたい」という強い意志を感じますよね。リアリティをぶっちぎっても観せたい世界観がある。

加藤 そう、とにかく作り手側の強い意志は感じるんですよ。でも、例えばこれが『シン・ゴジラ』だったら、庵野秀明という男の強い意志が作り上げた一本の槍みたいな映画ですよね。そういうふうに作り手の意志がすごく出た映画を「とんがった映画」と表現しますが、『HiGH&LOW』はおそらく監督・アクション監督・俳優陣全員がそれぞれに強い意志を持っていて、個人単位で好きな方向に尖がっている。その結果、尖がっているポイントが多すぎてウニみたいな映画になっているんだと思います。トゲが多いぶん、観客によって刺さる部分もバラバラみたいな。もちろん、興味のない人が観たら「なんだ、このトゲトゲは」みたいな印象を受ける映画でもあるってことなんですけど。

藤谷 それは出演者の布陣にも表れてますよね。LDHだけでなく、ナベプロからホリプロ、スターダストという大手芸能事務所の俳優からVシネ常連の俳優まで、ラッパー、ビジュアル系、K-POP……とジャニーズ以外は全部抑えているのではないかという。意外なところですと、脚本家のひとり、渡辺啓は元グレートチキンパワーズだったり。サウンドトラックまで含めたら、もう収拾がつきません。

加藤 そして次回作『THE RED RAIN』では岩城滉一、石黒賢、飯島直子。ジャニーズはおそらくいろいろ制約があるだろうから呼べないとは思うんですけど、本当にどのジャンルからも出ている。

藤谷 強い意志は感じるんですけど、その意志で何をやろうとしているのか未だにわからないのも魅力かな、というのはありますよね。

加藤 『HiGH&LOW』は「全員主役」が売り文句になっていますが、それって主人公不在ともいえるわけで、つまりひとつの物語がないってことですよね。例えば『バットマン』だったら、主人公であるバットマンの行動と、彼がたどる物語を通じて訴えたいことが表現される。主人公がヒーローでも一般人でも、ひとつの個人の物語があれば、「あぁ、こういうことを訴えたいんだ」「こういうことがやりたいんだ」と伝わるんですけど、それがない。誰が主人公かわからないっていうのは、どうオチがつくのかわからない、っていうことなんですよ。

藤谷 だから、この映画に批判的な立場を取る人は、ストーリーや演技の粗云々はもちろんですが、「何がやりたいかわからない」のが気持ち悪いんじゃないでしょうか。

加藤 しかもそれに反論するべき、擁護する側もこの物語がどこを目指しているかイマイチわからない。それはもう、結論が出ないに決まってますよ。

【鑑賞POINT・2】「村を焼かれた窪田正孝」

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村を焼かれた窪田正孝

藤谷 実は私は、リアルタイムでドラマシリーズを観たときは最初ピンとこなかったんです。たとえばシーズン1の第1話で、山王連合というチームの総長・コブラの独白があったかと思えば、すぐチハルの加入の話になって、次は鬼邪高校の話があって、そこに雨宮兄弟がいきなり現れたけど話には直接絡まないし……って、次々と自己紹介をしている印象を受けてしまって。主人公が誰かわからない状態で、場面が変わりすぎていたから、話が追えなくて。「ローリングストーン」誌の『HiGH&LOW』別冊特集を読むと、映画『スナッチ』を意識しているとのことでしたが、それであんなにコロコロ変わっていたのかしら……? ともかく、じゃあそのドラマ番にノレなかった私がなぜ映画版で手のひらを返したかというと、冒頭の無名街爆発からの怒りに燃えるスモーキー、窪田正孝の演技だったんですよ。「村を焼かれた窪田正孝」って呼んでますけど(笑)。

加藤 あれはすごいですね。役者の力と監督の撮り方の力だと思う。あそこで納得させられちゃいますよね。

藤谷 スモーキーはあのくだりでほぼ喋ってないし、表情すら髪で見えていない時もあって、佇まいだけで「演技」をしてるんですよ。まずあれを冒頭に持ってきてたことによって引き込まれたというのはあります。この作品ってLDH以外の俳優もすごく魅力的に撮ってるんですよね。だから「全員主役」というのは嘘ではなくて、出演時間は少なくとも、SWORDの全員の見せ場がきちんとある。達磨一家なんて、冒頭で琥珀にやられているシーンと日向の帰還、そして例のボンネットシーンくらいなのにものすごいインパクトがある。

加藤 いろいろなインタビューを読むに、みんな現場で自分たちでセリフを考えたり仕草を考えたという話があるので、役者たちが楽しく演じている感じと、ほかのドラマでは見られないような面がすごく出ていて、それが作品の魅力に繋がっていると感じました。林遣都さんなんかも、今回は爽やかじゃない役をいきいきとやっていて良いですよね。

藤谷 「達磨通せや」だけで全部持って行ってますもんね。鬼邪高校の番長、村山役の山田裕貴さんはデビュー作の『海賊戦隊ゴーカイジャー』のゴーカイブルー役の印象が強かったんですけど、彼も良かったです。

加藤 観客の印象に残りましたよね。

藤谷 LDHに所属していない俳優を「脇役」にしてしまうのではないところも、「全員主役」というコンセプトを守ってる。これはプロフェッショナルに対する信頼もあるのではないかと思うんです。たとえば、チームのロゴは7STARS DESIGNという裏原系のファッションやCDジャケットをやっているデザインチームが手がけているんですよ。こういうところで手を抜かずに一流どころに任せているというのは、プロフェッショナルに対する信頼なのでは。

加藤 HIROさんの自叙伝『B-BOYサラリーマン』に、EXILEのボーカルを決めるエピソードがあるんですけど、HIROさんは「俺は歌のことは全然わかんないから」って普通に書くんですよ。「わからないけどATSUSHIはすごい」みたいな話になってくるんです。そこを踏まえて考えると、HIROさんの中にある「自分が門外漢のことはプロを信頼する」という信条が、「俺はデザインのこととかわからねぇ、だから一流のデザイン事務所呼んでこよう」とか「すごいアクション撮れるやつを呼んでこい」「じゃあすごい演技できるやつ呼んでこい」っていう形で『HiGH&LOW』でも踏襲されているのかもしれないですね。

【鑑賞POINT・3】中二病の考える〈夢の共演〉

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「クローズEXPLODE」には、岩田剛典、ELLYらLDHの面々も出演した。

藤谷 画のインパクトは強いんですけど、どこかで見たような設定が多いのも特徴ですよね(笑)。鬼邪高校は『クローズ』や『ギャングキング』ですし、『新宿スワン』の主人公の思想をもっと先鋭化させているのがWhite Rascalsだと思う。無名街みたいな無国籍なスラムも、『スワロウテイル』から『ハンターハンター』に至るまでよくあるでしょう。この「どこかで見たようなもの」の寄せ集めなのに、すごく魅力的なのが不思議で。まあ鈴蘭やバラ学と流星街が当時に存在してる作品なんて、普通は思いつきませんけど。

加藤 だから「夢の共演」感があるんですよね。本来なら絶対に交わらない世界観のものが同時に存在していて、それぞれが戦うというところに魅力がある。たとえばマンガでいうと『クローズ』と『スプリガン』はぜんぜん違う世界観ですよね。その主人公同士が戦うことはありえませんけど、僕は子どもの頃とか「もし坊屋春道と、スーツなしの御神苗優が戦ったらどうなるんだろう?」みたいなことを考えたわけですよ。でもそれは正気の沙汰だったら絶対実現しない。それが実現してしまっているのが『HiGH&LOW』。

藤谷 完全に「中二の夢」ですよね。


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