サイゾーpremium  > 連載  > 五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第八回】/【幻覚と共依存】を劇薬でもちこたえるユカ
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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第八回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】幻覚との共存を劇薬でもちこたえるユカのハーフミラールーム

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――覚醒剤、コカイン、大麻、向精神薬……クスリに溺れる女たちを嗤うのはたやすい。だが、彼女らの声に耳を澄ませば、セックスやジェンダーをめぐる社会の歪みが見えてくる。これは、文筆家・五所純子による“女とドラッグ”のルポであり、まったく新しい女性論である。

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街中でカメラを向けると、人目を気にせず、アイドルのようなポージングを次々と繰りだしたユカ。(写真/草野庸子)

 カメラを向けられて彼女は豹変した。細い手足に力がみなぎった。横断歩道を急ぐ人たちがふりかえって奇異の目をよこしても意に介さず、ついにカメラしか視野にない様子で、みずからのイメージを盛大につくりあげて差し出した。駅前広場の花壇には可憐なペチュニアが色とりどりに生い茂り、つい先ほどまでの彼女は白やピンクの小ぶりな花がいかにも似合っていたが、季節性の頭痛に苦しむみたいに垂れて咲いたヒマワリのほうへと向かい、満面の笑みで回ってみせる。カメラだけを見ていた。カメラの背後にある無数の目は存在しないも同然だった。

「体重を40キロ台にしたいんですけど、なかなか増えないです。すぐ疲れちゃうし、似合う服も限られるんですよね」

 小さな体躯でふにゃふにゃと甘やかな声で話すユカは、ハムスターやウサギのように人間の庇護欲を刺激し、愛玩されるアニメキャラクターのようにどこか現実離れした質感をもっている。つるんと明白な話しぶりで、自分を憐れんだり他人を疑ったりといった感情的な奥行きをもたせない。それがかえっていじらしい。彼女はいまに自足していて、多くを望まず高みを目指さず、聞き分けのいい充足感を口にする。けれど、急に寒くなる。視界良好で進んでいた話が、突如として靄が立ちこめたように不鮮明になるのだ。「家族仲はいいです」と始まった話がふいに、「父はなんの仕事をしてるんだろう。うーん、わかんないです」「父が暴力をふるうことがあるんです。最初は母だけだったんですけど、私も殴られてしまって」とぶつかる。「援交してました。でも私、危ない目に遭ったことがないんです。もうほんとに奇跡的に」と話を続けていくと、「一度、妊娠しました。母に嘘をついて手術させてもらいました」と出てくる。彼女はハーフミラーで仕切られた部屋で息をしている。内は明るい、外は暗い。見たくないものは外の暗がりにそっと追いやる。すると、ここは平和。私だけの平和が反射して浮き上がる。ワン・ウェイ・ミラー、一方通行性の鏡の世界だ。

「はい、家族は父と母と私の3人です。家族仲はいいです。埼玉のベッドタウンにある団地に暮らしています。私の部屋は四畳半で、机とベッドとぬいぐるみを置いています。高校で美術科に通って美大に進んだんですけど、美大生ってみんなアクが強いから私は上手に交友関係が築けなくて、なんとなく休学して辞めちゃいました。その頃に学童保育のアルバイトを始めて、私は子どもが好きなんだなって気づいて、いまは保育士になるために短大の保育科に通ってます。23歳です。薬の服用は高校生から、手首を切ったのを両親に見つかっちゃって、母にメンタルクリニックに連れていかれました。はい、内心ほっとしました。病気になりたかったわけじゃなくて、自分のよくわかんない状態に名前がついたら整理できる気がしたし、薬で対処できるならそれがいいなと思って。自律神経失調症とパニック障害でした。バスとか電車とか人が多いところにいると自分がいなくなる気がして泣いちゃうんです。薬はずっと飲んでて、病名もだんだん増えて、5年前に統合失調症と双極性障害と、あといくつか病名を言われましたけど忘れました。病院でもらう薬もドラッグストアで買う薬もいっぱい飲んできて、去年は薬で自殺未遂しちゃって、それから処方を減らされました。最近はロラゼパムとオランザピンを中心に、多くて1日20錠くらいです。え、手首を切ったきっかけですか? 父が暴力をふるうことがあるんです。はい、お母さんが殴られるのを小さい頃から見てました。中学のときに私も殴られてびっくりしたんですけど、なーんだ私も殴られるんだ、と思っただけです。お母さんは私と一緒に怒られてくれます。あ、それはないです。私って物に当たれないんですよ。ぬいぐるみとか見るとかわいくて撫でちゃうし、ガラスとか割れると怖いから触りたくないじゃないですか。人に当たるなんてもっとできないです。たぶん自分以外を傷つけたら罪悪感で潰れちゃいます」

ツイッターで知り合った病んでる女子と年上の男


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