世界的な“むし”の権威が語る!――技術革新で変わる採取と新種の発見
2020年12月21日 11:00
2019年1月23日 11:00
――たびたび危険視される「ストロングゼロ」をはじめとするストロング系チューハイ。度数の高い酒はほかにもあるはずだが、なぜこれだけ狙い撃ちにされるのか? また、どうしてそんな危険な酒が台頭したのだろうか? もはやタブーな酒、ストロング系チューハイについて真面目に考えてみた。
各メーカーから出されているストロング系チューハイ。
日本人の酒離れに歯止めが利かないといわれる中、「ストロングゼロ」(サントリー)などのストロング系チューハイ(以下、ストロング系)はむしろ人気を伸ばしている。
ストロング系は8~12%の高いアルコール度数で手っ取り早く酔えることや、500mlでも1缶200円以下という手頃な価格設定、さらに主要メーカーがこぞって新製品を開発していることもあって人気があり、ネット上では親しみ(?)を込めて「飲む福祉」や「合法ドラッグ」などとも呼ばれている。
だが一方で、飲み口のよさのわりにアルコール度数が高いため、その危険性を指摘される出来事も常に起こっている。最近だと元モーニング娘。吉澤ひとみの飲酒ひき逃げ事件や、とろサーモン・久保田かずのぶとスーパーマラドーナ・武智による『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)後の暴言事件などの舞台裏に、これらストロング系が関わっていた。
危険性を指摘されながらも支持される様子は、確かにドラッグと呼べなくもない。しかし、広く大衆に浸透している現状を、そんな認識で片付けてしまってよいものだろうか? 本稿は、こうしたストロング系について筆を進めるが、ただ批判するのではなく、本質的に理解し、受け入れられている背景などの現状を正しく認識した上で楽しく飲酒するための考察をしてみたい。
テキーラ飲むより安い! 圧倒的コスパ実現の背景
まず、「ストロング系はアルコール度数が高いから悪酔いする」というならば、もっと度数の高い酒はいくらでもある。それではストロング系特有の危なさとは一体何なのか?サイエンスライターのドクター・クラレ氏は、こう解説する。
「私がストロング系についてもっともよくないと思っているのは、ゴクゴクと何本でも飲めてしまうような味に調整していることです。例えば日本酒に焼酎、スピリッツなどを原液で飲むのがキツいという人も、ストロング系ならジュースのように飲める。なぜこんなことが実現できたかというと、液糖(ガムシロップ)や、アセスルファムK、スクラロースといった人工甘味料をガンガン使用しているからです。ゴクゴク飲めるというのは自制が利かなくなっている状態ともいえるので、酒を楽しむというよりは酔うことを目的にしていますよね。しかも安い。これをドラッグと言わずして何といいますか」
甘く口当たりのよい人工甘味料によってアルコールの度数を意識させないということだが、一方でストロング系に大量に添加される液糖や人工甘味料に危険性はないという。
「誤解されがちですが、人工甘味料の安全性はかなり高いんです。実用に至るまで長期にわたる実験や厳格なチェックを経ていますし、そもそも人工物には1日あたりの摂取許容量というものがきちんと定められていて、実際に製品へ添加されるのはさらにその100分の1程度。なんなら塩のほうが毒性は強いともいえます」(ドクター・クラレ氏)
あくまでも、人工甘味料は飲みやすい甘さを提供しているだけ。ところで、ストロング系の中には液糖や人工甘味料が入っていながらも、「糖類ゼロ」を売りにする製品も多く、かのストロングゼロの名前もそこに由来する。これは一体どういうことなのだろうか?
「これも誤解されていることのひとつなんですが、糖類ゼロは単純に『砂糖じゃなくて人工甘味料を使っています』という意味なんです。まるで健康的であるかのように宣伝することも、よくないですね。また、人工甘味料はコストも安いという側面を持つので、ストロング系の低価格は糖類ゼロによって達成されているともいえます」(同)
人工甘味料のおかげで実現できた、飲みやすさと低価格。ちなみにNHKの『ニュースウオッチ9』が調査したところによると、200円以下の500ml缶のストロング系(アルコール度数9%)に含まれるアルコールの量は1本あたり約36gで、これはテキーラのショットグラス約3・75杯分に相当するという。パブでテキーラのショット1杯を飲むのに500円近くかかると考えれば、圧倒的なコストパフォーマンスである。
だが、その飲みやすさと低価格は、時に深刻なダメージを負うことにもつながる。例えばコンビニでストロング系を安価で購入できるということは、アルコール依存症の患者にとって、なによりの弊害になっているという。久里浜医療センターでアルコール依存症の患者を専門に診ている横山顕医師は、そのリアルな現状をこう話す。
「アルコール依存症の臨床をする際は、まず直近1年間の飲酒量を聞きます。いちばん飲むお酒は何か? その度数は何%か? 缶の種類は350mlか、それとも500mlか。ここで缶チューハイと答える患者は、全体で見ても3分の1は確実に占めています。また、チューハイの度数といえばかつて6~7%が主流でしたけど、ストロング系が登場してから状況は一変しました。ここ4~5年間では、患者のほとんどが9%の製品を選択しています。約1・5倍になったわけですよね。これは非常にマズい。全体の飲酒量mlは変わらないのに、アルコールの度数だけが高くなっているわけですから」
厚生労働省が定義する「生活習慣病のリスクの高い飲酒量」は男性で1日あたり純アルコール量40g以上、女性で20g以上だ。量の算出方法は「摂取量(ml) ×度数/100×0・8(比重) 」となっている。先ほども触れたが、度数が9%であれば500ml缶で36gに達してしまうため、女性はたった1本で危険水域に達することとなる。男性でもリミットギリギリだ。
「全体で見れば日本人の飲酒量は減っているかもしれませんが、アルコール依存症の患者に限っていえば、ストロング系の台頭によってひとりあたりの飲酒量が確実に増えています。また、これらのチューハイが一般的となったことで、これから飲酒を始める世代や、すでに患者予備軍となっている人たちの飲酒量も底上げされているはずです」(同)
昨年7月にはサンガリアが「スーパーストロング12」という、アルコール度数12%の新商品を投入し、9%が主流の時代に風穴を開けようとしている。なお、ストロングゼロの発売は2009年(当初はアルコール度数8%)であり、ちょうど今年で10周年を迎える。発売当時の新成人が、社会の中核を担う30代へ突入することとなり、平成の終わりと共に世は“ストロング世代”の全盛期へと差しかかろうとしているとも言えよう。
缶チューハイ誕生時点ですでにストロングだった?
ストロングゼロのCMでおなじみの天海祐希編集長。
ここまでストロング系がはらむ“危険性”について述べてきたが、続いては支持されていくに至った歴史的、社会的背景について調べていきたい。取材に応じてくれた「酒文化研究所」の山田聡昭氏は、ストロング系を危険視する風潮に真っ向から反論する。
「ストロング系が台頭して“危ない”と言われていることに、私は非常に違和感を覚えています。というのも、1984年に宝酒造が発売した缶チューハイの元祖『タカラcanチューハイ』は、当時すでにアルコール度数が8%ありました。度数が5%を切るような、カクテル系の甘いタイプが広まってきたのは90年代以降で、ストロング系と言いますが、アルコール度数は9%ほど、ワインや日本酒よりも低いのです。また、『現実逃避のための酒』と揶揄されているのも、どういうふうにそれを調べたのかよくわかりませんが、普通は現実逃避のために酒を飲むというより、食事と共に楽しむとか、リラックスするためとか、オンからオフに切り替えるために酒を飲むのが大半だと思います。酒を健康的に楽しむ大原則は適正飲酒で、酒が悪いのではありません」
缶チューハイの市場は、そもそも最初からストロング寄りだったということになる。では、どうしてここまで騒がれるようになったのだろうか?
「00年頃から、大手メーカーがこぞってチューハイを出すようになります。代表例はキリンの『氷結』ですね。それまでは宝酒造とか合同酒精とか、いわゆる焼酎メーカーが缶チューハイをつくっていましたが、ビールの消費が95年~96年をピークにどんどん下がりはじめて、新たな市場の開発を狙ってビールメーカーがチューハイに参入したわけです。ビールメーカーと焼酎メーカーとでは企業規模、営業マンの数、販売網どれをとってもケタ違い。それまでニッチな立ち位置だった缶チューハイも、大手ビールメーカーが出すとなれば一気に当たり前の存在になったわけです」(同)
日本人のビール離れというよりも、「とりあえずビール」という文化に変化が生じたことによって、チューハイが表舞台に立ったということだが、このことについては、前出のドクター・クラレ氏も、こう言及する。
「ストロング系が流行っている理由は、国の施政にもあると思います。酒造メーカーに勤める友人に話を聞くと、日本には飲みやすくておいしいビールを作る技術はあるのに、酒税法改正でビールに余計な酒税をかけてメーカーを締め上げているようです。その結果、メーカーではコストカット至上主義が蔓延してしまい、ビールよりも安くつくれるストロング系に走っているのかもしれません」
また、国に締め上げられるのはメーカーだけではない。社会学者の橋本健二氏は、著書『居酒屋の戦後史』(祥伝社新書)において“酒格差社会”の出現を訴えている。
橋本氏は著書で「収入階級別にみた酒消費パターンの変化」を74年と09年で比較して、どの階級もビールと日本酒を飲めた70年代の「酒中流社会」と比べ、09年になると低所得階級は、ビールと日本酒はもちろんのこと、安い焼酎すら他の階級並みには飲めなくなっていると指摘している。
こうした階級によって飲む酒が変わる“酒格差社会”の到来の真っ只中に、ストロング系が台頭したわけだが、その後、現在に至るまでについてを橋本氏は本誌の取材に対して「金をかけずに酔えることから、経済的に苦しい消費者のニーズに応えたストロング系が支持されている現状には、格差拡大・貧困層の増大という現実が反映されていると考えます」と、補足する。
誕生したときからすでに高アルコールだったチューハイが、その後、ビール消費の減少に伴い注目されるようになるが、同時にそれは酒格差社会にも巻き込まれる形で、ストロング系と呼ばれるようになってから、良くも悪くも世間のニーズに応えたということだろう。
ストロング系は他のアルコール度数の高い酒と比べると、格段と飲みやすいため確かに危険な側面もある。しかし、一方ではそのような酒しか選ぶことのできない社会的な背景もある。ストロング系の台頭は現代社会の歪さを浮き彫りにする象徴なのかもしれない。
(文/ゼロ次郎)
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