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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第一回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】麻薬のドレスを脱ぎ捨てるダンサー・君島かれんの野良知性

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地元である川崎駅周辺を案内しながら、自身の過去について語る。(写真/草野庸子)

 2017年にかれんは活動休止を宣言したことがある。将来を見据えてのことだった。“普通”への夢とともに、ゴーゴーダンサーとしての限界値を見定めた頃だった。極度に肌を露出し、肉体を激しく揺らし、性的な魅力で人々の視線を引きつける。ベビーフェイスに豊満なバストという組み合わせは、幼女趣味的な日本の文化に合わせた戦略でもあり、君島かれんの新しさだ。でも、だから、この仕事は長くはもたない。かれんは自分の賞味期限を25歳と値踏みしていた。ピークで辞めるのも悪くないと心を決めたが、休止宣言は撤回された。家庭づくりに踏み出した足を止め、盛りを過ぎていく自分に挑むことにしたのだ。けれど、その1年後に逮捕があった。

「私いつもそうなんですよ。這い上がると必ず落とされる。いつ幸せになれるんだろう」

 かれんはふいに“不幸の女王”といった口ぶりになる。自分ほど苦労している人はいないと豪語しながら、「いや、同世代と比べたらですけどね」と年上者を妙に敬い、「いつもはこんなこと話さないけど」とネガティブ自慢にならないように控えめにして。縦社会の規範を身につけ、人をむやみに不快にさせるのを避ける。こういう掟の感覚は親譲りなのだろうか。父も母もばりばりのヤンキーだった。母は白いヤンチャと黒いヤンチャの違いを教えた、父は不良のわきまえを説きながら『クスリだけはやるな』と釘を刺した。親を裏切ったことに罪悪感を覚えるが、父と自分では薬物の定義が違うのだと、かれんは内心思っている。

「ウチはドラッグに依存はしない。やめたいときにやめれるし。ってみんな言うんだけど、ほんとに私は今までそうやってきたから。やりたいって気持ちなんかないよ、そんな粉くらい。でも、薬物が悪いものだからっていうのとも違う。時間の無駄だから。たった15分の効き目で1年を棒に振るから、だからやらない」

 できることをあえてやらない。そんな知性が彼女を内側から支える。薬物の選択も、地元にとどまることも、ゴーゴーダンサーという仕事もそうだ。

「エロ売って体さらけ出してるけど、誰にでも手が届く女ではいたくない。だからキャバクラとかはもうやらない。ダンサーの君島かれんに『憧れてます』って言ってくれる女の子がいるから、私だって『ダンサーだけで頑張ってます』って言いたいし。正直、『一晩100万円で体売って』って言われたこともあるし、今キャバクラで本気で働けば何十倍も収入増える。女でいれば金に困るってことはないんだって経験で知ってる。けどやらない。だって、切り札は使わないほうがカッコよくないですか?」

 古い画像が出てきたのだとスマホを見せてくれた。ティーンエイジャーのかれんは大人びたメイクを好み、目の前にいるかれんのほうがよほど若々しさが演出されている。「イメージはいつでも変えられるから」と言うが、表情はコントロールしきれず、敵意や安堵や媚態がめまぐるしく漏れてくる。そういえば、話を聞いた居酒屋でわらび餅を注文するかれんは「これ食べたいなぁ、ねぇ」とオンナコトバになり、自分にも他人にも有言実行を求めるかれんは「言ったなら、やれよ」とオトココトバになった。「私の中には3人がいて、泣いてる女の子と、お笑い芸人みたいなムードメイカーと、キレキレのビジネスマン」。女の子がときどきうずくまる。そのときはイヤホンを投げて音楽で耳を塞ぎ、再び歩かせてやる。健康状態は常によくない。

「病院はしょっちゅう行ってる。でも精神科行って、病名ついて、薬出してもらって……それをやったら負け。ファッションで錠剤いっぱい飲むみたいな子が増えて、薬物ももはや原宿系みたいなカワイイ毒々しい世界観になってるけど。病気で安心したくない。根性で切り返したい。ほんとは泣きたいし、頼りたいし、励ましてほしいけど、私が助けを求めて来てくれる人は、私を利用するだけの人だから。ウチはひとりで這い上がる」

 クスリを食った女はもっとも低いところに落とされる。防ぎあい、責めあい、慰めあい、誹りあい、女たちが乱反射している。彼女たちはばらばらに散らばり、ひとところに集まることはない。

つづく

(写真/草野庸子)

五所純子(ごしょ・じゅんこ)
1979年生まれ。文筆家。映画や文芸を中心に執筆。著書に『スカトロジー・フルーツ』(天然文庫)、共著に『1990年代論』(河出書房新社)、『心が疲れたときに観る映画』(立東舎)がある。


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