>   >   > 写真によって行われてきた人種差別/アメリカ写真雑誌と【人種差別】

――「ナショナル ジオグラフィック」がこれまでの同誌を顧みて、非常に人種差別的だったと反省の声明を出した。写真は人種差別に対抗する武器である一方、それを助長する危険性もあることを、改めて示唆した今回の声明だが、なぜこのタイミングで発表されたのだろうか? そして、その意義とは?

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ハーゲンベック動物園、1909年、絵葉書

「1970年代まで『ナショナル ジオグラフィック』は米国に住む有色人種をほぼすべて無視し、労働者や家事手伝いという以上に彼らの存在を認めることはなかった。一方、米国外では先住民たちを取材しては、『エキゾチック』『ほぼ裸』『気高い未開人』など、ありとあらゆる決まり文句を使って表現した。『ライフ』誌などほかの雑誌と違って、『ナショナル ジオグラフィック』誌は白人米国文化に深く根づいた固定観念にとらわれ、それ以上のことを読者に考えさせようとはしなかった」

 これは今年3月に米国の自然科学雑誌「ナショナル ジオグラフィック」(以下「ナショジオ」)の編集長、スーザン・ゴールドバーク氏が、かつての同誌の人種差別的な報道を追及した声明だ。

 黄色い縁取りのこの雑誌は1888年に米国で創刊され、130年もの間、時には雄大な自然を、時には破壊されていく森林を、時には飢餓に苦しむ子どもたちの姿を撮影し、フォトジャーナリズムとして掲載してきた。また、地理学の普及を目指すアカデミックな雑誌でもあるため、全米の小中高の図書館には必ずといっていいほど配本されている。今現在、誰もこの雑誌を人種差別的なものだとは思わないだろう。

 ただ、ゴールドバーク氏が指摘するように、確かに「ライフ」が公民権運動で黒人カメラマン、ゴードン・パークスの撮影した写真を掲載し、米国内の差別問題を撲滅しようとしていた頃の「ナショジオ」のバックナンバーを確認しても、公民権運動に触れた記事はなかった。

 また、ゴールドバーク氏の声明「1916年に特集されたオーストラリアの記事には、先住民は『未開人』で『全人類の中で最も知能が低い人々』と書かれていた」のように、実のところはかなりレイシスティックな写真のキャプションもあり、「ナショジオ」は米国を中心とした地理学、つまり、欧米人の認識のもと地図を作製していった雑誌だったのだ。

「19世紀半ばから20世紀前半に創刊された雑誌や新聞が多々ありますが、『ナショジオ』の視点も後発帝国主義国としての米国とは切っても切り離せないものでしょう。帝国主義の時代、植民地から連れてきた人々を展示するという、『人間動物園』と呼ばれる興行がその当時流行しています。彼らの様子を描いた絵や撮影した写真などが掲載される際に、強調されるのは、自分たち西洋人は機械化された効率のいい産業を保持しているのに対して、非西洋人は手作業で遅れているというようなコントラストです。社会ダーウィニズムを背景に、(擬似的な)科学性や客観性に基づいた学問によって自分たちの植民地支配を正当化するわけです。植民地の風景や人々が印刷された絵葉書や立体視が可能なステレオ写真などは庶民の収集の対象になりましたが、それはミニチュアの世界を収集することでもあったわけです」

 そう語るのは本誌の連載「写真時評」で、写真から人種差別を読み解いてきたキュレーターの小原真史氏。例えば、「ナショジオ」でも「カメラマンの使っているカメラを物珍しく見る未開人」という構図の写真が掲載されているが、進んだ西洋文明とそれに驚く非西洋人という、この時代の典型的な植民地表象の一例なのだという。

 また、「ナショジオ」が比較対象として挙げた「ライフ」も、1937年8月30日号の記事「日本人:世界で最も因習的な国民」では、日本の風俗を野蛮で前近代的だと侮蔑的に紹介し、また戦時中の45年8月13日号の記事「ジャップ燃える」では、米兵が火炎放射器で日本兵を焼き殺す様子を撮影した写真が6枚載せられている。戦争終結を喜び、看護婦と水兵がキスをする「勝利のキス」が掲載された、45年8月27日号の2週間前である。

 多かれ少なかれ、米国の写真雑誌は「カメラは差別に対抗する武器」といわんばかりに報道する一方で、他国の文化を標本のように紹介してきた歴史があるのだ。

無断転載の揚げ句に盗用!? オリエンタリズムと写真

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