サイゾーpremium  > 連載  > 五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第十三回】/風俗嬢がドラッグで試す自制心
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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第十三回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】売春婦かつ女衒だった少女・和日子と雛子にただよう覚醒剤の幻

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――覚醒剤、コカイン、大麻、向精神薬……クスリに溺れる女たちを嗤うのはたやすい。だが、彼女らの声に耳を澄ませば、セックスやジェンダーをめぐる社会の歪みが見えてくる。これは、文筆家・五所純子による“女とドラッグ”のルポであり、まったく新しい女性論である。

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中学時代、雛子は援デリのビジネスを取り仕切ったが、卒業後はレディースの一員に。(写真/草野庸子)

 20歳の和日子と雛子はたがいを“古い友達”と紹介した。“親友”という言葉をそれとなく避けた。健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、ともに過ごした日々はあまりに濃い。けれど、ふたりはそれを紐帯としない。親友、家族、兄弟、姉妹、マイメン、シスター、ソウルメイト、スパダチ、いくらでも言えそうなのに、ふたりして割り切ろうとする。含羞というには心が刺々しく、冷淡というには記憶が密々と絡みすぎている。

「きっかけは和日子」

「雛子がいなかったらクスリやってない。あの子はなんでもやる子だから」

 和日子と雛子はひとつの町に生まれ育った。再開発で高級住宅街のイメージに塗り替えられつつあるが、地名を聞けば“ガラの悪い町”と誰もが口をそろえる。「どっちにしろグレる気がしてた」「大学生とか見たことなかったし」「悪い見本しかなくて」「エグいことばっかで、記憶がちょいちょい潰れてる」。仕事帰りの和日子の瞼は重く、喘息もちの雛子はしきりに咳をする。

 工場の物流ラインで働く和日子の日々は規則正しい。平日は朝から夜まで働いて、週末が休息日。「毎日行くところがあるっていうのが支えです。けど、疲れきってくるとクスリを思い出してしまう。怖い」。雛子は露出度の高い衣装と淫猥なポーズで撮影されるモデル、いわゆる着エロの仕事を不定期で請ける。「15歳からやってるから、これが普通のグラビアだと思ってた。体見せるのは抵抗ない。他の仕事につながるかもしれないし、使える武器は使っとけって。クスリなんてもうやんないよ、くだらない」

 親のこと、家のこと、学校のこと、出会いのこと、遊びのこと、お金のこと、恋愛のこと、話の起点はいくらでもある。「クスリの話だよね」と取り仕切ったのは雛子だった。

「自分から手を出す奴なんていない。きっかけは必ず他人。最初は13歳のときに脱法ハーブ【註1】。あの頃は合法だったし安かったし、ウチらの町には“パイプ屋”も多かったから」

「駅前で遊んでたら男がナンパするのに持ってくる。遅かれ早かれクスリには出会ってた。そういう環境です」

「グレたのは中学のとき。よくある話だよ。弱い子をかばったら先輩とぶつかった。喧嘩したら仲間になった。不良のほうが正義感も仲間意識も強いって、当時は思ってた。援デリ【註2】始めたのは和日子が先だね」

「うん、13歳のとき。女の先輩から言われて、業者がまとめてるグループに入りました。先輩には逆らえないです。女の子を紹介すると業者から1~2万円もらえて、私はたくさん紹介したから、もう抜けさせてよって思ってました。雛子を紹介したのは私です」

「そう。客が払うのは1・5~2万円。ウチらがもらえるのは半分で……」

 あれ、金もったいなくね? なんで中抜きされてんの? これ自分でできるくない? そう気づいた雛子は援デリ業者の仕組みを覚え、みずから派遣型売春ビジネスを始める。14歳だった。

「ネットで適当な顔写真を拾って偽造免許証をつくって、それを女の子たちのプロフにでっちあげて、comm、ワクワク、Pメールとか出会い系に書き込んでた。地元にプロの偽造屋みたいなのがいたんだよね、もう飛んじゃっていないけど。1人2万で売れたら1万を私がもらう。1・5万だったら5000、7500はしょうがないから2500。ゴムあり厳守で。7万とか払う客のときは自分で売ってた」

 搾取される売春婦から、搾取する女衒へ。あるいは女子たちの互助会のような組織だったのか。

「お金がない子はいっぱいいた。『お金欲しいんだけど』ってよく相談されたし、『困ったら言ってよ』って私も声かけてた、優しい感じでね。儲けたお金でみんなに奢ったりもして」

「あのときはみんな仲よかったね。いまは連絡とってないけど」

 危ない目に遭わなかったかと問われると、ふたりは対照的な反応をした。雛子はかちんと否定する。和日子はすとんと肯定する。

「やり逃げとかほぼなかったですよ。徹底してお金取ってたし」

「私は殴られたことある。中出しされたこともあります」

「まぁ、出会い系はなかったけど、ひまトークみたいなチャットだとオラオラ系が出てきて、『追加5万で動画撮らせて』とか。渡された封筒をあとで見たら、新聞紙が入ってたことはある」

「雛子がひとりで仕切ってるって知らない子が多かったよね。いまでもわかってないんじゃないかな。私も微妙」

「ウチのバックにヤクザがついてるって、女の子たちは思ってたね。まわりの男子は、女子たちがちょっと援交やってるだけでしょって思ってた。だから女の子と揉めることもなかったし、男にビジネスを妨害されることもなかった。私、そういう賢さだけはあったから。男だったら最初は本職の使いっ走りで、気づいたら組織に入れられて、そんなのばっか。使われて終わりたくないでしょ」

「なんで雛子はビジネスやめたん?」

「わかんない。ダルくなったっていうか、気分? ウチのあとに真似して始めた子がいたけど、ダメだったよね」

 後人に、次代に、妹に、ノウハウが伝授されることはなかった。

「ウチの得にならないし。男は武勇伝になるかもだけど、女は悪い噂ふりまかれて足引っ張られるだけ。人に知られたら困る過去、だよ」

 雛子がそう言うと、和日子はわずかに顔を横に向けた。たがいに腹の奥までは探り合わずに保っている何かがある。経営者の才覚と、私利私欲の動機と、セーフティネットの側面と、私はどれから顔を背けたか。

 みんなどうしてるだろうね。ばらばらに散った彼女たち。もともと束になどなっていなかった子どもたち。

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2019年12月号