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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第九回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】薬草で開眼した大学生・カツキの「学問のすすめ」

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――覚醒剤、コカイン、大麻、向精神薬……クスリに溺れる女たちを嗤うのはたやすい。だが、彼女らの声に耳を澄ませば、セックスやジェンダーをめぐる社会の歪みが見えてくる。これは、文筆家・五所純子による“女とドラッグ”のルポであり、まったく新しい女性論である。

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(写真/草野庸子)
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21歳の女子大生であるカツキは、このように水のペットボトルをよく持ち歩く。(写真/草野庸子)

「いまなら勝ち逃げなんですよ」

 東京近郊の駅前、2リットルのペットボトルを抱えてカツキは現れた。ラベルの剥がされたボトルの中で透明な液体が揺れている。ドラッグで喉が渇いているのかと思いきや、子どもの頃から無類の水好きで、いつも飲料水を持ち歩いているという。荷物は水だけ。誤解をふくんだ視線をカツキは楽しんでいるようだ。現在21歳の大学生。

「物心ついたのが、クイズ番組の影響でバカキャラがウケてる時代でした。だから変なこと言うのが偉いと思ってた。体育と音楽は5だけど、それ以外はオール1。その成績表がイケてるって勘違いしたし。環境のせいにしちゃいけないけど、私は腐った蜜柑の箱に入れられた王族だったんです」

 ポケットからA4の厚紙を取り出して広げる。三白眼に長髪の人物が真ん中に描かれ、そこから伸びた吹き出しに〈健康・私〉〈愛・宇宙・水・母〉〈私は最強すぎてゴメン〉〈秒で10万〉〈薬物はギャンブル〉〈自信ない人間がやっても状況は悪化するだけ〉などの文字が踊る。カツキの人生パズルだ。

 人物の真下に書かれた〈初大麻 高1〉を指差して語りはじめた。

「高校1年の夏にレイプされかかったんです。主犯の男と体育倉庫に閉じ込められて、数人の取り巻きが扉閉めて固めてました。私は暴れて抵抗して、それが防犯カメラに映ってて。ほんとは主犯の男が退学するはずだったけど、噂が広まって私はいづらくなって。それに動機がくだらなかったんですよ。私、そいつに告られたことがあって。そしたら『なんでお前みたいなフツウの女に断られなきゃいけねぇんだよ』って逆恨み。マジでくだらない。

 超底辺の通信校に移って、そこのスケーターの男の子たちと遊ぶようになりました。みんな大麻吸ってて、私ももらって吸うようになって。私ずっと友達いらない精神でやってて、男の子としか遊んでなかったんですよ。私だけ女一人っていう優越感もあったな。でもそのうち『あいつだけタダで狡くね?』ってなったんだと思う。売買の関係になって、そしたら一緒にキメる感じじゃなくなって、パッと受け渡して解散で」

 男と渡り合う女は腕力で折られ、男たちにまぎれる女は無償の優遇がないと知る。狭い世界だ。ふいに女友達から電話がかかってきて、「親友からです」とカツキは言った。

〈初LSD 高校〉を指差すと、「でも、これ面白くないんで」と口ごもる。人を笑わせられるかが大事な基準らしい。

「芸大で音楽やってる姉の部屋に入ったらLSDがあったからキメた。それだけです。たぶんお姉ちゃんはプレッシャーでおかしくなってたんですよね。私が10歳のときに音楽教師だったパパが死んで、ママが私たちを育ててくれたんですけど、『お姉ちゃんがお父さんの才能を引き継いで頑張ってくれるよ』って励ます人がわりといたんです。いつからか、お姉ちゃんがテレビを壊したり、飼ってた猫の叫び声が姉の部屋から聞こえたり、それを受け入れられなくてママが酒浸りになったり。姉は精神科病院を出たり入ったりで、いまは家にいます。姉は仕事してないし、ママが働くばっかで、私が稼がなきゃってプレッシャーがありますね」

 大学進学とともに家を出た。高校時代に貯めた金でマンションを借りたが、それはカラオケ店などのアルバイトでつくった金だった。

「キャバのほうが儲かっただろうけど、『水商売やってそう』ってよく言われてて、まんまやるのは悔しいから絶対やらない。いまもそう。プライドです」

〈プリンセスポット プッシャー時代〉はパズルの左上にあった。

「夜系以外で手っ取り早く稼ぐならクスリしかないと思ったんですよね。周りの女子大生は夏休みに出稼ぎとかキャバとかやってたけど、プッシャーなら一瞬の受け渡しでアガリが出るかなって。スケーターの友達に『大元を紹介してくんない?』って頼んで、『大元はムリだけど、上から3番目くらいなら』って。言われた期限内に売ればアガリがあるけど、はみ出たらアガリなし。まあ、厳しいですよね」

女だからナメられたツイッターでの“手押し”


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