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第1特集
1000万部超え!「君たちはどう生きるか」徹底レビュー【9】

【更科修一郎】原作も読み、端折られた要素に笑え――大人が子供に読ませたいあからさまな自己啓発書

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出版界のヒットメーカーが編集を手がけ、瞬く間に100万部を突破した『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)。糸井重里ら著名人も称賛のコメントを寄せ、メディアにも絶賛の記事が並んでいる。本稿では、そんな同書の裏にあるイデオロギーや時代性を、“サイゾー的”に批評、レビューしてみると……。

更科修一郎・コラムニスト&〈元〉批評家

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マンガ編集者を経て、90年代から批評家として活動。2009年、『批評のジェノサイズ』(共著/弊社)刊行後、活動休止。2015年から、コラムニストとして活動再開。


 戦前に書かれた原作は連帯と自己犠牲を美徳と謳う、絵に描いた餅のような理想主義の正論だが、子どもの頃はそれなりに感銘も受けたから、否定はしない。理想と現実の断層を知らなければ、状況と相対し、戦うこともできないからだ。

 しかし、改めて虚心坦懐で読むには、過剰に暖かさや素朴さを纏ったノスタルジック風味の絵がどうにも邪魔だ。子どもにも飲み込みやすい糖衣のつもりで選んだのだろうが、むしろ、良識的な大人が安心するための絵柄であり、良識的ではない大人の舌には雑味ばかりが残る。急がねばならない事情があったのか、肝心の作画も他の作品と比べて粗い。

 もっとも、忘れられかけていた古典を現代の自己啓発書として掘り起こしたことは慧眼であり、いかにもコルクらしい本だ。東大卒のインテリらしい自己啓発趣味が、新規IP開発では足枷となり、『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などの既存IPに依存しているコルクだが、ようやく「ならば、あからさまな自己啓発書を作れば良い」と気づいたのだろう。

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