サイゾーpremium  > 連載  > 五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第三回】/ゴミ収集員【真弓】の物語(後編)
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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第三回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】薬物売買にさよならしたゴミ収集員・真弓の物語[後編]

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(写真/草野庸子)

 1度目の逮捕、25歳。下北沢のクラブに入る直前、職務質問された。小分けした大麻樹脂が見つかり、大麻取締法違反で懲役1年、執行猶予2年。これによりパートナーと決別。覚醒剤の男、大麻の男、LSDの男など、新しい仕入先を得て、うち覚醒剤の男と恋愛をして入籍。夫は薬物の影響から人を勘繰りキレやすいと評判だった。自分が殴られることはなかったが、警官相手に暴力を振るうのを見て、真弓は恋愛感情を失った。戸籍と薬物売買と肉体関係は残した。

 2度目の逮捕、27歳。突然の家宅捜索。量は少なかったが、種類が多かった。覚醒剤取締法違反、大麻取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反、罪状が並んだ。懲役1年4カ月。密告があったと警察から聞かされ、行き場のない怒りが湧いた。憂さ晴らしに、小菅の東京拘置所にいる間は自弁で食料を買い、ひたすら食べつづけた。体重が20キロ増えた。札幌刑務所にて服役。仮釈放を受けなかったのは、保護観察下に置かれる生活が厭わしかったから。満期まで務めあげ、出所から1週間後に覚醒剤を打った。

 3度目の逮捕、28歳。逮捕状に後輩の女の名前があった。女が逮捕され、自供のなかで真弓の名前を挙げたようだ。芋づる式に真弓の他、仲間の売人が捕まる。懲役2年8カ月。栃木刑務所で服役。

「半年くらいはその子を恨んでました。でもだんだん、かわいそうなことをしたと思いはじめました。もっと彼女をケアしてあげればよかった。職質のときの、逮捕されるときの、尋問されるときの、めくれない方法をちゃんと教えておけば、共倒れにならずにすんだのに。その子のほうこそ、私を恨んでたかもしれないですね」

 このとき、真弓は妊娠しているとわかり、堕胎手術を受けている。

 日本で女子受刑者を収容する刑事施設は現在11カ所。札幌、福島、栃木、豊橋、笠松、加古川、和歌山、岩国、松山、麓、美祢。「北海道は待遇がいい」と服役経験者は口をそろえる。

「札幌は刑務官がやさしい人柄の方たちで、ゆるい雰囲気がありました。同じ受刑者の方たちといろんな約束をしました。私は薬をやめる気が全然なくて、売買の段取りをつけてました。連絡先も交換しましたし、『真弓ちゃんが出所するときは、駅まで迎えに来るからね』って言ってくれた方もいました。でも、嘘ばっかりでしたね。約束の場所に行ったら誰もいないし、電話もメールもつながらない。素性を知られる余地がないから、みんな曖昧に話してたんですね。私はすべて真に受けて、本当のことを話してました。

 栃木はきつかったです。刑務官の方は頭ごなしに押さえつけて、私たちの言い分をまったく聞いてくれなかった。わざと私たちを怒らせて懲罰房に入れようとしてるんじゃないか。そう思うことが多々ありました。それで受刑者どうしが険悪になるんですね。常に誰かを陥れる動きがあって、他人の物を隠したり、自分の物が盗まれたように仕組んだり。『真弓ちゃん、よく手紙書いてるから』って切手をもらったことがあったんですけど、私たちは物の受け渡しを禁止されてるので、告げ口されて罰を受けました。ときどき連鎖的にそういうことが発覚するんです」

 耐えきれなくなった彼女たちが叫びを上げるのは、肉体的な痛みだった。「よく医務室のほうから怒り声が聞こえてきました」。緊急でない限り、彼女たちは診療の申し出をして、ひたすら待つしかない。何週間も何カ月も待たされるのが常で、真弓は歯痛を2カ月こらえた。その間、痛み止めがもらえればまだいいほうで、刑務官は「我慢して」と彼女たちのほうを押さえ込んだ。病院に行けたら行けたで、医師は「それくらい我慢できないのかよ」と吐き捨てた。

「なにをやっても人間扱いされなくて、どんどん卑屈になって、目立ってしまうのが恐ろしくて、自分がどんどん消えていきます」

 歯痛は跡もなく消える。彼女たちは肉体的な痛みに苦しみながら、その痛みが極限まで引き延ばされることにより打ちのめされていく。人間が無力化するとき、誰がそれに気づけるのか。肉体的な痛みだけが、私は無力だと思い出させる。

自分を責めて完結させた栃木刑務所での堕胎手術


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