サイゾーpremium  > 連載  >  五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第五回】/【解離症】の中で得た金と薬と3人の神
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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第五回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】かずきが解離症の中で得た金と薬と3人の神

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いわゆる姫カットのかずきは、自分のことを“僕”と呼ぶ。(写真/草野庸子)

「人が少なくて閉塞感の強い地元を離れたくて、東京の大学を受験しました。それと、このままだと最終学歴が中卒なので、大卒の経歴が欲しかったです」

 18歳で上京、通学しやすい新宿に家を借り、歌舞伎町のキャバクラでアルバイトを始めた。学費も家賃も食費も光熱費も通信費も遊興費も医療費も健康保険料も住民税もすべて自分で稼ぐ生活が始まった。そこで、かずきは2人目の“神様”に出会う。

「キャバクラの女の人ってみんな綺麗でお話が上手ですごいんです。僕は前髪パッツンや姫カットが落ち着くんですけど、男性客のウケが悪いので封印して、お話をがんばって、それでもお客さんに選ばれない。自分が嫌になること、不安になること、忘れたいことがどんどん増えていきました。

 また自傷するようになったので精神科に、自宅にいちばん近い個人医院に行きました。双極性障害、対人恐怖症、ADHD(注意欠如・多動症)と診断されて、精神安定剤のセニラン、抗うつ剤のデプロメール、あと頓服で抗不安剤のデパスが処方されました。薬を飲んだら驚くほど調子がよくなって、僕なんかでも生きてていいような気がしてきました。

 しばらくして、『診察代は安くないし、お金が大変でしょ。連絡先を教えてくれたら、暇なときに相談に乗るよ』と医師が言ってくれました。問診で僕のことを隅々まで話してましたから、不自然には感じませんでした。感激しました。薬を処方してくれるだけでも尊いのに、僕を健康にしてくれる神様が現れた、と。

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薬を処方する精神科医の愛人になると、解離性障害が再発した。(写真/草野庸子)

 LINEを交換して個人的に連絡をとりはじめると、『月20万(円)で俺と付き合わないか』と言われました。医師は40歳の独身男性です。彼は最初のうち、僕のことを“彼女”“恋人”と言ってましたけど、あるとき“愛人”と口を滑らせました。『絶対、誰にも言わないで』と口止めされてましたし、愛人契約なんだろうなとわかってたつもりですが、『好きだよ。君は何もしなくていいよ。そのままでかわいいよ』という言葉を真に受けたかったのかもしれません。優しさの先にはセックスが用意されてたんですよね。

 月20万以外に、化粧品とか服とか、僕がかわいくいられるための物を買ってくれました。じきに20万が30万に増えて、僕ももっと差し出さなきゃいけないと考えました。誰かが好きと言ってくれたら、“じゃあ、僕も好き。こんな体でよければどうぞ”と思うんです。どうして“体”か、ですか? 体以外に僕が差し出せるものって、なにか他にあります? 心とかですか?

 セックスの最中は首をよく絞められました。週に1~2回、会うのはかならず彼の家です。僕のバイトが終わる明け方から、彼の出勤時間まで。休日は深夜に呼び出されました。僕がLINEを返すのが遅れると、興奮した彼が僕の家に乗り込んできました。

 薬は欲しいと言えばなんでもくれて、デパスとマイスリーとレンドルミンをよくもらってました。この頃から解離が再発しました。10針縫うほど深く腕を切って、初めて自分の骨を見たのもこの時期です。骨ってほんとに白いんですね。他人事みたいですか? 記憶がないから、他人の惨状を見てるみたいなんですよ。

 彼の家にいたあるとき、僕が『もうやだ』と叫びながら壁に頭を打ちつけはじめたそうです。それで、彼は僕に鎮静剤を打ったというんですね。目が覚めたら注射器がありました。病院で使ってる薬でしょうけど、なぜ彼の家にあったのか、どういう薬剤なのか、わかりません。僕はだんだん薬がないと生活できなくなってました」

 過剰処方で患者を“薬漬け”にして“常連客”にする精神科医は、医療業界でも評判が悪い。まして女を囲うためになど悪質すぎる。のちに愛人契約を解消して病院を移ると、新しい医師は控えめに言った。「前の先生、ちょっと薬が多いかな」。病院を替えてから、かずきの記憶は飛びにくくなった。医師の愛人だった4カ月間、ずっと意識が朦朧としていたことに気がついた。

新しい居場所を求めて地下アイドルの輪へ


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2019年12月号