>   >   > 哲学者・萱野稔人の「"超"哲学入門」第49回/フリードリッヒ・ニーチェの【権力への意志】を読む
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哲学者・萱野稔人の「"超"哲学入門」第49回

【哲学入門】超越的な存在者は、道徳的判断をこえた次元において想い描くべきである。

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(写真/永峰拓也)

『権力への意志』上下

フリードリッヒ・ニーチェ(原佑/訳)/ちくま学芸文庫/各1600円+税
ニーチェの死後、遺稿断片をもとに実妹エリーザベトが編纂して出版。著作としては未完であるが、晩年のニーチェのニヒリズム、キリスト教・道徳・哲学批判といった従来の価値転換をうながす思索が散文表現で現れている。


『権力への意志』(第四書§1034)より引用
道徳ぬきの世界のうちであえてふたたび生きようとする私たち少数者ないしは多数者、信仰から言えば私たち異教徒。おそらくは私たちこそ、異教的信仰とは何であるかをとらえる最初の者でもあろう、――すなわち、私たちは、人間よりもいっそう高級な存在者を想いえがかざるをえず、しかもこの存在者を善悪の彼岸において想いえがかざるをえない。すべての高級であることを非道徳的であることとしても評価せざるをえないのである。私たちが信ずるのはオリュンポスであって――「十字架にかけられた者」ではない。

 19世紀ドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェは「神は死んだ」という有名な言葉を吐きました。

 この言葉には、ニーチェがキリスト教的世界観に哲学的に対抗しようとしていたことがよくあらわれています。たしかに、ニーチェがこの言葉を述べたのは19世紀後半のことですので、すでに科学技術の発達などによってヨーロッパでは神は絶対的な信仰の対象にはなっていませんでした。とはいえ、それをあえて「神は死んだ」と明言することは挑発以外の何物でもありません。その挑発のなかに、キリスト教的世界観に対するニーチェの対抗心がみてとれます。

 その対抗心がニーチェのどのような哲学とつながっているのかを示しているのが上の引用文です。ニーチェはこの文章で「人間よりもいっそう高級な存在者」を「善悪の彼岸において」想い描くべきだと述べています。ここで言われている「人間よりもいっそう高級な存在者」とは何のことでしょうか。それはキリスト教的世界観における神に該当するものです。その神に該当するものを「善悪の彼岸において」、すなわち「善い」とか「悪い」とかいった道徳的判断をこえた次元において概念すべきであるとニーチェは述べているのです。

 キリスト教的世界観において、神とは、この世界をゼロからつくりあげた創造主だと考えられています。これは信仰だけでなく哲学でも変わりません。ヨーロッパの哲学書を読んでいるとしばしば「神」という言葉がでてきますが、これは多くの場合、この世界をつくりあげている根本的で究極的な作用主を意味しています。一言でいえば、この世界の究極原因を神と呼んでいるんですね。

 それを「善悪の彼岸において」想い描くとはどういうことでしょうか。それは、この世界が人間のためにつくられているわけではないということを徹底的に認識する、ということです。

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