>   > 家族水入らずのクリスマスにやってきた殺人サンタの正体は……!?
連載
【プレミアム限定連載】アメリカン・トゥルー・クライム第11回

血に塗られたクリスマス、殺人サンタクロースがやってくる――幸福の再現を求めた父親の最期

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――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

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幸せだった頃のアズィーズ・ヤサダンパナア。

 イルミネーションの光の粒が街を彩り、デパートの安売りセールに人々が群がる。ストリートやショッピングモールには、もみの木農場から仕入れたクリスマス・ツリーが所狭しと並び、クリスマスムード一色に染まる12月のアメリカ。

 アメリカにおけるクリスマスは、カップルや友人達とディナーを楽しむ日本のそれとは違い、家族・親戚が一同に集まり、食事をして一年を労う特別な日。だからクリスマスの繁華街は閑散としているし、都会で暮らす人々は里帰りし、家族の時間を大切にする。

 しかし、2011年12月25日、テキサス州ダラス郊外の街で発生したのは、家族を失い、家族の時間を渇望し続けた男が繰り広げた殺戮の最期だった。

不動産ビジネスの破綻、家族への束縛

 2010年4月、アズィーズ・ヤサダンパナア(当時56歳)は苦境に立たされていた。

 イランから移民としてアメリカに渡り、イラン人コミュニティを相手にした不動産業で成功してきた彼は、妻と娘、息子と高級住宅に住み、順風満帆の日々を過ごしてきた。高校の授業でビジネスを専攻する娘は、父親への尊敬を示し続け、そこに不平の種などあるはずもなかった。だが満ち足りた日々の影で、彼のビジネスはゆっくりと衰退を続けていった。そしてこの年、ついに破産申請を余儀なくされる。

「気さくで素晴らしい男だよ。庭の手入れを欠かさず、私たちが旅行に出る際は、家の管理をお願いしたもんだよ」

 近所に住む男性は、アズィーズに絶大な信頼を寄せていた。

 彼はビジネスに勤しむ傍ら、コミュニティへの奉仕を大切にする男だったからだ。地元の高校で行われるディベートの授業ではボランティアでコーチを務めていたし、何より2人の子どもたちを溺愛する良き父親だった。 しかし、周囲の印象とは反対に、一家を養う金を失った彼の家庭は完全に冷めきっていた。

 過ぐる日々の輝きを失い、落ちぶれていったアズィーズは、家族からの信頼を失うのと同時に、異常なまでの猜疑心に取り憑かれ始めていた。娘の友人は、その異常性をこう語っている。

「彼女は学校に来ると、父親がおかしくなったと泣いていたよ。いつも携帯電話を取り上げて、通話履歴やテキストメッセージを確認するみたいなんだ」

 イスラム教徒であった彼は、高校生の娘にボーイフレンドができたことが許せなかった。だが、自由で開放的なアメリカの地で育った娘は、父親の締め付けに逆らうように交際を続ける。結果、彼の行動はエスカレートしていった。夜、娘が自室の窓から抜け出してボーイフレンドと会わないように、彼女の部屋の窓に釘を打ち込み、着る洋服にも制限を加え、玄関には監視カメラを設置して家族の行動を見張り始めたのだ。

 彼のそうした行動は、家族の信頼をより失わせることになる。2011年11月、光熱費すら捻出できない彼を、“男としての責任を果たさない夫”と陰で文句を言うようになった妻は、一家の主に三行半を突きつけ、2人の子どもを連れて家を出て行った。結婚生活は失敗に終わり、彼の人生は袋小路に行き着いた。自分の素行のもたらしたものに気づいた頃には、もう誰も周りにはいなかった。

訪れた一家離散――遺された光明

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父親の手で殺された家族たち。

 家を出た妻は、大学に進学した娘と高校生の息子を育て上げるために仕事を掛け持ちして働き続け、質素ながら幸せな母子3人の生活を維持した。一方、離婚こそ成立していなかったものの、妻子の出ていった家で孤独に生活を続けたアズィーズの精神状態は限界に来ていた。やがて電気も止まり、水道も通らなくなった家には寒さと暗闇以外に何も残らなかった。住み慣れた家だというのに、まるで迷子にでもなった気分だった。差し押さえの日を待つだけの日々を送る事となった彼は、ホームレス寸前の生活を余儀なくされていたのだ。

 そんなどん底の生活の中でも、彼には一つ楽しみにしていることがあった。それは、クリスマスの日に過ごす家族の時間だった。離散した家族でも食卓を囲うことも少なくないアメリカのクリスマス。アズィーズ一家はイスラム教徒であるが、毎年自宅の周りに煌びやかな装飾を施して特別な時を過ごしてきた。彼はその家族の時間が再びあることを強く信じていた。

 しかし、クリスマスを目前に控えても、家族からの誘いは一向に来なかった。街中が独特の一体感を帯び始めると、彼の生活はより一層孤独を深めた。痺れを切らした彼は、パーティーのまとめ役であった妻の姉夫婦に出席したい旨を伝える。自分の妹の生活を壊した彼を極端に嫌う義姉は、その申し入れをよく思わなかった。その態度を目の当たりにした彼は、不器用ながら持っていた家族への思いを否定され、屈辱で一杯になった。

殺人サンタクロースはSUVに乗って現れる

 12月25日、街が静まり返るクリスマスの朝。アズィーズは白いSUVを運転していた。彼は己の置かれた状況の希望のなさに気がつき、ぐちゃぐちゃだった脳内を整理したばかりだった。フロンドガラスの向こうにある景色はどんどん流れていく。彼は、赤と白のコートとパンツ、ベルトからブーツまでをサンタクロースの衣装で装い、義姉のアパートメントを目指した。

 アパートメントで妻と子どもたちは、父親のいない初めてのクリスマスを家族・親戚と共に過ごしていた。リビングルームでお喋りを楽しみ 、いよいよプレゼントを開けた時、突然目に飛び込んできた光景に、我が目を疑った。家族が団欒するリビングルームに現れたのは、全身をサンタクロースの衣装に身を包んだアズィーズだったからだ。ビジネスの破綻後、もともと冗談が好きだった彼のそうした姿を見ることがなかった一家は戸惑った。義姉の娘はそんな彼の様子を眼前にして、ボーイフレンドにテキストメッセージを送った。

「やっと父親らしくなろうとしてるみたい、今まで迷惑かけて来たから」

 クリスマスに、一家のもとに現れたサンタクロースの衣装を着た父親。しかし、アズィーズが持っていたのは、一家へのプレゼントではなかった。彼が手に握りしめていたのは拳銃だったのだ。家族から見捨てられ、全てを失った彼が最後に選んだのは、一家無理心中。全てをぶっ壊しにきたのだ。直後、彼はその場にいた家族と義姉家族の頭部にそれぞれ銃弾を放ち、その銃口を自らにも向けた。血の海と化したリビングルーム。そして、彼は息絶えながら警察へ通報したのだ。

「はぁ… はぁ…」

「何があったのですか?」

「みな…殺しに…した…」

 それが彼の最後の言葉だった。

 家族の再生を夢見ていたアズィーズ。絶望の淵から光を見失った彼が終わらせたのは、自分を必要としないクリスマスの“家族の時間”だった。

井川智太(いかわ・ともた)
1980年、東京生まれ。印刷会社勤務を経て、テレビ制作会社に転職。2011年よりニューヨークに移住し日系テレビ局でディレクターとして勤務。その傍らライターとしてアメリカの犯罪やインディペンデント・カルチャーを中心に多数執筆中。

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