>   >   > オトメゴコロ乱読修行【30】/【打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?】女心と秋の空は、まるで神隠し

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

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 アラフォー文化系オヤジの「後生大事に」系コンテンツ・映像部門で常連上位の実写作品がある。『花とアリス』『リップヴァンウィンクルの花嫁』でおなじみ、少女映画界のマエストロ・岩井俊二が脚本・監督した単発テレビドラマ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』だ。放映は実に24年前の1993年。「当時14歳の奥菜恵は、それはもう後光が差すほどに神々しい美少女だったのだよ。まさかサイバーエージェントの(以下略)」などと件のオヤジどもが目を細めて語りだすのは、ここ十余年ほど花火の季節の風物詩だ。

 本作はこの8月、劇場用アニメとして鳴り物入りでリメイクされたが、「オタク向けの凡庸な青春アニメに劣化した」「シャフトにしては作画があまり……」「半端に『君の名は。』と『時かけ』要素を足して、ストーリー改悪してんじゃねえ」「これがホントの『偽物語』」といった微妙な評価が悪目立ちしてしまった。汚名返上の意味でも、今回は原作である岩井版に注目したい。

 舞台は海が近いとある町。夏休みの登校日、小学生の典道(山崎裕太)と祐介(反田孝幸)ら男子5人は、「花火を横から見ると丸いのか、平べったいのか」を確かめようと、ある計画を企てる。一方、典道が恋心を抱くクラスメートのなずな(奥菜恵)は、両親の離婚によって夏休み中に転校しなければならない。どうにも納得できないなずなは、プールで泳ぎを競う典道と祐介に遭遇。ふと思い立って、勝者との駆け落ちを企てるが……。

 50分に満たない中編にもかかわらず、中盤のあるシーンには、女子の重要な本質が現れている。典道に駆け落ちを持ちかけたなずなは、ふたりで駅に向かう。その待合室でのことだ。

 まず、なずなが「あ、切符買わなきゃ」と言って画面からフレームアウト、それを典道が不安そうに待っている。少し置いてなずなが戻り、画面にフレームイン。典道が「切符は?」と聞くと、なずなは「切符ってなんの切符?」と言い、典道が混乱していると、まるで駆け落ち計画なんて最初からなかったかのように、「帰ろ」と言うのだ。結果、ふたりは駆け落ちをしない。

 本作は90年代に人気を博した『世にも奇妙な物語』の流れを汲むオムニバステレビドラマシリーズ「if もしも」の1本として制作されたため、このシーンをSF的に解釈することもできる。が、ここは早熟ななずな(典道より身長が高く、とても同級生には見えない)が早々に獲得した「少年から見た、大人の女性の不可思議さ」が現れていると捉えるべきだろう。男の子が一切あずかり知らぬところで、女性は「何かに激昂し、何かに納得する」。その圧倒的な思考のスピードに、男は一生追いつけない。それゆえ、男はその「何か」を一生知ることはない。言い換えるなら、「女子は常に男子の“先”を行く存在」なのだ。

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