>   >   > 【ドゥテルテ大統領】とは何者なのか?
連載
神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第119回

【神保哲生×宮台真司×日下 渉】支持率90%――ドゥテルテ大統領とは何者なのか?

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]
日下 渉[名古屋大学大学院国際開発研究科准教授]

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『フィリピンのことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版社)

10月25日、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が来日した。日本国内での一挙一動はあらゆるメディアで報じられたが、人権を無視した制裁や度重なる暴言にもかかわらず、自国での支持率は90%を超えるという。彼が支持される背景には一体、なにがあるのだろうか? 専門家と共に考えてみたい。

神保 今、世界では暴論を振り回す指導者が話題を呼んでいます。ひとりはアメリカ大統領選挙のドナルド・トランプ候補【編註・収録は大統領開票前】。もうひとりがフィリピンのドゥテルテ大統領です。ドゥテルテは先週訪問した中国で突如、「アメリカと決別して、これからは中国と付き合う」などと宣言して世界を驚かせましたが、ドゥテルテの場合はトランプと異なり、数々の暴論も実は計算ずくではないかとの見方もあります。もう少し、きちんと見ていく必要があるでしょう。

宮台 トランプ旋風について、かつてマル激でこんな話をしました。“「正しいこと」より「スッキリすること」が、「正義」より「享楽」が、大切だという感受性が拡っている。それを「感情の劣化」と呼ぶ。でもかつてマルクーゼが喝破したように、テクノロジーは人間から「人間である必要」を免除する。シンギュラリティが訪れてコンピュータが高度化すれば、人間が「正しさ」をジャッジする必要はなくなる。テクノロジーが不完全だから、大規模定住社会を営むべく、概念言語を厳密に用いる理性が要求されてきたが、じきにそうした要求は免除される。そうなったら我々は、理性的な正しさより欲動的な享楽を追及するべきだ。だとすれば、家族でも仲間でもないヤツらに財を贈与せねばならない恣意的な「制度による社会改革」より、マトリックス(胎盤)的コンピュータとポケモンGO的AR(拡張現実)を用いた「テクノロジーによる社会変革」のほうが、押しつけがましくなくて良い――そんな思考がシリコンバレー系インテリの一部に共有されている”と。

 1960年代に活躍したマルクーゼの背景には、戦間期の欧州マルクス主義に遡る認識があります。ルカーチやグラムシの「どんな秩序も、全員の共同利害と一部階級の特殊利害という二重性を帯びる」との認識です。金持ちに貢献する秩序であれ、それが崩れれば貧乏人が食うに困ります。ひどい秩序であれ、秩序があって初めて貧乏人も生きられます。「制度による社会変革」は所詮この二重性を避けられません。ならば「テクノロジーによる社会変革」しかない。
 別言すると、複雑な大規模定住社会の秩序は、ウェーバーの「合法的な正当性」に依拠せざるを得ません。でも、どんな秩序も理不尽な二重性を帯びる以上、特定の「合法的な正当性」に固執する意味はありません。つまり転覆していい。そうした認識に加え、秩序の背景にある「法を守れ」という無意識を醸成する、とするフロイトの議論も重大です。実際マルクーゼは、フランクフルト学派の一員として、欧州マルクス主義とフロイトの双方を参照しています。

 フィリピンの今般の問題は久しぶりにこうした認識のパンドラの箱が開き、くすぶっていた問題が一気に噴き出したようなものです。

神保 そのドゥテルテが、日本にやってきたわけですが、報道を見ていると、中国や日米の関係とか、太平洋のパワーバランスがどうのこうのといった外交的な話ばかりで、フィリピンの国内事情があまり紹介されていないようです。そこで今回は、フィリピンの専門家の方に、ゲストにおいでいただきました。名古屋大学大学院国際開発研究科准教授の日下渉さんです。実は今回、フィリピンの国内政治の専門家をいろいろ探してみたのですが、日本には意外と少ないんですね。

日下 フィリピン研究者はそれなりにいますが、政治を専門にしているのは日本でおそらく10人以内でしょう。若い世代のフィリピン研究者の特徴は、学生時代にNGO活動などで現地に行ってハマってしまった、という人が多いことです。とても自由な国で、解放感があるし、宮台さんの言葉で言えば享楽があるんです。日本では、規律化された社会の「正しさ」に欲望や希望を抑圧されて息苦しく感じたり、孤独感を感じる。だけどフィリピンに行くと、「こんな自由で優しい世界があったのか」と解放されます。官僚主義があまり利いていないから人間関係が重要で、役人だろうが、警察だろうが、友達が来たら職務を放り出して歓待する。フィリピンでは職務を全うすることと出世が結びついておらず、むしろいかに人々といい関係をつくって、そのコネで自分の生活を安定させ、出世するかが大事なんです。それはフィリピンのダメなところでもありますが、同時に魅力でもあります。

神保 6月にドゥテルテ大統領が誕生して以来、俄然フィリピンが注目されていますが、専門家としては現状をどう捉えていらっしゃいますか?

日下 選挙の1年前にはドゥテルテが勝つとは想定できませんでした。つまり、あの享楽的なフィリピン人が「お前らの自由をなくすぞ」と言っている大統領を支持するとは思えなかった。彼のキーワードは「鉄拳の規律」で、「お前ら、自分勝手やるな。自分勝手やったら殺すぞ」と言うのですから。

神保 実際にたくさん殺していますね。市民からすると、あまりにも秩序が乱れてしまい、これ以上、享楽的に生きることが難しくなってきたということなのでしょうか?

日下 おそらく、過剰な自由の弊害に気づく人がだんだんと増えてきたのでしょう。仕事や人間関係のストレスで病んだり死んでしまう日本人にとって、フィリピンはゆるい社会でゆるく生きていくというオルタナティブを見せてくれる存在でもありました。しかし、フィリピン人自身が、人々がちゃんと規律を守る普通の国をつくりたいと思うようになってきたんだなと感じました。

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