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【premium限定連載】芸能ジャーナリスト・二田一比古の「週刊誌の世界」

安室奈美恵の母親取材と殺害事件――安室奈美恵の母との交流

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『約束―わが娘・安室奈美恵へ』(扶桑社)

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 頑なに口を閉ざしていた安室奈美恵の母・恵美子さんがようやく口を開いたのは、初の接触から3日後の夜、沖縄名護にある居酒屋でのことだった。「私も奈美恵も人見知りする。特に内地(沖縄県外)の人には弱いの」という母も、お酒を飲むうちに心を打ち明けて話すようになり、次第に饒舌になった。根っからの沖縄人。沖縄の太陽のように明るい。娘の奈美恵の生い立ちから「沖縄アクターズスクール」に通い、中学卒業と同時に歌手になるために上京していった経緯を詳細に語り始めた。取材は何日も続いた。すべてお酒の席。お酒は取材の潤滑油になる。母親は大宜味村にある実家近くでスナックを経営していた。店には沖縄在住の奈美恵ファンの子が毎日のように数人来ては、母親との交流をしていた。アイドルのファンが実家を訪れることがあるが、奈美恵のファンも同じだった。大半は奈美恵と同年代くらいの女の子。「本人に会えなくてもお母さんから少しでも情報を共有していたい」というのがファン心理。安室は当時から同性のファンが大半を占めていた。「アムラー現象」が起きた原点である。

 沖縄本島北部にある辺士名には居酒屋からスナックまでお店が10件ほど立ち並ぶ。どこの店も母親は顔。飲むと朝まではしご酒が母親の日常だったが、飲む姿は豪快そのもの。沖縄の民謡を歌いながら踊る母親。

 膨大な母親の取材。これほど取材がトントン拍子に運ぶことはそうはない。週刊誌で独占告白を掲載。さらに母親の話を出版まですることになった。たまたまの取材が縁で想定外の方向に進む、これも取材の醍醐味。だが、本にするには別の壁があった。母親は事務所の所属ではない。出版は母親の意志とはいえ、本の中身は歌手である娘の奈美恵の話が大半。奈美恵は芸能人であり芸能プロに所属している。そのため奈美恵側の許諾が必要になった。両者が反対すれば出版の話はなくなる。事務所の社長に直談判し、多少のカットはあったが、最終的には社長も快く承諾してくれた。

 出版を記念して母親と乾杯。「近いうちに東京で奈美恵も入れて焼肉屋で食べましょうね」と、本のタイトルになった「約束」を交わした。その日を楽しみにしていた矢先に事件は起きた。

 1999年3月17日。午前11時頃だった。午後からの仕事のため私は髭を剃りながら出かける支度をしていた。突然、携帯ではなく自宅の電話が鳴った。毎日新聞の知人からだった。「母親が沖縄で交通事故に遭い、救急車で病院に運ばれたが、危篤状態のようです。なにか連絡はありましたか」との問い合わせだった。すぐに母親の携帯に電話する。通じない。何度かけても不通。そのうちに自宅の電話から携帯までひっきりなしに電話が鳴った。母親の身になにかが起きている。状況は刻々と変わり、最終的に「殺された」との報道が出された。にわかに信じがたい。すぐさま沖縄に向かう。他のメディアも一斉に沖縄に向かう。人気歌手の母親が殺されるという大事件は世間を震撼させた。私は真っ先に母親の再婚相手だった夫を探した。夫の携帯も通じない。大宜味村の自宅には誰もいない。途方に暮れた。母親と一緒に飲んだ地元の友人夫妻のをつかまえるとようやく事件の全貌が見えてきた。夫の義弟が車で轢いたうえにナタで殺害したのだ。夫と出かけるために車に乗り込もうとしていた時にふいに襲われた。夫が止める間もなく殺害されたという。その後、義弟も車で逃走。離れた畑の中で自殺した。事件の真相は闇の中。唯一、知り得る立場にあった夫は私と接触する前に事務所の人たちに連れて行かれ、メディアとの接触を遮断されていた。

「義弟との間で起きた金銭トラブル」が原因というぐらいしかわからず、事件の全貌は今も闇の中。

 各メディアは母親の半生の報道に切り替えた。結果、母の本を出版した私がもっとも母親の半生を知る人物となり、取材対象者になってしまった。私が独自に取材しようにも、私を尾行するメディアの群れ。私の話が新聞、テレビ、週刊誌のほぼ全てを埋めた。後に安室の姉や事務所関係の人から「奈美恵に変わって母親の人となりを話してくれて、殺害されたという嫌な事件を払拭してくれました」と感謝の言葉を伝え聞いた。母親の取材で生まれた不思議な縁を今さらながら痛感する。

(敬称略)

二田一比古
1949年生まれ。女性誌・写真誌・男性誌など専属記者を歴任。芸能を中心に40年に渡る記者生活。現在もフリーの芸能ジャーナリストとしてテレビ、週刊誌、新聞で「現場主義」を貫き日々のニュースを追う。

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