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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第七回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】ラッパー・なかむらみなみが抱く麻薬で壊れた母の肖像(後編)

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――覚醒剤、コカイン、大麻、向精神薬……クスリに溺れる女たちを嗤うのはたやすい。だが、彼女らの声に耳を澄ませば、セックスやジェンダーをめぐる社会の歪みが見えてくる。これは、文筆家・五所純子による“女とドラッグ”のルポであり、まったく新しい女性論である。

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辻堂の美しいビーチで砂混じりの冷たい潮風を受けながらはしゃぐ、なかむらみなみ。(写真/草野庸子)

「私は薬に嫉妬してたのかもしれないです。母は依存するもののために生きるようになって、私や弟をかえりみなくなりました。もうお母さんは私たちを育てるのをやめたのかなって」

 どこかで信じてた。あなたは私を守っているのだと。私13歳、あなた33歳。冬の寒い日、あなたは私と弟を連れて飲み会に出かけた。主催者は羽振りがよく、会の終わりにタクシー券をドライバーにばらまき、女性たちを帰した。私たちの乗ったタクシーは運転が荒くて、吐き気を催した私は「窓開けていいですか」と言った。冷たくあしらったドライバーにあなたは怒った。「娘が気分悪いって言ってんだろ。ちゃんとやれ」。降りる頃には、もうあなたは錯乱状態だった。「料金は先にいただいてます」と言うドライバーに、「まだ払ってねぇだろ。ナメてんのか」と後部座席からドライバーを蹴り上げた。車外に飛んでいった眼鏡を弟が追いかけ、暴れるあなたの体を私が押さえ、ドライバーは通報していた。あなたは私のために怒っているのだと思っていた。でも、あなたの怒りと私はさほど関係ないのかもしれない。そう気づいたのはいつだっただろう。

「母を連行するパトカーが川沿いに走っていくのを見送りました。事件はすぐ示談になったので母は帰ってきたけど、祖父母が回復を願って母を施設に入れました。親戚たちは厄介払いできたと内心喜んだかもしれません。

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母が施設に入れられてから、辻堂神社の奉納太鼓を叩くようになった。(写真/草野庸子)

 私と弟は親戚たちと暮らしはじめました。弟はよくそこに行っていたので可愛がられましたけど、私は“ずっと典子といた娘”ということで印象が悪かったみたいです。がらっと生活が変わりました。1日の時間割が決められて、それが守れなかった翌日の朝食はかならず変な味がしました。親戚のひとりが私のごはんに洗剤を入れてたんです。その親戚は認知症で言動がおかしくなっていたんですけど、当時は誰もそれに気づいてなくて、逆に私が精神病だと疑われて、入院させられたことが数回あります。誰にも信じてもらえないのはつらかったし、統合失調症とか躁鬱病とか言われると、ほんとに病んでいく気がしましたよ」

 それでも私は強かった。子どもが想像するよりも、世界にはたくさんの親がいる。まだアパート暮らしだった頃、家から遠のくあなたに代わるように、大人たちがかわるがわる家に入ってきた。ここはあなたの地元、縁もゆかりもありすぎる狭い土地。町内の人たちは壊れゆくあなたに気づいていた。放置された幼い私たちを案じていた。食事をくれる人、話し相手になってくれる人、安全を確認していく人、みんなが少しずつ私たちを育ててくれた。

 最初に気づいてくれたのは、あなたと同じ走り屋だったサオリ。さすがに元レディースはドスが利いていて、叱られるときは怖かった。はじめてのブラジャーも、はじめての月経も、私はサオリにだけ打ち明けた。あなたにはもう私の体のことを知られたくなかった。サオリは自分が薬を食ってたクチだから、あなたを見捨てられなかったんだろうね。知ってる? サオリは死んだよ。私がくやしいのは、サオリの死を知らされなかったこと。「ごめんね。あたしたち典子と縁切ってたから、みなみを葬儀に呼ぶわけにいかなかったんだ」って、元レディースの人たちに言われた。あなたは付き合いで薬をはじめたのかもしれない。薬を続けるために必要になった付き合いもあったと思う。でも、薬のせいで切れてた付き合いもあった。依存症って人間関係が極端になるんだと思うよ。

親戚に厄介払いされてホームレスになった


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