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連載
町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第19回

カード社会アメリカの笑えない借金地獄ぶり

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【今月の映画】

0905_machiyama.jpg『マックスト・アウト』
(原題:Maxed Out)
学生でも、失業者でも、カード破産者でも、いまや誰でも簡単にローン契約ができてしまうアメリカ社会。カード業界が潤う一方で、クレジットカードの限度額を使い果たした若者が借金を苦に自殺するなど、深刻な事態に発展している。そんなカード業界と金融界の闇を、地道な取材をもとにまとめた、衝撃のドキュメンタリー映画。監督・脚本/ジェームズ・スカーロック アメリカでは06年に劇場公開、現在はDVDが発売中

 4月からテレビを始めます。私、町山智浩が選んだアメリカのドキュメンタリー映画を、オセロの松嶋尚美さんに見せながら解説する番組です。映画は基本的にノーカット、前後編の2回に分けて放送します。

 この号が出る頃には放送済みの1本目は『ウォルマート/世界一の巨大スーパーの闇』。2本目(4月19・26日放送)は『イエスメン/グローバリズムと戦うお笑いテロリスト』。『ウォルマート』も『イエスメン』も「サイゾー」の連載で紹介した作品だけど、やっと日本でも観られます。

 そして3本目(5月3・10日放送)は、『マックスト・アウト Maxed Out』。タイトルは「限度額の上限まで借金した状態」という意味。サラ金用語でいえば、「天井張り付き」「借金で首が回らない」ってやつ。アメリカの借金地獄をルポした映画だ。

 アメリカはクレジットカード社会。マクドナルドでハンバーガー食べてもカードで支払う。カードの履歴(クレジット・ヒストリー)はその人間の信用度。この履歴が悪いとアパートを借りるのは難しいし、住宅ローンの利子は高くなる。

 1997年、オイラがアメリカに来た当初は、カード履歴がゼロだから大手銀行はカードを発行してくれなかった。やっと取得できたのは、金利2割以上、限度額月たった5万円というアコギな会社のカードだけだった。これを2年くらい毎月ちまちま借りて返して少しずつ信用度を築いてから、やっと大手のカードの査定に合格した。

 ところが、00年頃から急に、誰でも簡単にカードを持てるようになった。学生でも、失業中でも、カード破産者でもだ。「悪い客」ほど儲かることにカード業界が気づいたからだ。

「いい客」は少ししか借りないし、すぐに返すので、利子も最低限しか取れない。しかし、「悪い客」は返せる見込みなく借りて期限を過ぎても返せないから、延滞料や違約金を課し、利子も高くできる。同じ1000ドル(10万円)貸しても、「悪い客」からはその何倍もふんだくれる。

 カード業界は「悪い客」に群がった。借金で首の回らない者に「ウチが借金をとりまとめましょう」と持ちかけ、永遠に金を返し続ける無間地獄に引きずり込む。破綻した客の債権を業者は競売にかけられ、それを買い集めたハイエナのような回収業者が執拗な催促で借り手を追い込んでいく。

 要するに、闇金のヤクザがやっていたシノギを、大手の銀行や金融業界が横取りしたわけ。この時期に大手銀行ウェルス・ファーゴが全米最大の街金チェーンを傘下に収めたのは、実に象徴的だ。

 これを可能にしたのは、カード業界から莫大な政治献金を受けたブッシュ政権と、上下院を多数支配する共和党だった。共和党は、大学内におけるカード勧誘を合法化しただけでなく、05年には「破産濫用禁止法」を可決。これで、定職のある中産階級は、いくら借金を抱えても自己破産できなくなった。仕事がある限り、永遠に搾り取られ続ける。

 かくして人口3億人のアメリカでは15億枚ものカードが所有され、08年、国民のカード負債総額は95兆円に達した(日本国の一般会計予算は84兆円)。アメリカの世帯平均貯蓄額はマイナス90万円(日本は約1500万円)。カード業界は、06年までの5年間に4割以上増益した。この不況下で、09年中には全米のカード所有者の10人に1人がカード破産に陥ると予測されている。

「貸しまくり」はカードだけじゃない。この映画は05年、住宅バブルの絶頂で撮影されたが、ラスヴェガスの不動産業者が登場し「今は貯金がなくても、将来、家の価格が値上がりする分を担保に、銀行が住宅ローンを貸してくれるのよ」と微笑む。これはサブプライムだ。この直後、バブルははじけ、不動産価格は暴落した。サブプライム債権は証券化されて全世界の金融業者に売られ、金融メルトダウンを引き起こした。その破局を『マックスト・アウト』は見事に予言した。

 この映画は、アメリカ人が借金に麻痺した理由として、アメリカという国家自体が「マックスト・アウト」だからだと指摘する。80年のレーガン政権からアメリカは、際限なく国債を発行して借金を重ねてきた。そして、ブッシュ政権の大企業や金持ちへの無茶な大減税とイラク戦争による軍事支出で、財政赤字は史上最高の1100兆円(国民1人当たり360万円)を超えた。

 現在、米国債の5割近くが外国の所有であり、国民の血税は福祉や教育には回らず、借金の返済に充てられる。アメリカは、いつ債務不履行宣言してもおかしくない。そうすれば米国債保有国のトップは中国で、2位は日本だから、アジアの経済は崩壊する。

 こんなふうにゾっとさせられるドキュメンタリーを次々に紹介する番組『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』は、TOKYO MXテレビで毎週日曜日夜23時から......って『ガキの使い』の裏じゃん!

まちやま・ともひろ
サンフランシスコ郊外在住。『〈映画の見方〉がわかる本』(洋泉社)など著書多数。TOKYO MXテレビ(日曜日23時〜)にて、『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』が放送中。tomomachi@hotmail.com


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