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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【最終回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】失われた治癒と麻痺を求めて薬を食った女たち

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――覚醒剤、コカイン、大麻、向精神薬……クスリに溺れる女たちを嗤うのはたやすい。だが、彼女らの声に耳を澄ませば、セックスやジェンダーをめぐる社会の歪みが見えてくる。これは、文筆家・五所純子による“女とドラッグ”のルポであり、まったく新しい女性論である。

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ゴーゴーダンサーの君島かれんは、2018年2月にコカイン使用の容疑で逮捕された後、本連載の初回に登場した。(写真/草野庸子)

 ひとりの女優が逮捕された。ニュースもワイドショーもSNSも噂話も彼女一色になった。警察に踏み込まれた彼女は観念して薬物のありかを指し、取調べで10年以上の薬物使用歴を自供したそうだ。尿検査は陰性、押収物はMDMAの粉末が入ったカプセル2個とLSDを染みこませた紙片。稀代の大捕物と騒がれるわりには、子どもが隠し持ったキャンディのようにささやかで、釣り合いがとれない。薬物量や量刑よりも、彼女が契約相手に支払うらしい数億円とも十数億円ともいわれる違約金の莫大さに人々は反応したのだろうか。あるいは彼女に信頼が裏切られたとか。もとより品行方正でない言動が話題になり叩かれもする女優である。零れだす不敵さや、虚勢っぽい気丈さが、関心を引いてきた。友人や恋人や家族や仕事仲間や、直接に利害関係や情愛関係があるわけでもないのに、いまさら彼女に裏切られたと感じるならば、あまりに無垢で、カマトト的態度で、被害的心性が強すぎる。

「急にヘイターが湧くんですよ。私のことも薬のことも知らない奴に限って『そんな人だと思いませんでした』って石投げる。私が仕事して頑張ってるの知ってて『ちゃんとして更生してください』とか心配ぶって説教する。で、あんた誰?」「転げ落ちる女にカタルシスなんて感じませんよ。“自分は大丈夫”って思わせてくれる安定剤的なネタ」「ストロングゼロとか眠剤とか飲みまくって意識飛ばして毎日やりくりしてる人って多いでしょ。合法ってだけで偉いんですかね。どっちも耐久戦なのに」

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向精神薬を手放せず、リストカットをくりかえしたロア。14歳のとき、性犯罪事件に巻き込まれた。(写真/草野庸子)

 彼女をなお見世物化する試みがやまない。結果はだいたいお粗末だ。逮捕の一報からまもなく、逮捕前夜の彼女をとらえた動画が放映された。続いて、同夜にクラブで数人とともに紙コップを差し上げる様子が流れ、次から次へと過去を掘り起こすように彼女の姿が拡散された。なかには夢遊病者のようだとか奇怪なダンスとか形容されたものもあった。隠し撮りでとらえられた彼女の動きは、ダンスというより体を揺らしているだけの、ごくありふれた地味な姿態だった。いっぽう、カメラを意識して踊る彼女は堂々と生意気そうで麗しく、彼女自身が夢遊病というよりも、見ている者を夢に遊ばせる効果があった。さすが俳優業の人だ。あんなふうに踊る人が、ドラマや映画など虚構のオープンスペースだけでなく、クラブやレイヴやライヴハウスといった匿名的になかば閉じられた空間でなくとも、駅や路上や台所にも溢れたら、一億総耐久戦ムードがすこし緩和しそうなものだが、と夢想する。

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