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神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第122回

【神保哲生×宮台真司×山口真一】正義か批評か妄想か? ネット炎上がなくならない理由

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]

山口真一[国際大学グローバル・コミュニケーション・センター専任講師]

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『ネット炎上の研究』(勁草書房)

ある人物や企業、組織などが発信した内容、行った行為に対し、SNSなどで批判的なコメントが殺到する現象を“ネット炎上”と呼ぶ。芸能人の不倫、組織の不正や汚職といったスキャンダルなど、内容は多岐にわたるが、莫大な経済損失を生むことも少なくはない。諸外国と比べて発生頻度が高いとされるネット炎上に、我々はどう向き合うべきなのか?

神保 今回はネットの「炎上」問題を取り上げます。このテーマは過去に何度か取り上げてきましたが、このたび具体的なデータに基づいて学術的な研究報告が発表されたので、その発表者である国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)講師の山口真一さんをゲストにお招きしました。山口さんは昨年、調査結果を『ネット炎上の研究』(勁草書房/田中辰雄氏との共著)という本にまとめられました。まず、この調査はどんなものだったのでしょうか?

山口 2014年に行ったもので、約2万件のアンケート調査データをベースに、統計分析をした結果などを入れております。インターネットのアンケート調査会社のネットモニターを対象にしたアンケート調査です。対象はすべてネットユーザーで、比較的ヘビーユーザーだということがわかっています。

神保 まず、帯に気になる表現があります。「炎上参加者はネット利用者の0・5%だった」。これは日本中が大炎上しているように見えても、その騒動に実際に参加している人の割合は人口の0・5%にすぎないという意味ですか?

山口 そうですね。こちらの0・5%というのは、過去1年間に「炎上」に参加したことがある、1回でも書き込んだことがある、という数字です。200人にひとり、ということで、「少ない」という意図で帯に記載しています。

神保 なるほど。ご著書では「炎上へのかかわり方」の調査結果として、「聞いたことがない」が7・09%、「聞いたことはあるが見たことはない」が71・35%、「1度見たことがある」が3・28%、「2度以上見たことがある」が16・77%、「1度書き込んだことがある」が0・48%、「2度以上書き込んだことがある」が1・04%というデータが示されています。

宮台 社会学者の辻大介氏が08年に998サンプルの統計調査を行い、ネトウヨの比率はネット利用者の1%弱だろうと推定しています。僕らがもっと多いはずだと感じるのは、ネトウヨが、テレビのような国民的メディアを占拠しているのではなく、2ちゃんねるの特定スレッドのようなタコツボ化したメディアで騒ぐからです。そうしたコミュニケーションの局域を眺めてネトウヨだらけだと感じられるには、1%という数字でも十分です。

神保 しかも、フタを開けてみたら実は騒いでいるのは数人しかいなかった、ということもあり得ると。

山口 その通りです。例えばツイッターのリプライが5000件ついていたら、それはかなり大きな炎上です。しかし、ひとりが1回書き込んだとしても、5000人にすぎない。さらに副アカウントなどもありますから、実はかかわっている人数はもっと少ない。それこそ数人でも炎上は引き起こせますし、0・5%という数字が大きいかどうかというのは、主観も入る非常に難しい問題です。

神保 ネット炎上の定義は、「ある人物や企業が発信した内容や行った行為について、ソーシャルメディアに批判的なコメントが殺到する現象」ということでよろしいでしょうか?

山口 そうですね。たまに「数字の基準はあるのか」というツッコミを受けますが、結論から言うとありません。ただ、「炎上」の年間発生件数を調査しているリスク管理会社があって――そのデータをもとにすると、だいたい年間400件、多く見積もって1000件くらいですが、こうした調査については、しっかり数字を定義して行われています。その会社が対象としているまとめサイトに載り、かつ50回以上ツイートされている、というようなものです。いずれにせよ、1日に1回以上は炎上が起こっている。

神保 中には“荒らし”的なものも入ってくるでしょうが、逆に炎上が起こったことで活発に議論が交わされたようなケースもあるのですか?

山口 炎上状態になっているものは、議論にならないというふうに観察しています。そこがひとつのポイントになっているのではないかと。

神保 なるほど。まともな議論が交わされているなら、それは炎上ではないと。

宮台 議論になるどころか、スクラム組まれて攻撃されたと感じて、炎上のネタにされた人は恐怖を覚えます。皆が一丸となったイジメの攻撃を受けているように感じます。

山口 かなり見られるコメントとして、「お前は何もわかっていない」というものがあります。それはもう議論じゃない。やはり建設的な意見は炎上状態ではありません。

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