サイゾーpremium  > 連載  > 五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第六回】/【ラッパー・なかむらみなみ】麻薬で壊れた母の肖像(前編)
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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第六回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】ラッパー・なかむらみなみが抱く麻薬で壊れた母の肖像(前編)

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――覚醒剤、コカイン、大麻、向精神薬……クスリに溺れる女たちを嗤うのはたやすい。だが、彼女らの声に耳を澄ませば、セックスやジェンダーをめぐる社会の歪みが見えてくる。これは、文筆家・五所純子による“女とドラッグ”のルポであり、まったく新しい女性論である。

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神奈川県藤沢市の辻堂をレペゼンするなかむらみなみ。母が逮捕されたという引地川沿いを案内してくれた。(写真/草野庸子)

「川にすべての記憶がつながってる」

 神奈川県藤沢市、引地川に沿って歩く。上流の山寄りの町で、人が埋められた景色を見た。母が逮捕されたのは、河口にほど近い平坦な道だった。家から逃げて歩いたのも、路上生活のあてを探したのも、この川に沿った。何度となく川を行ったり来たりした。

「川が好き。線路も好き。ずっと向こうの知らないところまで続いてるから、どこかへ行ける気がして」

 流れるから川はいい。ねえ誰か、私をどこかへ連れてって。海のほうから潮風が吹きつける。きゃらきゃらと笑いながら彼女は顔を襟にうずめる。

 なかむらみなみがTENG GANG STARRというラップ・ユニットでデビューしたのは2015年。デビュー曲「NO MERCY」で、みなみは自身の経験をもとにしたリリックを歌った。

「私のママは元プッシャー タクシー蹴飛ばすクラッシャー ママは男つくって4回目にしてダルクに搬送」

 みなみの母は現在、薬物など依存症の回復支援施設に入所している。母と娘はこの10年ほど会っていない。

「お母さんのこと大好きです。明るいところ、強いところ、友達が多いところ、自由なところが好き。あと、オムライスがめちゃくちゃ美味しい。ただ、これは母が依存症になる前の話です」

 みなみの母・典子は、芥川賞作家の父と美術教師の母のもとに生まれた。辻堂にある典子の家では数世帯の親戚が集まって暮らし、典子は親戚じゅうから将来を期待されていた。しかし一転、典子は孤立する。高校で大麻を売ったことが発覚したのだ。職員室に呼び出された典子は、教員である母の前で疑惑を追及された。母は娘が反抗する様子を同僚たちの前で突きつけられた。この醜聞に親戚たちは恥じ入った。そして典子を恥の塊のように遠ざけた。

 典子と一也が恋をする。出会った場所は辻堂海岸のすぐそばにある、おでんセンター。若者たちの溜まり場だった。ふたりとも走り屋のチームに属し、海辺の子らしくサーフィンに親しんでいた。娘が生まれると海にちなんだ名前をつけた。

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辻堂駅から車で10分ほど南下すると、相模湾に面した砂浜が現れる。(写真/草野庸子)

「私、本名は美波なんです。でもまったく泳げないんですよ。自己紹介でこれ言うと笑ってもらえるんですよね」

 結婚して実家を出て、典子がみなみを産んだのは20歳のとき。2年後に息子を産み、まもなく離婚。夫婦で栽培した大麻は、きれいさっぱり片付けた。典子は2人の子どもを抱え、辻堂よりも山寄りの町にアパートを借りる。

「私が小学校に入るまで、3人で転々としました。アパートに住めてたのはいいほうで、お金がなくなると車中泊です。子どもって普通、夜が朝に変わる瞬間を見たことないですよね。朝日が上がってから家でゆっくり目覚めるじゃないですか。私は車の中から毎日朝焼けを見てて、その空の様子を保育園で喋ったら同級生に不思議そうな顔をされてびっくりした。その頃住んでたのは夜の店がいっぱいある町で、治安もあまりよくなかったかな」

母にやらされた酒と煙草と薬


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2019年6月号