>   >   > 【インターネット】への誤解がもたらす日本の危機
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クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第46回

【クロサカタツヤ×小川晃通】情報流出は日常茶飯事!?当たり前になったインターネットへの誤解がもたらす日本の危機

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●事故発生要因別の内訳
※1件の事故で複数の発生要因がある場合であっても、主たる発生要因のみで集計している(6293件)
・設備要因:自然故障(機器の動作不良、経年劣化等)、ソフトウェア不具合等の、主に設備的な要因により発生した事故
・人為要因:工事時の作業ミスや、機器の設定誤り等の、主に人為的な要因により発生した事故
・外的要因:他の電気通信事業者の設備障害等による自己の電気通信役務の提供の停止又は品質の低下、道路工事・車両等によるケーブル切断等の第三者要因、停電、自然災害、火災を原因とする、主に当該電気通信事業者以外の要因により発生した事故
・その他:異常トラヒックによる輻輳、原因不明等
出典:総務省 電気通信サービスの事故発生状況(平成28年度)より

――今年8月末に大規模なインターネット障害が起こり、社会のさまざまな部分で不具合が生じた。昨今の不安定な国際情勢もあり「すわっ! サイバーテロか!?」などという話さえ駆けめぐったが、これに限らずインターネットに関する事故は、常日頃から起きているのだということをご存じだろうか。IoTがインフラ化していく中で、つながることがあまりにも当たり前になってしまったインターネットの誤解と現状とは――?

クロサカ 8月25日にインターネットに大きなトラブルが発生しました。大手通信事業者に影響があっただけでなく、その原因がグーグルだったこともあって、大きく報道されました。今回の事故は、単なる「通信トラブル」というだけでなく、背景にはインターネットの将来にかかわる大きな課題があります。そこで今月は、インターネットの技術面について多くの情報発信をされている、「あきみち」こと小川晃通さんをお招きしました。

あきみち 今回の事故は、グーグルがBGP(ボーダー・ゲートウェイ・プロトコル)と呼ばれる通信に必要な情報を、誤って外部に漏えいしたことが原因です。

クロサカ えーと、まずBGPの説明から入りましょうか。インターネットは、ネットワーク同士が接続し、パケット【1】単位で通信する。その相互接続の連鎖を介して、遠い先にあるネットワークともやりとりできるわけですが、その経路をネットワークで正確に把握するための仕組みがBGP。で、大雑把には合っていますか?

あきみち 大まかにはそんな感じです。その上で、BGPはインターネットに不可欠な技術ですが、今回のようなミスやトラブルが起きやすいものでもあるんです。

クロサカ 今回はグーグルもミスを認めて謝罪しましたよね。でも、なぜアメリカで侵したミスが、日本に大きな影響があったんですか?

あきみち インターネットは、そもそも「インター=相互の」と「ネットワーク=通信網」という語源が示すように、小さなネットワーク(自律システム)同士が繋がってできているものです。そして、直接繋がっていないネットワーク同士であっても、他のネットワークが間を取り持つことで通信できます。BGPを人間関係に例えれば、自分が誰と知り合いなのか、リストにして周りの人に教えるようなもの。実社会でも「この人を紹介して」とか「あの人なら知ってるよ」って人と人をつなぐ事がありますよね。

クロサカ グーグルは世界でも有数のネット事業者だから、それだけ繋がっている相手も多い。だから影響が大きくなったんですね。

あきみち ミスの詳細は、本来グーグルが自社の内部だけで使うはずだったリストを間違えて外の人に見せてしまったというものです。グーグルは世界中のユーザーに利用されているので、世界各地の通信事業者と繋がっていて、その中には日本の事業者もある。だから、グーグルが内部で使っていたリストを外部に漏らしたことで、日本にも大きな影響があったんです。

クロサカ ただ、大きな障害といっても、完全にインターネットが使えなかったわけじゃなかったですよね。例えば、グーグルはダメでもヤフーは使えたとか、パソコンで使っているISP【2】はダメだけどスマホは大丈夫だったとか。

あきみち 実はBGPに関する事故はしょっちゅう起きているんですよ。例えば、2014年にはテレコムマレーシアが、今回よりも大きなリストを漏えいしているんです。実は、規模が小さいものなら、こうした事故って世界全体で週に数回は起きているんですよ。でも、ほとんどの場合、それほど騒ぎにはなっていません。

クロサカ インターネットってそんなに脆いものだったんですね。

あきみち BGPは、そもそもそういう弱点を抱えているもの。それを世界中のネットワークエンジニアが努力することによって、覆い隠しているんです。現場でエンジニアが「何かおかしい」と気づいたら、すぐに発生元に連絡したり、自分のネットワークに影響が出ないように設定を変えたりといった対応をしています。それに、今回の事故も、こういうことが起きるかもしれないと事前に想定していれば、その影響を避けることができたものなんです。

クロサカ やっぱり人が頑張っているんですね。

あきみち 今回の件ではグーグルも、漏えいが発生してから8分後には、正しい設定に戻しているんですよ。作業としては、ほぼ最速です。

クロサカ もしかしたらグーグルの中では、映画みたいなドラマチックな出来事が起きていたのかもしれないですね。では、今回に限って、なぜ大きく報道されたんでしょうか。

あきみち 実は、10年4月には中国のISPも、同じような事故を起こしています。でも、その時も特に大きく報道されず、その後11月になってから「中国がインターネットをハイジャックした」と大きく報道されました。

クロサカ ありましたね。実際にネットがつながらなくなったかどうかは覚えていませんが、そういう報道があったことは覚えています。

あきみち 半年以上もたってから大きく報道されたのは、アメリカ政府の諮問機関が報告書で「中国の脅威だ」と事故を問題視したから。実際には中国の意図的な攻撃ではなく、単なるミスだったようですが。だから、こうした事故が報道されるかどうかは、単純な事故の規模だけではなさそうです。

クロサカ ツイッターやフェイスブックの事故なんて、実際の影響は甚大なのに、ほとんどの人は「調子悪いな」「またか」と思う程度です。

あきみち さっきインターネットは脆いとおっしゃいましたが、もともと脆い設計だからこそインターネットは世界的に普及したという面もあるんです。ガチガチに丈夫に作ろうとすると、ものすごくコストが掛かってしまう。だから「脆さ」を前提にして、アプリケーションの機能だとか運用の工夫とかでカバーするというルールにすることで、普及につながったんですよ。壊れてもすぐに直せばいい、という発想です。

クロサカ でも、そうした理解が、一般にはほとんどないですよね。むしろ接続に関しては「繋がって当たり前」と考えるようになった。実際には後ろでエンジニアが泥臭く頑張っているけど、使っている側はそれを理解していない。

あきみち 放っておいても誰かが上手くやってくれるだろうと思われているのでしょう。インターネットの仕組みもルールも、本当はみんなで議論して作っていて、間違いがあったら直してきた。その議論の場には、誰でも参加することができる。でも、そこに参加しようという人が減ってしまっているのが現状です。

クロサカ これだけ社会的な位置づけが増しているなら、そこは政府も支援を頑張らないといけないところなんですが、そうした実態がどこまで理解されているか。

あきみち インターネットに関する議論を行うIETF【3】ICANN【4】には今、中国からたくさんの人が参加して、自分たちに都合の良い方向へ引っ張ろうとしている。日本は昔からネットに係わってきた企業や個人の頑張りに頼ってしまっている。でも、良くするために頑張っても、誰かがお金を払ってくれるわけじゃない。

クロサカ だから業界にも人が来ない。今は残っている人達の「志」に頼ってしまっているけど、どんどん高齢化している。

あきみち クロサカさんも僕も該当するんですけど、インターネットの技術は今のアラフィフの薫陶を受けたアラフォー世代と一緒に育ってきているんですよ。だから、その人達にいろいろ頼りすぎている。でも、その人達が引退したとき、いったいどうなるか。今の通信産業はコストカットばかりなので、若い世代には技術を受け継ぐモチベーションもありません。

クロサカ 金払いの悪い所には来ませんね……。

あきみち 20年前のインターネット黎明期は、つながること自体が楽しかった。でも、今はつながること自体には感動はありません。むしろ、ひとたびつながらないとなると、リアルタイムで1億人が「つながらないぞ」と突っ込んでくるのがSNS時代です。支える側にはものすごいプレッシャーだけど、消費者としてはつながらないことに対して怒るのは理にかなっている。文句を言うことで、通信品質が改善すれば、自分の利益になるんですから、自然な行為です。

クロサカ 一方で、40代、50代と比べると、今の30代以下はそもそも人口が圧倒的に少ない。利用者からのプレッシャーは強まるばかりだし、今のようなエンジニアの努力に頼ったインターネットの運用は難しくなりますよね。

あきみち だから、10年後にはそういったエンジニア自体の希少価値が高くなって、奪い合いが激しくなっているはず。それに、技術者が減るということは、それだけ事故も起きやすくなるし、一度起きた事故が収束するのにも時間がかかるようになる。トラブルに即座に対応するには、それなりの経験と技術が必要。それなのに人が育てられないし、報道等で叩かれると悪循環になりかねない。

クロサカ そこまで社会全体でエンジニアを追い込んでしまった。それでも、皆のインターネットに対する認識を変えられないんだとしたら、それは僕自身にとっての大きな課題です。

あきみち だから、事故を起こさないための解決策を考えた時に、そもそも解決策があれば事故自体が起きてないんですよ。模索は続くんだけど、基本的にすぐにはどうこうならないし、似たようなことはこれからも起きるでしょう。

クロサカ 起きた時にできるだけ影響を小さくするためには、やっぱり支えている人々に対する厚い手当であり、エンジニアを増やすための取り組みをしていかないと。お金を流すとか、経験を積む場をいっぱい提供するとか、そういう具体的なことをしないとだめでしょう。

あきみち 解決策がすぐにみつかるなら問題になっていない。そういう困難に立ち向かわなければならないんだと思います。

―対談を終えて―

「うーん、これでは、明るい結末にならない……」。対談を終えた後、同席していた編集チームの第一声でした。

 あきみちさんと筆者は、年齢もほとんど差がなく、学んだ大学も同じ。インターネットが社会に普及する時代に、同じような文化の中で、同じような体験をしてきました。なので、アプローチは少々異なりますが、お互いの問題意識も、大体同じようなところにあると思います。それは、その大衆化の進展に対して、それを支える側のリソースが足りない、ということです。

 そもそもインターネットは脆弱なものです。しかしそのほうが、ネットワークを作りやすいし、直しやすい。だからこそ爆発的に広がりました。一方で、その大衆化に伴い、利用者の認識もいつしか「つながって当たり前」となりました。むしろつながっている状態に完全に依存しているというのが実態でしょう。

 この矛盾を解く方策は、2つしかありません。インターネットに対する利用者の認識を変えるか。それを支えるリソースを拡充するか。しかし、今さら前者を訴えるのは、先祖返りに近い話です。だとしたら、後者を求めるしかない。

 でもそれは、タダではありません。今回の事故が露呈したように、インターネットは実は人間によって支えられている。人工知能時代になっても、それは当面変わりません。リソースの拡充とは、インターネットを支える人たちに、再配分が行き渡ることに他ならないのです。

 すでにこうした問題意識は、専門家の間では理解されつつあります。そしてそれに対して、いくつかのアイディアはありますが、いずれも解決には時間がかかる。すなわち、今回と似たような事故は、今後も起きる可能性があります。

 デフレ経済の蔓延と少子化の進行で、縮退に向かう日本社会の課題そのものが、大衆化したインターネットにも反映されている。逆に考えれば、この問題解決が、日本が抱える社会課題を解決する、ヒントになるのかもしれません。

小川晃通(おがわ・あきみち)
1976年生まれ。慶應義塾大学政策メディア研究科にて博士を取得。在学中に、インターネットにおけるリアルタイム映像転送を研究。 2003年にソニー株式会社に入社。同社において、ホームネットワークにおける通信技術開発に従事した後、07年にソニーを退職。 現在は、フリーで活動するほか、ネットワークに関する著書の執筆や、ブロガー(Geekなぺーじ、〈www.geekpage.jp〉)としての活動も有名。

クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。クロサカタツヤ事務所代表。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや国内外の政策プロジェクトに従事。07年に独立。「日経コミュニケーション」(日経BP社)、「ダイヤモンド・オンライン」(ダイヤモンド社)などでコラム連載中。

【1】パケット
本来は「小包」という意味の英単語だが、転じて通信の際にデータを細かく分割した単位のこと。ガラケー時代は、データ通信の料金はパケット数に応じて課金していたため「パケ代」とも呼ばれていた。

【2】ISP
インターネットサービスプロバイダーの略称で、個人や組織にインターネットへの接続サービスを提供する事業者のこと。

【3】IETF
Internet Engineering Task Forceの略称で、インターネットで使用される技術を議論するための任意団体。議論はすべて英語だが、エンジニアであれば誰でも参加可能で、新しい技術を提案したり、既存技術の修正を求めたりできる。

【4】ICANN
Internet Corporation for Assigned Names and Numbersの略称で、ドメイン名とIPアドレスの管理運用を行っている非営利団体。もともとはアメリカ政府の関連機関だったが、2015年から民営になり、個人でも参加可能。

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