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来年のW杯開催の危機をめぐって

2010年W杯開催地・南アフリカは本当に世界で一番ヤバい場所か?

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 南アのヨハネスブルク、ツワネ(プレトリア)、マンガウン(ブルームフォンテーン)、ラステンバーグの4都市で開催された同大会は、欧州や南米、アジアなどの各大陸のチャンピオンが参加する国際大会であり、開幕まで1年を切った来年のW杯に向けた予行演習という重要な意味を持っていた。

 今回は日本代表が出場しなかったことで、日本国内での注目度はいまひとつ。しかし、実はサッカー界全体ではこれまで以上に大きな関心を集めていた。 

 関心を集めた理由はずばり、「本当に南アでW杯を開催できるのか?」という疑念である。失業率が20%を超える南アは世界でも有数の凶悪犯罪発生国として知られ、殺人事件は1日平均で50件を超え、その数は日本の約16倍、人口が南アの6倍のアメリカよりも多いとされているのだ。

 治安が悪化した原因はこうだ。91年のアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃後も、白人と黒人の収入格差は縮まらず(平均で4〜5倍の開きがあるという)、思うように生活が向上しないことに腹を立てた黒人たちが、裕福な白人層や外国人観光客をターゲットに犯罪を繰り返しているという。

 特に、同大会の中心地となったヨハネスブルクは最も治安の悪化が顕著で、ダウンタウンでは昼夜問わず、殺人、強盗、強姦、車上狙い、麻薬売買などの犯罪が横行しているといわれ、安全上の理由によってW杯開催を疑問視する声は、これまでも度々各方面から上がっていた。もしコンフェデ杯で何か事件が起きれば、それは来年のW杯の開催の可否にも大きく影響する、それが大会前の大方の見方だった。

 実際、今回ばかりは治安の問題を理由に、現地取材を見合わせる記者やカメラマンも多数いた。ある有名サッカージャーナリストは「いくら仕事といっても、死にたくはない。コンフェデ杯もW杯も南アでやるなら絶対に行かない」と完全に放棄。ただ、ひねくれ者の流浪ライターとしては、どうしても自らの目で確かめなければ納得ができない。本当に、W杯が開催できないほど南アは危険な場所なのか? 平和ボケした日本人がそこに行けば有無を言わさず襲われてしまうのか? そんなわけで、南アの実情を探るべく約3週間の取材を敢行してきたので、ここでは現地で体感してきた生の情報をお伝えしたい。 

ヨハネスブルクで最もキケンな場所に潜入

 今回の取材では、コンフェデ杯の会場となった4都市のほか、ケープタウン、ポートエリザベスを回ることができたが、程度の差こそあれ、治安が不安定なのは南ア国内ではどこも一緒。ダウンタウンに入れば、道端に倒れ込んでいる人や、何をするでもなく辺りを睨みつけている若者がたむろしているなど、真昼でも怪しげな雰囲気に包まれる場合はある。ただし、日本で伝えられているような「街を歩けば場所を問わず犯罪に巻き込まれる」といった情報は、かなり誇張されているように思う。

 とはいえ、もちろん油断はできない。徒歩ではなく、例え車で移動していても、カージャックの危険性があるのだ。報告されているだけでも、1年間に約1万4000件のカージャック事件があり、"スマッシュ&グラブ(停車中の車の窓を割って車の中の荷物等を盗む)"も多発しているという。しかし、危険なエリアを事前に調べ、行き先をしっかり把握し、周囲に目を配りながら運転すれば、事件に巻き込まれる可能性はかなり抑えられるはずだ。

 実際に僕は、取材中に主にレンタカーとタクシーを併用していたが、危険な目に遭うことはなかった。もちろん、それは単なる幸運だったのかもしれない。それでもヨハネスブルクであれば、白人富裕層が住むサントン地区なら車や徒歩でレストランまで行き普通に食事をすることができるし、「信頼できる業者が少なく利用は控えたほうがいい」とされている空港でのタクシー利用も、呼び込みに惑わされずに正規のカウンターで頼めば、明朗な会計で目的地まで運んでくれる。

 また、小心者なのに好奇心に逆らえない僕は、恰幅のいい黒人ガイドのマイクを雇い、知人の日本人記者仲間とともに、ヨハネスブルクのダウンタウンの中でも、最も危険とされる中央駅に足を踏み入れることにした。ポケットには万が一のときにばらまく50ランド札(約600円)を何枚か入れただけの身軽な格好で、足をガクガクと震わせながら向かうことに。だが、駅の構内に入っても殺気だった雰囲気や身の危険を感じることはなかった。

 確かに大勢の黒人の中に自分たち日本人だけがポツリといる光景に、正直にいえば恐怖心が消えることはなかった。ただ、マイクに言わせれば「駅構内やダウンタウンの至る場所には監視カメラが設置されており、大勢の警備員が配置されているので決して危険ではない」とのことである(ガイドなしで向かった場合に、どうなるかはわからないが……)。 

 ただ、コンフェデ杯絡みでまったく事件がなかったわけではない。例えば、大会に参加していたブラジル代表とエジプト代表が宿泊していたホテルには空き巣が入り金品が奪われたほか、地元・南アの記者がヨハネスブルクの会場周辺で記者IDを強奪されるといった事件が起きた。また、FIFAのスポンサーで唯一の日本企業であるソニーもヨハネスブルク近郊でのイベント時に、地元代理店の運転する車が機材の出し入れの際に銃撃される被害に遭ったという。幸い関係者はすぐに逃げたためケガはなかったが、わずかなズレで大惨事になっていたことは否定できない。

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現地の南アサポーターたち。彼らはW杯を心待ちにしている。

 それでも、危惧されたような命にかかわる大事件は起こらなかったし、これらの事件のみをことさらに取り上げて南アを「ただただ危ない場所」と判断するのは、早計だろう。ホテルでの盗難は、どの国でも起こり得ることだし(実際に同じような事件はサッカーの国際大会ではこれまでにもあった)、大会にかかわる銃撃事件にしてもこれ以外には聞いていない。危険があるのは確かだが、それは何も南アに限った話ではないのだ。

 とにかくコンフェデ杯の一応の成功をもって、間違いなくW杯は南アで行われる。日本代表が出場を決めていることを考えれば、来年は日本からも多くのサポーターがアフリカ大陸へ渡ることが予想される。では、サポーターは無事に観戦できるのか? 在南ア日本大使館の職員は注意点をこう語る。

「パックツアーで来るのが安全ですが、個人で手配するなら、宿泊や、特に交通手段をどうするかが重要になります。南アでは公共交通機関があまり利用できる状態ではないので、運転手付きのレンタカーなどの利用をお勧めします。そして、試合後は速やかにホテルへ戻り、単独行動や夜間の外出を控え、危ない場所には行かないこと。スタジアム内はしっかり警備されていますので、注意すべきは一番強盗に狙われやすい帰路。とにかく、事前の準備が大切です」

 犯罪件数などを考えれば、確かに南アは安全とはいえない場所である。ただ「イラクやアフガニスタンのような戦争地域ではない」(同)し、一部の犯罪者を除いてはみな親切で明るく、ホスピタリティ精神に溢れており、およそ1000人の在留邦人だって普通に暮らしているのだ。

 もちろんW杯で、大勢の観光客が南アを訪れれば、比較的裕福な外国人サポーター、特に無防備でお気楽な日本人が格好の餌食になることは想像に難くない。しかし、それなりの情報に基づき、慎重かつ勇気ある行動ができれば、きっとかつてない刺激的なアフリカ初のW杯を体験できるはずだ。

 百聞は一見にしかず。南アは実際に行くのと、ただ外から眺めるのとでは、実にギャップが大きい国なのだ。行くも行かないも、あなた次第。ただし、すべては自己責任だということをお忘れなく。

(取材・文/栗原正夫)
(写真/渡部航滋)

(協力/南ア航空)


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