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【プレミアム限定連載】アメリカン・トゥルー・クライム第14回【最終回】

「NO DRUG, NO LIFE!」『ブレイキング・バッド』のようなドラッグ職人の末路

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――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

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 2000年代初頭、テネシー州マディソンヴィルは荒んでいた。中でもホワイト・トラッシュと呼ばれる低所得層の白人達が暮らすトレーラー・パークではドラッグが蔓延し、無法地帯と化していた。

 ジェリー・ライト(当時33歳)も、荒廃したトレーラー・パークの住人であった。だが彼は妻と子どものためにドラッグには手を出さず、毎月の家賃と生活費を稼ぐべくトラックドライバーとして真面目に働いていた。

「俺は、何よりも家族が第一優先なんだ」

 稼ぎは少なく、長期間家に帰ることもできない仕事であったが、働きもせず昼間からドラッグに入り浸る周囲の住人達とは違う生活を送っている。そう思うだけで、ジェリーは一家の主として誇りを感じていた。だが、そう思っていたのは彼だけだった。

 2003年6月、いつも通り長旅を終えて家に帰ると、そこに妻の姿はなかった。自分が仕事で家を空けている間、 母親のもとをたびたび訪れる妻の行動を知っていた彼は、特に気に留めなかった。ところが、この日友人から聞かされたのは、妻が近所の男と頻繁に密会しているという事実。自分が家族のために働いている間、妻はほかの男とよろしくやっていたのだ。妻の情事を知り、ジェリーは怒り狂った。勢いに任せて浮気相手のトレーラーに乗り込むが、真面目が取り柄のジェリーはボコボコにされてしまう。さらに、その姿を蔑むように妻は子供を連れて彼の元を去って行ってしまったのだ。

 この事件以降、ジェリーの生活は一変した。ショックのあまり、仕事もせずアルコールに頼る毎日を送り続け、それでも心の傷が癒えない彼は、友人から勧められたメタンフェタミン――通称クリスタル・メスに手を出してしまう。

家族思いの真面目な男、メス職人へ変貌

 暗い部屋で毎日のようにキメまくり、なくなればまた売人から買う。負のサイクルに陥った彼は、いつしか出口の見えないトレーラー・パークの住人そのものになっていた。だが、向上心だけは失わなかった彼は、いつもお世話になっている売人たちの羽振りの良さに、次第に心魅かれるようになる。

 そして、彼は地元でメスを密造するカリスマ職人に弟子入りを志願する。ジェリーの情熱に心を動かされた密造人は、必要な道具と材料を揃えさせ、一からメスのレシピを教えた。やがて、メスの密造方法を習得したジェリーは、師匠からありがたいアドバイスをもらう。

「信用できるパートナーを雇え」

 独り立ちしたジェリーはこの教えを守り、地元に住むアーロン・ブラッドリーという男をパートナーとして迎えた。自分のメス工房を作った彼は、パートナーと夜から朝方に掛けて毎日メスの密造に励み、少しずつ金を手に稼ぐようになる。やがてメス職人として軌道に乗ると、彼は調子に乗ってさらなるビジネスの拡大を目論み始める。その計画とは、工房をもうひとつ作ってアーロンと手分けして作ることでさらなる収益を得るというものだった。アーロンにはビジネスパートナーとして、メス作りに必要な材料と道具を投資し、成功したあかつきには極上のメスか大金を返してもらうという、ざっくりした契約を交わした。

 師匠からのアドバイスを無視して、再びひとりでメスを作るようになったジェリーは、少しずつ狂っていった。味見のつもりでメスをキメながら作業を続けていた彼は、周囲の密造人達が警察に摘発され始めたのを知り、疑心暗鬼に陥ったのだ。

 そこでジェリーは再び名案を思いついた。それは、警察の捜査を撹乱するために移動式の工房を作るということ。行動派の彼は新しく雇ったパートナーと共に、キャンピングカーを盗み、山奥へと場所を変えて新しい工房を作ったのだ。

 人里離れた山奥で新パートナーとメスを作り続けた彼には、大金が舞い込んだ。だが、増え続ける札束と比例して、使用するメスの量も増え続けた。彼は、密造したメスの半分を売りさばく一方で、半分をパートナーと楽しむのに当てるようになっていた。

 2004年3月5日、調子に乗った2人は家にも帰らず、20日間連続でメスを作り続けた。だが、あまりにもハイになりすぎて判断の利かなくなったパートナーは、重大なミスを犯す。材料のひとつである大量の赤リンを前にして、 タバコを吸うための火を付けたのだ。火は簡単に引火し、ジェリーの工房は大爆発を起こす。何とか生還したジェリーとパートナーであったが、すべてを失ってしまったのだ。

殺害手段はチョークスリーパー!?

 爆発事故によって、メスの密造ができなくなってしまったジェリーは途方に暮れていた。そこで以前アーロンに投資していたことを思い出した彼は、「今こそ恩返しをしてもらう」と彼に連絡をした。

 爆発から2日後、アーロンと約束をしたジェリーは、一発キメてから待ち合わせ場所の農場へと向かった。だが、時間に遅れて来たアーロンもハイな状態で現れ、ジェリーが期待していたような見返りは一切用意していなかった。アーロンがジェリーに渡したのは、売り物にもならない、出来損ないのメス。あまりにも恩知らずなアーロンに激高したジェリーは、掴みかかった。やがて、取っ組み合いの喧嘩へとエスカレートし、ジェリーはアーロンにヘッドロックをお見舞いする。アーロンはもちろん抵抗し、ジェリーの腕は彼の首元へと下がって行った。チョークスリーパーで力いっぱい締め上げると、アーロンはそのまま窒息死。予想もしていなかったアーロンの死に驚いたジェリーは、パニックに陥った。

 動かなくなったアーロンの体を林の中へと運び、穴を掘って埋め、その場を離れたジェリー。トレーラーに戻った後は、人を殺めた罪悪感と、逮捕への恐怖に駆られ、メスをキメずにはいられなかった。2週間後、抱えきれなくなった苦しみから、彼は妹にすべてを白状する。

 2004年3月23日、ジェリーは妹の通報によって逮捕された。

命がけの脱走、だがその先にあったのは…

 刑務所での生活は、ジェリーにとって耐えがたいものだった。まず、塀の中にはメスが無い。単調な刑務所生活の中で、次第に脱走の計画を立て始めた彼にチャンスがやって来たのは、逮捕から7カ月後だった。

 2004年10月31日。ジェリーが運動のために囚人グループと共に庭に出ると、一行をスコールが襲う。囚人たちは慌てて室内に戻るが、この時、看守が囚人の数を数えていないのを見ていた彼は建物の陰に隠れた。ジェリーを置いてドアが閉まると、囚人服を脱ぎ捨て、普段からその下に着ていたカジュアル・ウェアを露わにし、金網をよじ登る。金網に括り付けてあるレーザーワイアーで血だらけになりながら、彼は脱走に成功したのだ。

 ジェリーは血だらけのまま走った。無我夢中で走った。息も切れ、足が痙攣しても走り続けた。刑務所から3キロメートルほどの場所にある友人宅に押しかけると、事情を説明して車でオハイオ州にある母親の家に送ってもらうことになった。すでにハイな状態であった友人が運転する横で、彼は精神を落ち着かせるためにマリファナを吸い続けた。だが、ようやく母親の家に着くも、そこにはすでに警察の車が何台も止まっていた。夜も更け、友人と別れたジェリーは母親の家を諦め、地元に住む新たな友人宅を訪れた。そして、すり減った精神状態を癒すように、友人から貰ったメスをキメまくった。

 翌日、親切な友人はジェリーの潜伏先として、廃墟となったトレーラーをあてがい、暖房のない部屋で少しでも暖をとれるよう、ブランケットとウィスキー、そして大量のマリファナを与える。しかし、トレーラーの中はとにかく寒かった。さらに、廃墟となってしばらく経つ室内の環境は地獄のようなありさまだった。

「これなら刑務所のほうがマシじゃないか……」

 廃墟の中で過ごすことに限界を感じたジェリーは、母親に電話をかけて匿ってほしいと頼むが、母親は連日受けていた警察からのプレッシャーに耐えきれず、息子の頼みを断らざるを得ない状態にあった。

すべては家族のために… メスとは手を切る!

 潜伏生活を送るジェリーは、極寒のトレーラー内で自問自答していた。ここでの生活に限界を感じていたし、何より自分が逃げれば逃げるほど、家族が警察からのプレッシャーに苛まれるのが耐えられなかった。こんなことになっても相変わらず家族第一優先の精神を持ち合わせていた彼は、出頭を決意する。

 自分が刑務所に入れば家族も解放されるし、この絶望的な生活を終わらせられる。それは、彼にとっても望ましいことだった。だが、「出頭の際、武装した警察官に撃たれたらどうしよう」という新たな悩みを抱えることとなる。そこで、彼が思いついたアイデアは、地元テレビ局に電話をして、「脱走犯が出頭する瞬間を撮影しないか?」と企画を売り込むことだった。さすがにカメラの前では撃ち殺されないだろうと計算したのだ。彼から電話を受けたテレビ局のプロデューサーは、滅多に撮れないシーンを撮影できるとあって大喜び。かくして、ジェリーの出頭はテレビカメラが密着するという、前代未聞のものとなった。

 2004年11月4日正午。覚悟を決めたジェリーは警察署に向かって歩いた。テレビ局から連絡を受けていた警察は、不測の事態に備えてスワットチームを用意してジェリーの出頭を待ち構えていた。警察署の正面玄関に近づくと、屋上に配備されたスナイパーが、彼を狙っているのに気が付いた。自分の胸元に、レイザーサイトから放たれる赤い点がいくつも光っていたからだ。もう、ジェリーは怖くて仕方なかった。叫ぶように指示する警察に従い、両手を挙げて跪く。その後の裁判で、彼には懲役22年の刑が下された。

 妻に裏切られてメスに走り、すべてを失ったジェリー。彼の母親は、2012年に放送されたテレビ番組の中で、「出所後は生き別れになっている子どもと過ごすことで、生きる喜びを知って欲しい」と、家族を大切にし、立ち直ってほしいというメッセージを送った。それは、これまで何よりも家族を優先してきた彼の行いを知る母親からの言葉だった。

 だが、獄中インタビューを受けたジェリーは、不安そうな顔でこう答えている。

「出所したら、真面目に生きたいと思ってます。もうドラッグから離れた生活をしたいんだ。もし、できるなら……」

 彼の心の傷が癒える日は来るのだろうか?

井川智太(いかわ・ともた)
1980年、東京生まれ。印刷会社勤務を経て、テレビ制作会社に転職。2011年よりニューヨークに移住し日系テレビ局でディレクターとして勤務。その傍らライターとしてアメリカの犯罪やインディペンデント・カルチャーを中心に多数執筆中。

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