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「マル激 TALK ON DEMAND」【138】

【神保哲生×宮台真司×原田隆之】タバコ規制を妨げる財務省、厚労省、政治家の利権

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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『認知行動療法・禁煙ワークブック―Re-Freshプログラム』(金剛出版)

[今月のゲスト]
原田隆之[筑波大学人間系教授]

国会では受動喫煙を防止するための措置を含む健康増進法改正案の審議が始まったが、ザル法との批判も少なくはない。そもそも、先進国の中でも日本はタバコに関する規制に弱腰で、報道も少ない。その最大の理由は、タバコ利権にあると専門家は指摘する。財務省を中心に、JT、さらには政治家も絡む、これら利権の真実とは――。

神保 今回はマル激としては久しぶりに、タバコをテーマとして取り上げます。実は、5月31日は世界禁煙デーだったんです。毎年、世界で禁煙週間が設けられているのですが、日本ではまったくといっていいほどタバコに関する報道がないため、そういう週間が設けられていることもほとんど知られていないのではないかと思います。その一方で、JT(日本たばこ産業株式会社)のテレビCMは毎日のように見ます。日本でも法律でタバコは個別の銘柄は宣伝できないことになっていますし、JTは事実上国内では独占企業なのに、なぜあんなに多くの広告を流す必要があるのか。そのあたりのことも、今回の番組のポイントのひとつになると思います。

宮台 自分たちに不都合な情報をメディアに流させないための、人質ならぬカネ質みたいなものです。電力自由化以前の東電の広告と同じですね。ネットで情報を探せば、新型タバコも含めてどれだけ有害なのか、世界ではどんな対策が取られているのか、すべて明らかです。なのに日本では、対策に向けてほとんど動いていない。実に不思議なことです。

神保 以前、オリンピックに関して、2020年の東京五輪が、食料調達や資材調達をめぐりロンドン、リオと守られてきたサステナブル基準を守れそうもないことをお伝えしました。実はタバコに関しても、2008年の北京五輪から、IOCの意向に基づいて、特に受動喫煙を厳しく制限する「スモークフリー五輪」の基準が守られてきました。(冬季開催地の)ロシアや韓国もこの基準をクリアしています。日本も2020年に五輪を控え、来週から国会で受動喫煙の防止策を含む「健康増進法」という法律の改正案の審議が始まります。

宮台 時期的にはオリンピックに向けて作られたものなのだと思いますが、ネットで読むと、中身はとんでもない。後で議論しますが、適用される店舗はなんと50%以下です。

神保 国政レベルで提出されている法案は、ザル法と言っても過言ではない内容ですが、その一方で、東京都は小池百合子知事の肝いりで、国際水準に近いところまで踏み込んだ受動喫煙防止条例案を6月中に都議会に上程する意向を明らかにしています。その条例が通れば、2020年五輪会場のほとんどは都内なので、国の法律がどんなにザルでも、ギリギリでスモークフリー五輪の伝統が守れる可能性が残されていますが、反対勢力もあるようなので、まだ予断は許せません。

 いずれにしても、都の条例の方も、国会とほぼ同時期に審議が行われるので、ようやく来週あたりからタバコをめぐる法律が動き始めるといった感じです。サーフィンやヨット競技などの会場になる神奈川県も、現在参議院議員を務める松沢成文さんが知事の時代の2009年に、受動喫煙防止条例を全国に先駆けて通しています。

 ただ、日本は連邦国家ではないので、やっぱり国政レベルできちんとしたスモークフリー基準を通せないと、世界に顔向けできないところはあります。そこで今日は、なぜ国は、これだけ被害の実態が明らかになっている受動喫煙を厳しく制限する法律を通せないのか、それがどんな構造によるものなのかなどを議論してみたいと思います。

 ゲストは筑波大学教授の原田隆之さんです。ご専門は臨床心理学や犯罪心理学ですが、タバコ、とりわけタバコの健康被害や受動喫煙の問題について多く発言をされています。

 原田さんは、学者として、タバコとはどういうつながりがあるのでしょうか?

原田 私はもともと臨床心理学、特に依存症について研究してきました。最初は薬物依存、覚醒剤などの研究や治療を行い、徐々にその範囲がアルコール、タバコと広がっていったという経緯です。

神保 日本は「たばこ規制枠組条約」の批准国なので、五輪の有無にかかわらず、国際水準に合わせる責務があります。ところが、今回のような、まあ言ってみればザル法のような法案しか出せなかったことは、どう見ていますか?

原田 非常に恥ずかしいことです。特に受動喫煙の問題については、おっしゃるように国際条約を受諾していますし、2020年の東京五輪に向けて、「この国は果たして、国民の健康や生命を本気で守る気があるのか」ということが問われている。外国からは後ろ向きに見えるでしょう。

神保 日本は刑事司法の制度について、国連人権委員会や拷問禁止委員会などからたびたび改善勧告を受け、委員のひとりからは「中世」のようだとまで言われたりしています。実は、今回のタバコの問題もWHO(世界保健機関)から、日本の姿勢は19世紀並みだと言われています。アメリカだってタバコ利権は強大でしたが、いろいろな変遷を経て、かなり厳しい規制が設けられている。日本がここまで何もできないのは、なぜなのでしょうか?

原田 それはやはり、政治家なり、国のリーダーなりの気概の問題でしょう。当然、どんな問題に対しても賛成/反対はある。しかしその中で、「これは国民の健康や生命を守るものなのだ」と、強いリーダーシップ、気概を持って問題に臨めていない。その一点に尽きると思います。

宮台 原発政策にも関係しますが、政治家が「国民の生命と安全」と「利権」との板挟みになるのは、どこの国にもあることです。利権を超える力は、やはり政治家の理念に基づいた価値の訴えです。首相や大統領が価値を訴えて、利権ゆえに反対している人たちが、これまで通り声を上げにくくするのです。安倍首相は、そういうことができない資質です。

神保 福島第一原発の事故の後、原発問題についてもメディアの責任が問われました。地域独占企業の電力会社は、その財力にものを言わせて、莫大な広告費を使っていることが、メディアが原発の危険性や構造的・根源的な問題について報じようとしない姿勢の根幹にあったことが指摘されたからです。実は電力業界とよく似ていますが、独占企業のJTも『報道ステーション』(テレ朝)や『ニュース23』(TBS)など、数あるメディアの中では比較的タバコの問題を扱ってくれることが期待できそうなニュース番組をスポンサードしていたりします。これはJTのウェブサイトに出ていることですが、JTの年間の広告費は200億円を超えています。だからメディアがタバコ問題を避けているとまで明言はできませんが、実際にタバコの健康被害や受動喫煙問題に関しては一般のメディア上にはほとんど情報が出ていないのも事実です。

宮台 社会学者のマックス・ウェーバーが言うように、市民倫理よりもハードルが高い政治倫理に縛られるべき存在が政治家。市民が挙証する必要はなく、反証責任は政治家にあります。それとは別に、理念で動く政治家が損をしないような、国民世論を形成するというマスメディアの責務が果たされているかどうかが重大です。三権の監視という責務を負う第四の権力だからです。マスメディアが責務を果たさなければ、ネット上にデータがあっても、今日のリテラシー分布を前提にすれば認知が拡がりません。とはいうものの、誰だって健康に悪いのは知っているはず。タバコのパッケージにも書いてありますからね。

原田 喫煙率も徐々に下がってはいます。

神保 喫煙者の割合は現在、男女合わせて全人口の18・2%です。

宮台 1964年の数字を見ると、男性喫煙率は約90%。当時のテレビ番組や映画では、円谷プロ作品みたいな子ども向けのものでも、大人がタバコをスパスパ吸っていました。

神保 そうした中で、受動喫煙問題を扱う「健康増進法」の改正案の審議が国会で始まります。東京都の条例はもう少しわかりやすい名称がついていて、一般的には受動喫煙防止条例と呼ばれているようです。ただこれはいずれも、個人がタバコを吸う権利そのものを奪うものではなく、あくまで受動喫煙を防止することを目的としたものです。

原田 現在のところタバコは違法ではないので、個人の自由というところです。ただ、タバコの煙は流れますから、人が集まるところ、ほかの人が煙にさらされるようなところでは遠慮してもらおう、ということですね。

神保 タバコは喫煙する本人の健康にも重大な影響を与えますが、受動喫煙はもっと深刻なことがわかっています。例えば、厚生労働省がまとめた「タバコの煙から出る有害物質」によると、喫煙者本人が吸う主流煙には、「ニコチン0・46㎎(血流を悪化)/タール10・2㎎(やに・発がん物質)/一酸化炭素31・4㎎(酸素不足を招く)」が含まれているのに対し、副流煙では「ニコチン1・27㎎/タール 34・5㎎/一酸化炭素148㎎」と、ほぼ軒並み3倍近い数値となっています。副流煙のほうが有害物質が多いわけです。一酸化炭素に至っては5倍近い数字です。

 ここに出ている物質は主な有害物質だけで、実際にはタバコの煙には化学物質が300種類も含まれているそうです。原田さんが言われるように喫煙自体は合法なので、人のいないところで吸うのはいいとしても、このデータを見る限り副流煙の被害から人を守らなければならないのは当然のことのように思います。

宮台 タールの成分のところに「発がん物質」と書いてあります。タバコの害というと、やはりすぐに肺がんを思い出すような状況ですが、一方で、現在の新型タバコ、加熱式タバコや電子タバコなどは、タールが出ない、あるいはあまり出ないと謳われており、「だったら吸って大丈夫じゃん」と思っている人が非常に多いと思います。

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