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沢田研二は氷山の一角――招待枠で動員水増し! 業界“空席”埋め地獄

2019年2月18日 11:00

空席を埋めるレタッチ技術

無料招待や空席を暗幕で覆うなど、コンサートチケットの券売が芳しくない“当日の席埋め措置”はもちろんだが、マスコミ各社や音楽系ウェブメディアへのニュース配信用に送付するライブ写真にもギミックがある。とあるレタッチャーは「人を増やしてほしい」と依頼され、別のライブ写真から合成。果たして、そこまでする意味とは……。

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『沢田研二という生き方』(青弓社)

 昨年10月、さいたまスーパーアリーナにて開催予定であった自身の公演を「9000人の予定が7000人しか集客できていなかった」ことを理由に急遽中止し、世間を騒がせた沢田研二だが、また新たな問題が勃発。一部の週刊誌によると、去る1月19日から行われた日本武道館での3日連続公演にて、空席を埋めるために大量の“無料招待券”【1】がばら撒かれたというのだ。その記事では、ほぼ満席だった初日公演で、キャパ約9000人のうち、実に4割程度が招待客であったと報じられている。

 1回の公演で3000席以上を無料で招待したという事実には、驚くと同時に太っ腹でもあるが、音楽業界関係者によれば、これまでもさまざまな手法で空席を埋めるための対応が取られてきたという。まずは中堅イベントプロモーターA氏が、自らの経験として、こう証言する。

「チケットの販売状況が芳しくない状態のままで公演日程が迫ってくると、空席の対策はイベンター(興行主)の判断になります。その措置はイベンターの考え方によってマチマチなので一概には言えませんが、まずは公演告知やメディア露出といったプロモーションに奔走するのが第一。主催や協賛名義の付いているメディア(テレビやラジオ)がある場合は、その局で告知の増加という正攻法に頼ります。公演日まで1カ月以上ある場合は、集客が見込める前座やサポートアクトを追加でブッキングしたり、近年では影響力のある有名人やインフルエンサーのSNSで告知してもらうこともあります。ただし、後者の場合は追加のプロモーション費用を捻出しなくてはなりません」

 このような正攻法でも効果が出なかった場合に行われる措置が無料招待となる。もちろん、どんなイベントにも、ある程度の招待枠は用意されるが、それとは異なる形態について、長年海外アーティストを担当してきたレコード会社勤務B氏が詳細を語る。

「例えば、8000人くらいのキャパであれば約1カ月前後を目安に、1000人未満の中規模レベルであれば2週間前後を目処に席埋め動員を検討。招待客の対象となるのは、イベンターやレコード会社のスタッフの知り合いや友人を軸としたものから、音楽雑誌/ウェブメディアの編集者やライターなどの媒体招待。さらに人数が乏しい場合は音楽系専門学校の学生をランダムに招待することもあります」

 無料招待は業界関係者に限ったことではなく、本誌読者の中でも関係者経由やなんらかのルートで恩恵を受けた人も少なくないはずだ。中には、まったく興味のなかったアーティストのライブに、無料招待で足を運んだ経験がある人もいるのではないだろうか。

「そのアーティストを本当に好きという人は、すでにチケットを購入している可能性が高い。正直な話、『別に興味はないが、行けないこともない』といった手空きの人たちがコンサートに無料招待されていることが多いです」(A氏)

 しかし、そういった主催者側の努力が実らず、どうしても空席が埋まらないとなった場合には、沢田研二のさいたまスーパーアリーナ公演の際にも行われた「空席部分を暗幕で覆う」という手法も含め、さまざまな強行手段が取られるという。

「通常、物販は会場入口やロビーなどで行われますが、無料招待でも埋まらない可能性が高い場合は、ステージのある会場内に物販スペースを設けることがあります。ほかにも着席タイプの座席の場合は、十分なスペースを確保する。小規模ホールの場合は、あらかじめ柵で囲いを作って、熱狂的なファンの方を1カ所に集めて、いかにもまとまったオーディエンスがいるように見せる手法などで対応します」(B氏)

 しかし、こうした手段をとった場合、パフォーマンスを行うアーティストは気づかないのだろうか?

「招待枠を確保し、暗幕で覆い、いざ開演となったときは、ある程度“形”になっているので、アーティストが気づくことはほとんどありません。ただ、BIGBANGやKARAなどのK-POPブームが到来したときは、勢いで東京ドームなんかでやってしまったので、空席を埋めようにも埋められなかった。そのためアーティストも気づかざるを得ないんですが、当の本人たちは気にしてなかったようですね」(A氏)

 一方でB氏は、とある海外のR&Bアーティストのライブで集客が4割程度であった際に、「ライブ終了後は楽屋の雰囲気がピリピリしていた」と証言している。

 沢田研二のようにドタキャンとまではいかなくても、あまりにも空席が目立つ場合に、アーティストのプライドが傷つく【2】のは容易に想像できる。しかし不思議なのは、空席が大量発生するようなリスクを冒してまで、武道館やアリーナクラスの大規模な会場でライブを開催することだ。A氏がその理由を語る。

「大きな会場を選ぶのは、アーティストが所属する芸能事務所やイベンターなどが、そのアーティストに快くパフォーマンスしてほしいからというのが大前提だと思います。近年では中堅クラスや若手アーティストが“箔を付ける”という意味合い、あるいは自身を鼓舞するためにも大きな会場を確保することも増えてきています」

 将来有望な若手が箔を付けるために大きな会場を選ぶのは、たとえ集客がよくなくとも、それは一種の戒めとなる。しかし問題はやはり、沢田研二のようなベテランアーティストが、ある意味、(現在では)身の丈に合わない規模の会場を使って、収支も含め誰もハッピーにならないような興行を行うことだろう。

「沢田研二さんのドタキャンからもわかるように、ベテラン勢は集客数に非常にセンシティブです。ちなみに松任谷由実さんやDREAMS COME TRUEさんのように、演出上、広い空間が必要なアーティストを除けば、それこそ演歌歌手や往年のフォークシンガーなどは会場の大きさにこだわることはほとんどありません。つまり現在、第一線でないアーティストが大きな会場を確保して空席を埋める行為というのは、イベンターやレコード会社側による、アーティストに対しての行きすぎた配慮なのだと思います」(B氏)

 CDの売り上げ不振による音楽業界全体の不況が続く中、アーティストにとってはライブが大きな収入源となっており、実際アメリカなどはフェスなどを含めたライブビジネスによって、エンターテインメント業界全体が活性化している。そんな中、いまだ旧態依然とした考えを引きずって、ベテランアーティストに対して余計な忖度をするようなこの状況が、日本の音楽業界の未来を壊さないことを願いたい。

(代間 尽)

【1】無料招待券
本文にあるように、空席を埋める手段として、無料招待券がばら撒かれることが多々ある。最前列やステージ近辺のオーディエンスは熱狂的に騒いでいるが、2階席は立ち上がる者もいなく静まり返っている、といった光景を目にしたこともあるはずだ。また、少しでも利益を得るために、格安でチケットをさばく手段などもあり、04年に開催された矢井田瞳の東京ドーム公演チケットは、ヤフオクで1円で売られていたことも。

【2】アーティストのプライドが傷つく
沢田研二のドタキャン騒動の裏で「大御所は年を重ねて目が悪くなっているだろうから、後ろのほうまでは見えていないはず」といったことも業界内ではささやかれていた。そうしたことから鑑みるに、イベンターやレコード会社の過剰な忖度こそ、アーティストのプライドを傷つける要因になっているのかもしれない。

『沢田研二』
去る1月中旬、日本武道館で3日間にわたるコンサートを開催したが、4割が無料招待と報道された。さいたまスーパーアリーナでのコンサートをドタキャンしたことも記憶に新しい。

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