サイゾーpremium  > 連載  > 五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第一回】/ダンサー・君島かれんの野良知性
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五所純子「ドラッグ・フェミニズム」【第一回】

【五所純子/ドラッグ・フェミニズム】麻薬のドレスを脱ぎ捨てるダンサー・君島かれんの野良知性

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ドラッグとはじめて接触したのは14歳のときだったという。(写真/草野庸子)

 仲見世通を抜け、かれんが先へ先へと歩いていく。客を引っ張るでもなく、物を売りつけるでもなく、会話を交わすでもなく、男たちが等間隔をおいて点々と立つ。キャバクラや性風俗店のケバい色彩のなか、人間たちはぼんやりする。「かれんちゃん、変わったね」、男が切り裂くように囃した。「私、変わったんだよ」。かれんが叫んで返した、声のほうには目もくれずに。男の声量のほうが、わずかに大きかった。

 錘だ。どす黒くて、べったりとつなぎ留めて、いつまでも足を引っ張る。ぐれ始めたのは中学生のとき、持ち前の正義感からいじめられっ子をかばうと、全員から敵に回された。はじめて街を出たいと思ったのは18歳のとき、亡き母の念願でもあったダンスに励み、ゴーゴーダンサーとして名前が売れだすと、地元の仲間ほどそれを傷つけた。芸能界をあきらめたのはいつだったか、舞台裏で女性タレントと話すうちに、過去を洗いざらい暴かれる職業なのだと気づいた。「バカはすぐ終わる街」「ここで生まれたくなかった」「人生リセットできるなら早く川崎から引っ越す」、そう言いながらかれんは今も地元に住んでいる。ここから逃げたくないのかと聞かれれば、「昔の関係は切りたいけど、地域としては居心地がいいから。都心にアクセスいいし、ラクだし」と、あっけらかんと笑う。

「いろんな騙され方して、裏切られなかったことなくて、人間不信になって、闇ばっかつくられて。そこに薬物はだいたいあった。だから大事な話は誰にもしない。人を信じたい気持ちは撒き餌みたいに少しずつ分ける。この街で学んだこと」

 かれんには、話したくても話せないことがある。話しても書けないことがある。

「あのときだけは、普通に幸せになると思ったし、普通への憧れが強くなってたのに。ウチはお母さんが死んでるから命の大切さを知ってるし、周りは堕ろしたり、シングルで育ててたり、結局はクスリ漬けになってる母親も見てきてるから。私はそうはならない、普通の家庭やるって、決めてた。私の人生は切り上げて全然いいよ、あなたの言う通りにしますよ、平気でそう考えてた。でも、なんかわかった。わかりたくないけどわかりましたよ、もう」

 未来を思い描けば描くほど、嫌な現実をなぞってしまう。幸福は女と子だけで成り立つわけがないと思うほど、かれんが直面する画は母子像ばかりだった。

女の切り札は使わないほうがカッコいい


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