サイゾーpremium  > 連載  > 五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第十回】/倉庫作業員の自立と【麻薬】
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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第十回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】倉庫作業員・チヒロの一刻一秒の自立と麻薬

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――覚醒剤、コカイン、大麻、向精神薬……クスリに溺れる女たちを嗤うのはたやすい。だが、彼女らの声に耳を澄ませば、セックスやジェンダーをめぐる社会の歪みが見えてくる。これは、文筆家・五所純子による“女とドラッグ”のルポであり、まったく新しい女性論である。

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中学時代、チヒロが援デリで頻繁に利用したラブホテル。(草野庸子/写真)

 国道の向こう岸に錆びた虹が浮かぶ。東京近郊にある歓楽街のはずれ、ラブホテルの窓は暗幕が張られ、室内の光を漏らさない。チヒロは14歳のときに働いていた“職場”を見上げる。辺りの空気が重くならないように、肩をすくめて軽く笑った。

「いまは倉庫作業の仕事をしてます。時給1150円、週5フルタイムで残業35時間。女子少年院を出てから働いてるので、2年目かな」

 Tシャツにジーンズにサンダル、チヒロは仕事帰りにラフな服装で現れた。眼鏡越しに化粧映えのしそうな顔立ちがあるが、ほとんど素顔で取り繕うところがない。はきはきと話し、どんな質問も逸らさず、自分を大きく見せようとも小さく見せようともしない。

「もとは外面がいい奴だったんですよ。お母さんとそっくり。表面的にはいい家族で、年に何度もディズニーランドに行ってたし、私も小学校のときは超成績優秀でした。でもお父さんが浮気してて、お母さんは離婚して仕事始めて子ども育てて。『私が何か悪いことした?』が口癖で、自分と同等の苦労を子どもに強要しがちな人で、よく怒ってました。だから私、嘘つくのと逃げるのが上手になりました」

 母の携帯電話のなかで父は“バカ”という名で登録されていた。母も子もそれを見て笑った。あのとき母と一緒に苦しんであげればよかった、とチヒロは言う。父には親近感を覚えない。

「グレる子って先生に反抗するじゃないですか。私、ルールを破ることは多かったけど、先生とうまくやる子でした。小さな先生みたいな気になって、同級生に上からもの言ってましたね」

 日和見主義は子どもでも嗅ぎ分ける。クラスの中心役を気取ったチヒロは、どのグループにも属せず孤立する自分にふと気づいた。有能さや生真面目さはそれだけでは人間関係で逆効果になることがある。「手のひらを返したみたい」に人が離れた日のことを、チヒロはどんな薬物体験よりも逮捕劇よりも、いちばん重大事のように語った。

援デリで大金を稼いだ中学時代の放課後


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