サイゾーpremium  > 連載  >  五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第五回】/【解離症】の中で得た金と薬と3人の神
連載
五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第五回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】かずきが解離症の中で得た金と薬と3人の神

+お気に入りに追加

――覚醒剤、コカイン、大麻、向精神薬……クスリに溺れる女たちを嗤うのはたやすい。だが、彼女らの声に耳を澄ませば、セックスやジェンダーをめぐる社会の歪みが見えてくる。これは、文筆家・五所純子による“女とドラッグ”のルポであり、まったく新しい女性論である。

1903_P128-131_img001_520.jpg
↑画像をクリックすると拡大します。(写真/草野庸子)

 高層タワーの街は空の高さを意識させられ、人は玩具のように小さい。新宿副都心のホテルのロビー、約束の時間より20分早く、彼女は太い柱の陰に座っていた。うつむいて物思いに耽っているようでも、うなだれているようでもあった。

 普段はロリータファッションに身を包むが、「今日は初対面の人に話をするので、そぐわないと思って」。レース編みの白いカーディガンに、黒のミニドレス、ストラップパンプス。誰の気も引かず、誰の気も逆撫でしない、誰でもない服装を選んだ。

 名前は“かずき”。本名は“りつこ”。幼稚園の頃から一人称は“僕”で、10歳のときに「たぶん僕はかずきだ」と思った。女性であることに拒否感があったが、どうしようもないことだと受け入れた。現在19歳の大学生。

 かずきは3人の神と出会った。

 1人目の“神様”は合気道の師匠。香川で200人の門下生を抱える大道場に、生まれつき心臓の弱かったかずきを丈夫にしようと両親が入塾を決め、4歳から通いはじめた。

「師匠は父よりも父みたいな存在でした。『道場の子たちはみんな家族だ』、それが師匠の口癖でした。

 40人くらいの塾生を並ばせて、なかでも成績優秀な先輩に対して『俺が死ねと言ったら死ねるか』と、師匠が問いただした場面をよく憶えてます。子どもを使ったパフォーマンスですね。いかに自分が忠誠を尽くされているかを見せびらかして、威信を保っていたんでしょう。先輩は『死ねます』と答えました。次に、『お前はどうだ』と僕が訊かれました。師匠は僕がためらうのを期待してたと思うんです。でも僕は『死ねます』って答えました。別にいつ死んでもいいし、大好きな師匠のためだったら全然死ねたので。『嘘をつくな』と怒鳴られました。

 道場はバチバチの体育会系で、完全に年功序列、体罰も当たり前です。『はっきりものを言え。お前と話しとるとイライラする』とよく言われました。僕が主将を務めたときは、『お前がいなかったら○○が主将になれたのに』『みんながお前についてきたかったとでも思うのか』と……。

1903_P128-131_img002_520.jpg
↑画像をクリックすると拡大します。
かずきは小学生の頃からリストカットを始め、腕を噛みちぎったこともある。(写真/草野庸子)

 僕はみんなのことが大好きなんですよ。師匠のことも、先輩たちも後輩たちも。だけど、僕は死んだほうがいいのかな、と思うようになりました。極端ですよね。小学生のときはリストカットを知らなかったので、ハサミで手首を切ってました。中学生のあるとき、気づかないうちに腕を噛みちぎって、目覚めたら口の中に肉片が残っていて。両親は僕を病院に連れていきました。それまでは不眠や頭痛の治療で脳神経外科から睡眠薬を処方されていたんですけど、このとき精神科で解離性障害だと病名がつきました。いまでも記憶がすっぽり抜け落ちたり、日常で現実感がなかったりします。

『かずきはつらくて自傷をしながらも、主将をやり抜いたんだぞ』。中学を卒業する頃、師匠が道場で褒めてくれました。みんなに自傷がバレて恥ずかしかったけど、幸せでした。神様にやっと認めてもらえたから。

 あの頃のことは合気道しか憶えていません。それ以外は靄がかかってます」

 醒めるかずきは神に心酔し、眠るかずきは神を拒絶していた。高校生になると、しだいに道場から足が遠のいた。すると自傷もおさまった。

 道場と入れ替わるように、スナックなどでアルバイトを始めた。16歳が客の接待業務をし、飲酒をする。違法行為だとかずきは理解していた。「大学に行くのはいいけど、学費は自分で出してね」。前々から両親に言い含められていたため、高校在学中に進学費用を稼がなければいけないと考えていたのだ。

「姉が医大に入りました。僕より姉にお金をかけたほうが先行投資として正しいと思います。姉に劣等感ですか?ないです。お姉ちゃんはすごいですもん。僕が姉の犠牲ですか? そんなふうに考えたことないです。うちは仲良し家族ですよ。昨日もLINEグループで父が実家の猫の写真を送ってきて、みんなで『かわいいね』って返事しあいました」

 バイト先の店長に言い寄られた。かずきは恋愛やセックスにさほど興味がなかったが、「人生の必修科目っぽいじゃないですか。やらなきゃいけないのかなと思って」。45歳の人と交際していると母に話したら、「意味がわからない」と号泣された。泣き虫の45歳の恋人を慰めたら、「包容力がある」と褒められた。

“ビッチ”“援交女”などと噂を立てられ、居心地の悪くなったかずきは高校を中退する。成人式に喪服で行ってやろうと考える程度には噂の発信源を恨んでいるが、当時のかずきは同級生を低能集団だと見下していたので、おあいこだとも思っている。

過剰処方する精神科医と愛人契約を結んだ


Recommended by logly
サイゾープレミアム

2019年10月号

欲望のグラビア学

欲望のグラビア学

大和田南那"青の衝撃"

大和田南那

NEWS SOURCE

    • 【サイゾー×Fresh!】グラドル発掘
    • 【ラウンドガール】圧巻の美脚!

インタビュー

連載

    • 表紙/【北向珠夕】33歳に見られたんです。
    • なんとなく、【クリステル】
    • 【リクナビ】内定辞退率が法律違反以上にマズイわけ
    • 【萱野稔人】宇宙生物学と脳の機能から見る人間(前)
    • 高須基仁/年末にブレイクするのは【山里良太と稲垣吾郎】
    • 【盆踊り×SNS】の親和性
    • 世界最強の【麻雀AI】を生んだ中国人研究者
    • 【ライオネル・リッチー】の逆襲
    • 町山智浩/【アメリカン・ファクトリー】中国資本の米工場を追う
    • 【ラグビーW杯】醍醐味はブレークダウン
    • 小原真史「写真時評」
    • 五所純子「ドラッグ・フェミニズム」
    • 笹 公人「念力事報」/笑う全裸監督
    • おたけ・デニス上野・アントニーの「アダルトグッズ博物館」
    • 稲田豊史/【さよならミニスカート】を読む娘へ
    • アッシュ・ハドソン「アングラ見聞録」
    • 辛酸なめ子「佳子様偏愛採取録」義
    • ビールと人を作る!【ブルワーを育てるブルワー】
    • 更科修一郎/幽霊、箱の中で覗き込むエロと未来。
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』