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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第三回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】薬物売買にさよならしたゴミ収集員・真弓の物語[後編]

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――覚醒剤、コカイン、大麻、向精神薬……クスリに溺れる女たちを嗤うのはたやすい。だが、彼女らの声に耳を澄ませば、セックスやジェンダーをめぐる社会の歪みが見えてくる。これは、文筆家・五所純子による“女とドラッグ”のルポであり、まったく新しい女性論である。

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(写真/草野庸子)

 彼女はこつこつと拾う。路肩に集められた袋をひとつひとつ漏らすことなく拾ってまわる。ゴミ収集には定められたコースがあるわけではなく、その日のチームで地図を見ながら一筆書きを考える。真夏のアスファルトは人を焼き、収集車の回転板は人を巻きこみ、つねに危険と隣り合わせの肉体労働だが、「奥の深い仕事」として真弓は気に入っている。

 17歳の頃は向精神薬をインターネットで売りさばいていた。睡眠薬、抗うつ薬、興奮剤を飲みつつ売りつつ、大麻、LSD、MDMA、覚醒剤などの違法薬物もよく食った。18歳で出会った元覚醒剤中毒の恋人が「いっしょにやめよう」と誘った。さまざまな誘いを断りきれずにきた真弓は、この誘いも断らなかった。ただし、この誘惑には幸福感があった。恋人といた2年間、真弓は薬を食わなかった。このまま断ち切れる気がしていた。

「母と揉めました。彼が創価学会に入って、統一教会の信者だった母はそれが許せなくて。私も疲れてきました。選挙のたびに駆り出されて、1000人くらいに電話をかけたんですけど、これで友達が減るのはきついなって。じつは母と実父が離婚したのはそれが原因です。母は実父のクレジットカードで献金したり、養父からもらった結婚指輪を換金して納めたり。私も中学1年までは毎週水曜の集会に行かされたり、韓国のセミナーに連れられて“奇跡の水”をつけたりしてました。家のなかは宗教戦争でしたね。母方の祖母は立正佼成会で、養父方の家は共産党だから宗教を否定してて、誰の言うことを聞いていいかわからなくて。もう神とか聞くのが嫌でした」

 恋人と別れた。そうすることで、母とも新興宗教とも別れられた。そして真弓は新たなパートナーと出会い、薬物売買を再開した。

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真弓の腕や手には、さまざまな柄のタトゥーが入っている。(写真/草野庸子)

「2年ぶりだったので、武者震いしましたね。クラブで仲良くなった男性の方にLSDを勧められました。その方はクラブを拠点に、先輩から買ったドラッグを1個とか2個とか小口で売ってて、いっしょに売ろうと誘われました。LSDとエクスタシー、あとマイクロドット(LSDの極小錠剤)が流行ってました」

 仕入れは折半、売り上げはそれぞれの取り分、商材は共有物として管理した。真弓はライブハウスなども独自に開拓。「ハウスはサイケデリック系、ハードコアやロックは覚醒薬とコカインと大麻、ヒップホップは大麻」と、音楽の好みによって客の欲しがる薬物は分かれる。種類を増やしたら、客層も「19歳から70代」に広がった。

「ネット販売は受け身になるんですけど、対面販売は自分で現地リサーチに行ける分、売りやすかったです。所持金はほとんどありませんでした。仕入れ、携帯の支払い、あとは服と日用品に使ってました。向精神薬のお客さんは相場を知らない方が多かったんですけど、ドラッグは普段からやってる方が多くて、値段には厳しいです。1回売るにつき、私の利益は500円か1000円くらいでした」

 薬物売買には上流と下流がある。労働市場の多重下請け構造と同じで、元請け、下請け、2次請け、3次請け、4次請け、5次請け、6次請けと下るにしたがい、利益率は低くなる。真弓の手元にいつも金がなかったのは、そこが最下流だったからだ。まして暴力団や海外密売組織の資金源とされる違法薬物市場では、末端には小石ほどの金しか流れてこない。これは闇の流通業である。あまりに不透明で、彼女には足元くらいしか見えない。自分が何次請けかわからない。上流がどこかも知らない。たぶん興味もない。

「先に物を仕入れて、後から売り上げを持っていくシステムでした。自転車操業でしたね。お金が遅れたら怒られるし、早ければ褒められるし、額が大きければ認められる。私にとって金銭はあってないようなもので、利益を計算したことがなかったです。やせ我慢もありましたけど、褒められることに躍起になってました。アガリの多い売人というより、シゴトを完璧にこなす人間になろうとしてました」

 こつこつと売る。忽忽と働く。惚惚と死にかける。

札幌刑務所で服役中に薬物売買の段取りをつけた


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