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第1特集
【2020年代のロシアの権力観】帝国時代から変わらない権力観

法ではなく、人による統治が優先 ロシアが社会主義国に見える理由

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1991年12月25日、ゴルバチョフ大統領が辞任し、旧ソ連は崩壊。しかし、大統領制へ移行したロシアが、いまだに社会主義国のように見えるのはなぜだろうか?ウラジーミル・プーチン大統領の長期政権、それも独裁とも呼べる体制が続いていることが、その一因かもしれない。しかし、この地の歴史をひもとくと、支配者と国民の間には他国では見られない「いびつな絆」が浮かび上がってくる……。

第二次世界大戦後、激烈な覇権争いを演じた米国とソビエト連邦(以下、旧ソ連)。197
0年の大阪万博では、両国のパビリオンが人気を二分するほど、超大国同士は宇宙開発などでしのぎを削っていた。しかし、80年代に入ると社会主義陣営の国々が急速に崩壊し、91年に旧ソ連は消滅した。

そこからロシアは社会主義を脱したはずだったが、ウラジーミル・プーチン大統領率いる政権が長期化し、政権に歯向かった人物が次々と不慮の死を遂げることなどから、世間ではいまだに社会主義・共産主義のイメージが強い。冷戦から30年以上が経過しているにもかかわらずだ。

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モスクワの赤の広場に立つ聖ワシリイ大聖堂。この建物ができたツァーリの時代から、この地の権力観は続いている。(写真:Getty Images)

その歴史をたどると、そこには根深い権力問題が潜んでいるという。どういうことなのか? 『ロシアとは何ものか 過去が貫く現在』(中央公論新社)などの著作がある、東京大学教授の池田嘉郎氏に話を聞いた。

「ロシアが今でも社会主義のように見えるのは、権力のあり方が変化していないことが大きいと思います。日本や欧米諸国では、法律が権力者を縛っています。しかしロシアでは、法の上に権力者がいるのです。国民の多くは、個人の自由や権利よりも、強力なリーダーを求めています」

旧ソ連とロシア、それぞれ体制は異なるものの、権力が国の指導者に集中しているという点は共通している。また、それは旧ソ連崩壊後も、社会主義体制が支持されやすい土壌が残っていたことを意味する。そのため、プーチンはその権力を継承し、20年以上にわたって政権の座に居座ることができた。時代が変わっても、ロシアが同じような国に見えるのは、そうした背景があるからだ。

そもそも、社会主義体制が根付くのは、民主的にリーダーを決めるような地域性・国民性ではなかった国々である。ロシアも時代をさかのぼれば、旧ソ連以前の帝国時代から中央集権的な統治システムが浸透していた。

「かつてのロシア帝国では、皇帝と一握りの貴族しか権力を持ちませんでした。農民や中小企業主などの中間層の力は非常に弱かった。そのため、企業や個人が自由にビジネスを行う社会層が育ちにくかったのです。つまり、ロシア帝国には日本の渋沢栄一のような立場の人物はいませんでした。なぜなら、ビジネスはすべて国家が管理していたからです。この体制でも国家は維持されていましたが、第一次世界大戦の影響で状況は一変しました」

第一次世界大戦のような総力戦では、国民一人ひとりの力が必要になる。しかし、皇帝と貴族だけが特権を持つ社会では、国民が戦争に積極的に加担することはなかった。

「そうなると、当然ながら戦争には負けてしまいます。そんな状況下で、旧ソ連の創設者であるウラジーミル・レーニンは『君たちは豊かになれる。金持ちから工場も土地も奪って、すべて君たちに分配しよう』と、国民をあおりました」

その主張は現実離れしたものであり、大衆を扇動するためのデマゴーグ的な振る舞いだった。しかし、第一次世界大戦後、レーニンは混乱した社会情勢を利用し、政権の座に就いた。そして、旧ソ連が成立した。

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