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ケータイ小説没落の穴を埋めるギャルたちの"闇"と"病み"自伝

2009年12月25日 10:00

──ケータイ小説ブームが過ぎ去った2009年。だが今年は、「小悪魔ageha」【1】のフィーバーと、それに便乗したようなあまたのギャル本が世に出た年でもあった。ケータイ小説から自分語りに移行したギャル本の動向と、彼女たち自身の変遷を、ケータイ小説評論家・速水健朗が総括する。

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表紙をめくってすぐの見開きに載せられたこの写真はネットにも転載され、「不謹慎だ」「バカにしている」などと批判を招いた。

 昨年から続いた「小悪魔ageha」フィーバーは、昨年末に死去した飯島愛の追悼記事を載せた今年初めの同誌3月号で頂点に到達した。見開きページに50数人の合掌したアゲ嬢(同誌専属モデルのことを指す)たちが圧縮された写真は、五百羅漢像を上回る神々しさ、そして不気味さを兼ね備えたものだった。これだけインパクトのある雑誌記事を見るのは久々である。

 雑誌不振のこの時代に同誌を創刊し、3年余りで公称30万部という部数にまで育て上げた編集長・中條寿子は、時代の寵児になった。昨年の盛り上がり以降、「AERA」(朝日新聞出版)の「現代の肖像」、「週刊朝日」(同)の林真理子の対談連載、そして国分太一と井ノ原快彦の番組『R30』(TBS)など、メディアに露出しまくった。

 そんな追い風に乗っかって、出版界もギャルブームにあやかろうと、09年にはたくさんのギャル本を刊行。ブームの震源地である「小悪魔ageha」でモデルとして人気を博した桃華絵里(通称"ももえり")は、シングルマザー兼女社長兼モデルという過酷な日常を綴った『幸せな時間』【2】など、今年に入ってから4冊の単行本を刊行する人気ぶりを見せつけた。

 こうしたギャル旋風に目をつけたマガジンハウスの男性誌「BRUTUS」【3】は4月に、「ギャルこそが日本経済の救世主」と特集を企画。だが、ギャルを消費社会の申し子と捉えるのは間違いだ。ギャルとはむしろ消費社会に反発する存在である。

 ギャル雑誌が扱うアイテムは、基本的にはキラキラして安い服だ。今年の流行語大賞のひとつになった「ファストファッション」。その言葉の受賞者として、ギャル界のカリスマ・益若つばさ(「Popteen」〈角川春樹事務所〉の元専属モデル。通称"つーちゃん")が選ばれたのも象徴的だった。今年、益若がコラボした相手は、ファッションセンターしまむらであり、彼女のモットーは"堅実"である。

「CanCam」(小学館)、「JJ」(光文社)といった赤文字系ファッション雑誌の支持層は、ネット的に言えば「スイーツ(笑)」で、消費に流されやすい層ということになる。しかし、ギャルはその対極にある。「スイーツ(笑)」が「都会に浮遊する消費に敏感な女性層」だとするなら、「ギャル」は「地方・郊外に漂着するデフレ時代の嫌消費的女性層」である。アゲ嬢の多くは、地方のキャバクラのナンバーワンからモデルになっており、中にはいまだに地方在住のままモデルを続けている娘も少なくない。また、教祖・益若つばさは東京出身だが、いまだに足立区在住のまま。つーちゃんいわく「金銭感覚は狂いたくない」のだそうだ。だが、そんな益若つばさこそが、いまやエビちゃんこと蛯原友里を追い落とし、現代のファッションリーダーとして君臨する存在になっているのだ。

 さらに、極め付けは「生まれたときから日本はこんな感じで今さら不況だからどうとか言われてもよくわからない」という、「小悪魔ageha」3月号の表紙に書かれたキャッチ。われわれは、女性ファッション誌の表紙にマクロ経済用語が登場した瞬間を目の当たりにしたのだ。

自分を守るために着飾る、ギャルとは武装である

 もうひとつ、ギャル本全体からわかるのが、彼女たちがとにかくネガティブな生き物であるということ。実際に、今年刊行されたギャル本を並べても、その「病み」の部分が大きくフィーチャーされていることが見てとれる。

 元ギャルにしてキャバ嬢だったという池田ゆいが書いた『狂食ギャル──いつも自分の居場所をさがしていた。』【4】は、両親の離婚、非行、退学、ドラッグ、摂食障害とジェットコースター的な転落手記。「私の人生悲惨だけど、がんばって生きていくわ」という物語は、去年・一昨年にブームになった『恋空』(スターツ出版)、『赤い糸』(ゴマブックス)といったケータイ小説にそっくりだ。

 こういったギャルの「病み」語り傾向は、「小悪魔ageha」においても顕著である。09年2月号の特集タイトルは、「私たちの黒い闇」。ぱっと見はきらびやかに装ったアゲ嬢たちが、病んでいる自分(病み=闇)、ネガティブな自分をさらけ出しているところが、世間のギャルたちに共感されているのだ。

 そんな病んだギャルの本質をすくい取った本に『病み本』【5】がある。芸能界やファッション界、そしてアダルトビデオ業界といった、一見きらびやかな世界に生きるタレントやモデル、AV女優たちが、普段は秘めた自分の「病み」を語ったものだ。

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