サイゾーpremium  > 連載  > 学者・萱野稔人の"超"哲学入門  > 哲学者・萱野稔人の「"超"哲学入門」第55回/マルティン・ハイデッガー【技術への問い】を読む
連載
哲学者・萱野稔人の「"超"哲学入門」第55回

【哲学入門】人間たちを「用立て」ているものとは、産業機構全体であり、そしてテクノロジーである。

+お気に入りに追加
1809_P106-107_img001_520.jpg
(写真/中山正羅)

『技術への問い』

マルティン・ハイデッガー(関口浩/訳)/平凡社ライブラリー/1500円+税
1953年にハイデガーがミュンヘン工科大学で行った講演をもとにした表題の論文のほか、「技術」をテーマにした計5本の論考を収録。現代技術の本質と人間の関係、存在のあり方を考察する後期ハイデガーの代表作。

山番は森で伐採された木を測定する者だが、外見上、彼は祖父と同じやり方で同じ森の道を見回っている。しかし、そのことを自覚しようとしまいと、今日、彼は木材を利用する産業によって用立てられている。彼は木材繊維の用立て可能性の一部として用立てられ、そして木材繊維のほうは紙の需要によって挑発され、紙は新聞やグラビア誌に送り届け〔zustellen〕られる。しかし、新聞やグラビア誌は、印刷物をむさぼり読むように世論を仕向ける〔stellen〕。それはそれらの印刷物が、用立てられた世論操作にとって用立て可能となるためなのだ。まさに人間は自然エネルギーよりもいっそう根源的に用立て〔Bestellen〕へと挑発されているのだから、けっしてたんなる一用象にとどまることはない。技術に携わることによって、人間は開蔵のひとつのあり方としての用立てに参加する。しかし、用立てが展開される領域としての不伏蔵性それ自体は、けっして人間が作り出したものではない。

 今回も後期ハイデガーの存在論について考察していきましょう。

 ハイデガーの哲学が前期と後期に分けられることは前回確認しました。前期のハイデガーにとって重要なのは、人間にとって世界はどのようなものとして存在するのか、という問いでした。これに対して、後期ハイデガーにとって重要なのは、存在の世界からみると人間はどのような存在なのか、という問いです。

 上の引用文をあらためてみてください。そこでは「用立て」という言葉が何度もでてきます。たとえば現代の山番は、一見すると祖父の代と同じ仕事をしているようにみえますが、より巨視的な観点にたつならば「木材を利用する産業によって用立てられている」といわれています。

 ここには後期ハイデガーの方法がよくあらわれています。後期ハイデガーにとってまず着目すべきは、存在の世界でそもそも何が生じているのか、ということです。引用文の例でいえば、存在の世界で生じているのは、あくまでも大量の木材が紙へと加工され、消費されるという、一連の物質の流れです。その物質の流れからみれば、山番はそれが実現されるために徴用されている一要素にすぎません。ハイデガーのいう「用立て」とは、そうした「徴用」を指しています。つまり「用立て」という言葉そのものに、存在の世界で生じていることを起点として人間存在を考えようとする、ハイデガーの方法論が反映されているのです。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2018年12月号

禁断の映画と動画

禁断の映画と動画
    • 【ライブ配信】儲けのカラクリ
    • 【本田翼】もハマるゲーム実況
    • 決定!2018年【邦画ラジー賞】
    • 【アジア系】が逆襲するハリウッド
    • 注目のハリウッド【アジア系俳優】
    • 【片山萌美】ショーガールグラビア
    • 俳優に責任を問う【報道の愚行】
    • 【自主制作映画】の現場からの悲鳴
    • 【小川紗良×堀田真由】映画大討論会
    • Netflix産【ヒップホップ映像】の社会性
    • 傑作【ヒップホップ】動画10選
    • 【ネトフリ×ヒップホップ】作品レビュー
    • 映画・ドラマ【サントラ】の裏事情
    • ネトフリの【麻薬ドラマ】のリアル度
    • 奇想天外【アフリカ】の忍者映画
    • 世界は【忍者】をどう描いたか?
    • 【深夜アニメの劇場版】が儲かる不思議
    • 劇場版アニメに見る【ポストジブリ】争い
    • 【ジャニーズ】がキラキラ映画で失敗する理由
    • 意外と面白い【キラキラ映画】レビュー
    • 【中東情勢の今】がわかる映画
    • 【芸能プロ】に映画監督が所属する理由

"異能作家"たちが語る「文学、新宿、朗読」論

    • 【石丸元章×海猫沢めろん×MC漢×菊地成孔】対談

NEWS SOURCE

    • タッキーも初出場?【紅白&レコ大】芸能行政
    • 【佐伯泰英】がご乱心?作家と遺産問題
    • 【電力自由化】後の不公平な業界構造

インタビュー

    • 【奥山かずさ】ニチアサで躍進した女優の未来
    • 【TENG GANG STARR】新鋭の男女ユニットラッパー
    • 【ガリットチュウ福島】モノマネ芸人、写真集までの歩み

連載

    • 【橋本梨菜】ギャル男をマネタイズしたいんです。
    • 【RaMu】YouTubeで人気の美女が泡まみれ
    • 【ダレノガレ】は突然に
    • 日本の【AI市場】と日本企業のAI導入の真実
    • 【オスカー社員】が大量退社で瓦解!?
    • 祭事的【渋谷ハロウィン】分析
    • 【出前アプリ】を支えるライダーたちの過酷な日常
    • 【フレディー・マーキュリー】の一生
    • 町山智浩/『ボーイ・イレイスド』ゲイの息子と神のどちらを選ぶのか?
    • ジャーナリスト殺害事件で変わる【サウジ】の覇権
    • 小原真史の「写真時評」
    • 五所純子の「ドラッグ・フェミニズム」
    • 「念力事報」/それがジュリー
    • おたけ・デニス上野・アントニーの「アダルトグッズ研究所」
    • 【カーネーション】フェミ論点全部乗せの名作朝ドラ
    • 「俺たちの人生は死か刑務所だ」ギャングの豪快な人生
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • 【山陰】でビール造りに励む男
    • 【薔薇族】刊行で去っていく友と、死を恐れぬ編集者
    • 幽霊、紅衛兵たちのアニメ映画興行。
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』