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【premium限定 短期集中連載】「マッチョ」と「ヘタレ」で斬る!現代格差論 第1回

“意識高い系”が痛いのはバブル崩壊の産物だから!? マッチョ主義からヘタレ中心主義の転換が日本を救う

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――「格差」が社会論の中で常に中心におかれ、「勝ち組/負け組」というキーワードが一般化した昨今。政治、経済、文化などなど、現代社会における人間のあらゆる営みで生じている、ゆがみやきしみ、構造不全、機能不全といった諸問題を、マッチョとヘタレという視点で整理し、解決の糸口を探っていく本連載。第一回目となる今回は、まず、マッチョとヘタレとはいったいどういうものか?について整理していきます。

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弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂 (講談社現代新書) 

クロサカタツヤ(以下、クロサカ) 「マッチョ」と「ヘタレ」という視点から、現代社会を斬っていこう……という対談なワケですが、まずは概論というか、マッチョとヘタレとはそもそもどういう存在で、どんな関係性にあるのか、といったところを整理してみましょうか。

境 真良(以下、) そうですね。もともとはサイゾー本誌のクロサカさんの連載(クロサカタツヤのネオビジネスマイニング)に出させていただいたときに(サイゾー2014年7月号)、僕が持ち出したのが「マッチョとヘタレ」というアングル。ものすごく平易に言ってしまうと、企業経営者や組織のリーダー、政治家や政府のエリートなど、いわゆる“支配層”とか“エスタブリッシュメント”がマッチョ。で、それ以外の市井の人々──僕はわかりやすいから、あえて“中産階級”と言っているんだけど──がヘタレであると。

クロサカ 一部のエスタブリッシュメント層と、その他大勢の中産階級以下の人々という構図は、従来からあったんですよね。

 そう。ただ、以前は“マッチョの作法”というか、強者のつつましさみたいなものがあったんですよ。たとえある種のポーズだとしても、マッチョであることをひけらかさないというか、一定の節度を持ち合わせていた。

クロサカ マッチョはマッチョなりの“業”みたいなものをわきまえていたし、ヘタレはヘタレで「まあ、そういう格差的なものは存在しているし、俺たちは俺たちなりの役割をまっとうして、身の丈に合った幸せを追求すればいいよね」という生き方ができたんです。一億総中流意識に代表されるように。

 でも、そうしたマッチョの作法とか、ヘタレとしての生き方みたいなものが、この20~30年くらいの間にどんどん変質していったと僕らは考えていて。その原因は何なのか、これからどうなるのか、といったことをちゃんと整理しなきゃいけないよね……というのが、僕らの問題意識であると。政治、経済、文化などなど、現代社会における人間のあらゆる営みで生じている、ゆがみやきしみ、構造不全、機能不全といった諸問題。それらについて論考し、何かしらの活路や解決策を見出すうえで、マッチョとヘタレという視点は非常に有効であると思うんですよね。

バブル崩壊がきっかけ!? 露骨になった勝ち組/負け組の対立軸

クロサカ マッチョとヘタレの変質は一面的に語れるものではないですけど、ひとつの契機になっているのは、やはりバブル崩壊だったかなと考えます。

 たしかに。80年代までは、マッチョがえげつないまでに目立つような光景はあまりなかったんですよ。このころまでは、マッチョの作法、節度があった。ところがバブル期に突入して、日本社会、日本経済が幻想に包まれたあたりから、ちょっと様相が変わってくる。バブルの頃は「全員勝ち組」みたいな不思議な空気感に包まれていたんですよね。

クロサカ 日本全体が、露骨なマッチョ志向に傾いていった時期でしょう。

 そうですね。僕はこの時期、支配層というか制度をつくっている側の人間たちが、マッチョ至上主義的な仕組みや価値観をあざとく導入したと考えています。要するに、徹底した優勝劣敗の世界、ごく一部の勝ち組が主役になる時代です。勝ち組から負け組が搾取される世界といってもいいですかね。バブル期は、日本全体が世界の中の勝ち組になった。それで、日本全体が浮かれてマッチョ的になっていたから、本来負け組になるはずの側も気づかなかっただけで。

クロサカ ところがバブルが崩壊してみると、「あれ? もしかして俺たち、実は勝ち組から搾取されていただけなんじゃね?」「気がついたら負け組になっていた!?」と、多くのヘタレが感じるようになった。

 そう。バブル崩壊後、グローバルスタンダードだ! 実力主義だ! 自己責任だ!……なんてことが喧伝されるようになった。「それが資本主義であり、世界規模の市場経済なのだ」みたいな論調が、小泉政権が終わる2006年あたりまで跋扈するようになる。それは否定しないのだけど、「それだけ」だった。

 ところが、不良債権処理に代表される小泉政権の荒療治が終わってみると、そこに残っていたのは震えが来るような格差社会だった。ホームレスとか非正規雇用、就職浪人なんて問題が取り沙汰されるようになったのもこの時期から。

クロサカ それで、カウンター的な動きが盛り上がるかといえば、意外にそうでもない。「結局、優劣なんでしょ」「まあ、俺たちは慎ましく生きていくわ」と、諦観じみたものに包まれた社会が出現して、いまに至っている印象です。

 ヘタレ側も競争を是認しているんですよね。でも、そこで「成り上がってやるぜ!」みたいな人材がほとんど出てこない。みんな、いちおう頑張る気はあるんです。競争だというのもわかっている。本当のヘタレなら、勝ち組を見ながらぶら下がって生きてやろうみたいに思うはずなんだけど、マッチョ主義がいい意味で伝染したのか、それで、泣きたい気持ちを抑えながら懸命に生きている。でも、その視界範囲だけど、目の前の一歩……せいぜい十歩先くらいのことしか見ようとしていない。人類の歴史的に見て、こんなバランス感覚の中産階級が存在しているのって、現代の日本くらいかもしれません。

 一方で、マッチョ側の人間もえげつないんですよね。「俺はスゴイ」みたいなブランディングで臆面もなく勝者の論理を語り、目の前の十歩を精一杯生きているヘタレに対して、ものすごい上から目線のメッセージを投げかけてくる。ヘタレの大半は、その姿に苛立ちながらも基本的には黙っているんです。たまにネットで茶化したり、ディスったりする程度で。まあ、一部のヘタレは、マッチョワナビーとして勝者を信奉し、“意識高い系”みたいな声だけは妙に大きい層になったりしますけどね

クロサカ で、教祖様たるマッチョが小賢しく展開する信者ビジネスの餌食になってしまったり……。それにしても、昔のマッチョ──たとえば経営者は「従業員の皆さんあっての自分」みたいな慎ましさを持っていました。いや、実際は勝者の論理で弱者を切り捨てたりすることなんていくらでもあったんだけど、表向きは一貫して「弱者の皆さんがいてくれるからこその勝者」みたいなポーズを崩しませんでした。それが、マッチョの節度だったワケで。

支配層に支配されるのではなかく、ツッコミを入れながら従うヘタレの作法

 大事なのは、日本が中産階級主義だということを改めて確認することだと、僕は思う。言うなれば、日本はヘタレ中心で構成された、ヘタレ国家なんです。もちろんグローバリゼーションの中で、競争は厳然と存在しているし、勝ち組たるマッチョがいてくれないと国家が成り立たないのは事実。ただ、マッチョとヘタレの健全な関係性ということで語るなら、マッチョはコミュニティのエッジの部分に前を向いて立ち、進むべき道を切り拓いて、後ろに続くヘタレたちをより良い場所に導くのが仕事。間違っても、先頭から振り向いて、ヘタレたちに対して「どうだ、俺スゴイだろ!」と圧倒し、力をひけらかす存在であってはならない。

クロサカ ヘタレ側も、そういう勘違いしたマッチョに対して「おいおい、それはちょっと違うだろ」とツッコんで、妙な方向に進もうとするのを止めなきゃいけないんですよね。その意味で、一見、マッチョが主でヘタレが従に見えるんだけど、実際はヘタレが主でマッチョが従なんですよ。

 優秀なヘタレとして、どうマッチョを使ってやるか……みたいな方向に意識を向けなきゃマズイ。「実はオマエの主人は俺たちなんだぞ」と、ヘタレはマッチョに改めて認識させなきゃいけないタイミングに来ていると思います。

クロサカ 昔の経営者は、そのあたりのことを理解して、上手に振る舞っていましたよね。

 マッチョがヘタレを率いているんじゃない、ヘタレがマッチョに率いさせてやっているんだ、という主観的な構図を理解したうえで、組織構築や会社経営に当たっていたんじゃないかな。マッチョがヘタレにへりくだるほうが何かとうまくいくし、そのほうが自分の立場も守れるという計算ができていた。だからこそ、従来の日本企業は「みんな家族!」「入社したら死ぬまで面倒をみますよ! 冠婚葬祭、ぜんぶ会社がサポート」なんて組織を構築したんです。そして、そういう世界観が土台にあったから、経営者が社員に多少無理を強いたとしても、「でも、家族じゃないか!」と言われてしまったら、なんとかく「お、おう」と返すしかない関係性が築けたともいえる。このアングルを間違ってしまうと、「お、おう」では収まらず、「ふざけるな!」となりますよね。

クロサカ もうひとつ、視点を加えてもいいですか。ヘタレが疲弊して、追い詰められて、大人しくなってしまっている現状について、僕が一因として考えているのは、所得と資産の再分配が十分に機能していないこと。

 先ほどバブル期の話をしましたけど、当時、地上げが問題になりましたよね。住み慣れた場所から離れなきゃいけないとか、住人を追い込むようにして話を進めたとか、看過できない問題点はあったとは思いますが、一方で、住人はタダで追い出されたワケじゃないんですよね。狭い土地のボロ屋に1億円とか、けっこうな金が動いていた。それも現金で。極論を承知で言ってしまいますけど、いまから見れば、そんなに悪い話でもないですよね。実は、それなりに再分配も機能していんじゃなかろうかと。

 そういう側面はあったかもしれない。

クロサカ でも、現在はどうも再分配がうまく機能していない。少なくともそれに、先細り感が強くなっている。同世代同士の再分配だけじゃなく、世代を超えた再分配も、機能不全のように見えます。そうして、ヘタレがヘタレ感をより強くしているというか、どうあがいても抜け出せないような、複合的な抑圧感、格差感を募らせてしまっているように思うんです。

 格差といってもいろいろあります。経済格差、世代間格差、地域間格差などなど。そうした格差が、非常に明確になってしまっているのがいまの社会です。そうした格差要素が複合的にのしかかってきて、「俺、これからどうなっちゃうんだろう」という茫漠感にヘタレが苛まれている。そんな中で、ひとつでもヘタレ的ではない要素が自分にあると、これで俺は勝てる、とすがってしまう傾向が強くなっているように感じるんです。だから、「俺はヘタレじゃないんだ!」と声高に強調するような人が増えてしまったのかもしれません。いやいや、ヘタレが無茶をしてまでマッチョになる必要はないんですよ。

 そうそう。僕は“ヘタレ中心社会”こそが、次の時代のグローバル倫理になると思っているくらいです。

クロサカ おぉ、面白いですね。そのあたりのことも踏まえて、次回からは各論的な話題を掘り下げていきましょう。今回は概論というか、大掴みな話に終始してしまったので。

 そうですね。

(構成/漆原直行)


境 真良(さかい・まさよし)
1968年、東京都生まれ。経済産業省国際戦略情報分析官、国際大学GLOCOM客員研究員。経済産業省に本籍を置きながら、産官学それぞれでコンテンツ産業や情報産業、エンターテインメント産業の研究を行う。このほど、『アイドル国富論: 聖子・明菜の時代からAKB・ももクロ時代までを解く』(東洋経済新報社)を上梓。そのほかの著書に『テレビ進化論』(講談社現代新書)、『Kindleショック』(ソフトバンク新書)など。

クロサカタツヤ(くろさか・たつや)
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。クロサカタツヤ事務所代表。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや国内外の政策プロジェクトに従事。07年に独 立。「日経コミュニケーション」(日経BP社)、「ダイヤモンド・オンライン」(ダイヤモンド社)などでコラム連載中。

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