サイゾーpremium  > 連載  > 五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第四回】/【向精神薬】をパステルに包む彼女
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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第四回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】すべてを傷痕に変えたくて……ロアは向精神薬をパステルに包む

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向精神薬を手放せないロアは、数年前、発達障害でもあることが判明した。(写真/草野庸子)

 すぐに援交掲示板をあたり、7人の買春者から計18万円を得た。

「1人、安くて3万、高くて7万。ドラマや映画では10万とか20万と描かれていたので、実際は安いなって驚きました。ふりかえって値段をつけるなら、10万とかつけたいです。自分のためには1円も使いませんでした。少しでも早く彼に会いたかったので」

 金は細かく渡した。金があれば男は優しかった。だからまた、と奮起する。ロアがどのように金を用意したか、男は一度も尋ねなかった。

「イイオジサンかワルイオジサンか、文面でわかります。タメ口とか絵文字の人は避けてました。だから危ない目にあったことないです。けど1回だけ、絵文字を使う人に連絡しちゃって。クリスマスに彼と会いたくて、早くお金を用意したくて焦ってました」

 彼女が独自に身につけた経験則は、予防線として弱すぎた。車に乗り、運転中の男にフェラチオをさせられ、後悔がちらついた。「車停めてくるから待ってて」と男の家の前で降ろされ、ずいぶん待たされた。森林公園のはずれ、クリスマス直前、冬の夜。よく見ると、その家はがらんどうのモデルルームだった。

「メールを送ったらエラーで返ってきました。つらすぎて、ブログの彼と話したくて電話しました。何度かけても出てもらえなくて、疲れ果てて」

 この1回をきっかけに、ロアは売春をやめた。手元に電車賃しか残っていなかったロアは、クリスマスにブログの男に会えなかった。そのまま中学を卒業して春休み、警察が家に来た。

「とっさに全部しゃべっちゃって、だんだんそれが正しいのかわからなくなって。私が警察署に呼ばれている間、保釈中だったんでしょうか、彼のブログが更新されてました。それから私は薬もリストカットも増えました」

 14歳の女子生徒とみだらな行為をしたとして、青少年保護育成条例違反でブログの男は裁かれ、のちに金銭強要の余罪も追求された。ロアは未成年の証人として衝立越しに法廷に立った。けれど、自分が証人だったのか被疑者だったのか、彼女はいまもわからないでいる。

 現在ロアは、月6万円の障害年金と、アルバイトで生計を立てている。病気で動けないことが多く、仕事は長く続けられない。「『大丈夫?』って気軽に言いあえる優しい関係」を求めて、シェアハウスやポリアモリーを実践するが、ときどき性愛で揉めてしまう。目的と方法がなかなか一致してくれない。

 これまで30種以上の向精神薬を試してきた。マイスリーはラリる。リスパダールは二度と飲みたくない。デパケンはやっと出会えた相性のよい薬だ。薬が好きなわけじゃない。薬を食わないと生きていけない。(つづく

※人物の名称は仮名です。

(写真/草野庸子)

五所純子(ごしょ・じゅんこ)
1979年生まれ。文筆家。映画や文芸を中心に執筆。著書に『スカトロジー・フルーツ』(天然文庫)、共著に『1990年代論』(河出書房新社)、『心が疲れたときに観る映画』(立東舎)がある。

以前の連載記事は下記のリンクから読むことができます
【第一回】ダンサー・君島かれんの野良知性
【第二回】ゴミ収集員【真弓】の物語(前編)
【第三回】ゴミ収集員【真弓】の物語(後編)


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