サイゾーpremium  > 連載  > 精神異学~忘れられた治療法~【3】/謎の【メスメリズム】は18世紀欧州の"気功法"!?
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精神異学~忘れられた治療法~【3】

【精神科医・岩波明】 謎の「メスメリズム」は18世紀欧州の“気功法”

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[語句解説]メスメルの「動物磁気」

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1734年に生まれたドイツの医師、フランツ・アントン・メスメルによって提唱された“治療法”のこと。人体は、月や惑星の影響のもと“磁気”を帯びており、この磁気をコントロールすることによって病気が治癒すると説くもので、「メスメリズム」とも呼ばれた。彼は一貫して自説を科学的なものだと信じていたが、彼の名は英語の「催眠術をかける」(mesmerize)の語源ともなっている。


 よくある身体の症状として、「痛み」があります。頭痛や腰痛で悩んでいる人は数多い。けれどもこうした痛みに明確な身体の異常が必ず伴っているかというと、そうでない場合もある。原因がわからない「痛み」は、実のところかなり多いのです。痛みをはじめとする身体的な症状は本来、内科、整形外科などが扱うべきものですが、実際には外来を受診した患者の半数以上に、身体的な異常は発見されなかったという報告も存在しています。

 身体的な異常が見られない場合、通常の医療はそれ以上の診療を行うことはできませんが、それでは患者当人は納得せず、「治療」を求めることが多い。検査で異常がないといっても、痛みなどの症状は持続しているわけですから。

 こうした場合、一部の患者は病院を転々とすることになります。いわゆるドクターショッピングです。また代替医療にすがる人もいるでしょう。時には相当高額な金を払い、「気功」などの怪しげな治療法にすがることともなる。不思議なことに、こうした根拠のない治療が効果を上げたように見えることもしばしばあります。

 代替医療が「痛み」に対して目覚ましい効果があるように見えるのは、痛みの本体が心理的な原因によるためかもしれません。数年前に話題になった民間療法に、「ごしんじょう療法」というものがあります。これは「ごしんじょう」と呼ばれる金の棒を患部に当て、痛みなどの改善を図るものですが、少なくない著名人が称賛の声を上げていました。

 そもそも身体的な異常がないにもかかわらず痛みなどを知覚することは、ある種の幻覚に近いともいえます。しかし患者本人は痛みを感じているわけで、意識的にウソをついているわけではない。「偽りの現象」であるにもかかわらず、患者は執拗に症状を訴えるのです。

 多くの代替医療は科学的には根拠のないもので、このような症状を固定化してしまいます。それでは通常の医療はどうかというと、異常はないと冷たく突き放すか、あるいは効果があるとも思えない薬物を延々と投与し続けることさえあるわけです。

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