サイゾーpremium  > 連載  > 五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第十二回】/風俗嬢がドラッグで試す自制心
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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第十二回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】父親の異なる3人の子と暮らせない風俗嬢・環がドラッグで試す自制心

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――覚醒剤、コカイン、大麻、向精神薬……クスリに溺れる女たちを嗤うのはたやすい。だが、彼女らの声に耳を澄ませば、セックスやジェンダーをめぐる社会の歪みが見えてくる。これは、文筆家・五所純子による“女とドラッグ”のルポであり、まったく新しい女性論である。

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(写真/草野庸子)
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タトゥーが大胆に入っている風俗嬢の環。その口ぶりは明るい。(写真/草野庸子)

「だって戒めでしょ。クリーンな娘がジャンキーの母について語るって、母親に罰を与えてるようにしか読めない。他の女の子も暗くて悲しい話ばっかり。私はそんな書かれ方されたくない。私みたいに明るいジャンキーだっているよ。まぁでもね、薬は悲しい話が多いし、私も昨日は暗かった。ロヒプノール【註1】50錠飲んで集中治療室に入ったこともある。でもだからさ、ここに出てくる女の子には過ちだって思ってほしくない。糧にしてほしい。そのためにも私が強く明るく生きてくことだと思ってる」

 46歳の環が大腸の手術をしたのは1年前。はじめて人生の残り時間を逆算し、はっきりと思った。「私には愉しむ権利がある」。病と付き合っていく自分を奮い立たせる宣戦布告のようなもの。

「私は懲りてないし、やめるつもりもない。黙ってても世論は動いていて、そのうち日本でも大麻は合法化されるだろうね。でも、風当たりは強いでしょ。意識改革のための犠牲者にだったら喜んでなるよ。私はジャンヌ・ダルクになりたい」

 ここまで言って環は少しだけ声を落とした。「この店は息子の学校が近いから、ママ友がよく来るの。まぁ、こんなに刺青入ってて隠れようもないけどね」と気を取り直して笑う。環は話しながらよく鼻を触った。

「はじめての薬物は?」という定番の質問には「16歳のときにアメリカで大麻」とカッコつけてきた環だが、実のところは曖昧だ。「たぶん15歳の原宿で、回ってきた大麻を吸ったのが最初だった気がする」。薬に興味があるというより、輪に溶け込みたい一心だったと、いまならわかる。

「ホコ天帰りに大勢で居酒屋に行って、煽るように飲んでは吐いて、道端でパンツ丸出しで寝てたのね。それがセクシーだって勘違いしてた。無防備だよね。10代って自分の魅力がまだわかんないでしょ。だから自分を大事にするより世間を知りたい、世間を知るために自分を利用してもいいって気張っちゃう。若さゆえの無知って武器だし、私はそういう子が大好き。でも痛い目にも遭って、女の子は賢くならざるをえない。オトコは懲りない、学習しない、人のせいにする。オンナは顧みる、後悔する、己のせいにする」

 自責自罰の回路から飛び出して笑う。それが力業の割り切り方だということもわかっている。だから彼女はますます笑う。陰気な自省を吹き飛ばすように盛大に笑ってみせる。

アメリカ留学中に受けた〈レイプまがい〉体験


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2019年12月号