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――「制服」と聞くと「ファッション」からはかけ離れたイメージがあるかもしれないが、実は、「アパレル産業」にとっては切っても切り離せない。私服とは違い、“必要経費”として確実にカネを生む、そのマーケット事情とは?

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『世界の警察図鑑』(並木書房)

『国内アパレル市場に関する調査結果2014』(矢野経済研究所)によると、日本の衣類製造業、いわゆるアパレル産業の市場規模は9兆2925億円にも上るという。9兆円といえば、日本における医療用医薬品の年間売り上げに匹敵する額で、大げさだが、命に関わる市場と同じだけのカネが動いているのだ。

 そんな中、制服の市場規模はといえば、『ユニフォーム年鑑2014年版』(ユニフォーム企画調査会)によると、年間の売り上げは5145億円。アパレル産業全体のおよそ20分の1程度だ。しかし、一口に「制服」といっても、学生服、医療従事者の白衣、宅配便やタクシー、鉄道、工場、警備の制服などその種類は多く、あまりに広義。そこで今回は、着用人数の多い「制服公務員」にスポットを当て、彼らの制服事情を経済的視点から読み解くことで、制服ビジネスの実態に迫っていきたい。

 制服公務員といえば、警察官、自衛官などがその代表だが、実は、日本には名前を聞いたことのないような官職まで含めて、実に多種多様な制服公務員が存在する。その数なんと、およそ71万人。消防団や予備自衛官などの非常勤公務員を含めれば、およそ164万人で、人口第5位の都市・神戸の人口(約154万人)をも上回る。そして、これら制服公務員の経済規模は、年間にして約610億円(『ユニフォーム年鑑2014年版』より)。アパレル業界全体の市場規模からは1%に満たない金額だが、ある政府関係者は「公務員の制服というのは、統計上の金額には表れないところでも、いろいろかかっている」とも話す。つまり、この“統計上の金額には表れない”部分を含めれば、その経済効果はもっと大きなものだということだろう。

市場は年間500億円規模?全国26万人の警察官の制服

 まずは、制服公務員の中でも最も人数の多い、警察官の制服事情を見てみよう。

「警察官の場合、制帽から制服、靴までで1セット4万円が目安です。ただ、これはあくまでも冬服の金額で、そのほかに、『合服』と呼ばれるYシャツや、夏服、ブルゾンタイプの活動服、コートなどが支給されるため、任官時に支給される1人当たりの総額は、男性警察官で30万円、女性警察官で40万円程度になります」(某県警関係者・A氏)

 現在、日本の警察官は26万人(うち女性警察官約2万人)。これまでに彼らが任官時に支給された制服の総額は、およそ800億円に上る。その上、冬服・夏服などが12カ月、シャツ類が4カ月、帽子類が16カ月……と、警察法施行令によって制服の使用期間が定められているため、その都度、寿命の来た品目は支給されることになるのだ。警察官1人当たりに支給される全18品目の合計使用期間は平均13カ月。概ね1年でそのすべてが交換されていることになる。

「実際のところ、警察官で制服を着用して勤務しているのは、警務、地域、交通など、全体の半数程度なんです。そこに毎年1万4000人強(11年の警察官試験合格者は1万4704名、12年は1万4331名、13年は1万4823名)という新規採用者の数を加味すれば、年間500億円近いカネが動いているとみられるのでは?」(同)

 しかし、日本の警察は「自治体警察」。つまり、各都道府県の組織である警察の予算はそれぞれの自治体によって負担されており、制服もまた、その中で賄われている。

「制服は、管轄の都道府県ごとに発注されるため、その発注先や価格も異なるんですよ。警視庁のように、所属する警察官が4万人以上のところと、鳥取県警のように1000人程度のところでは、大量発注できる警視庁のほうが1着当たりの価格は安く作れるわけです。また、極寒の北海道と南国の沖縄とでは気温差も大きいですから、それによって生地の素材や厚さが違ったりもします。なので、1人当たりに支給される制服の総額も、都道府県ごとに若干のズレが生じることになります」(別の県警関係者・B氏)

 ちなみに、警察官の制服のデザインや素材もまた、警察法施行令によって定められているという。公務員の制服の製造先は、競争入札で決定されるため、基準さえクリアしていれば、ユニクロだろうがエルメスだろうが、参画は可能ということだ。とはいえ、「規定が細かいので、なかなか新規参入しようとするメーカーがなく、結局のところ、制服専門メーカーが製造していることが多い」(同)という。

「警察官は、例えばサミットのような大規模警備や東日本大震災のような災害派遣で、都道府県を越えて『応援』をすることがある。だから、誰がいつどこで見ても、一目で警察官だとわかるよう、全国的に制服を統一する必要があるんです。にもかかわらず、都道府県ごとに作っているメーカーは異なる。素材や厚みは違えど、それ以外の部分を極力ほかと合わせて基準をクリアしなければならないわけですから、一から参入しようと思うと、その基準を把握するところから大変なんでしょうね」(同)

 ところで、警察官は制服警察官ばかりでなく、私服で捜査する刑事もいるわけだが、刑事が着る私服はすべて自腹で賄われているのだろうか?

「警視庁の場合、年に1回スーツの“オーダーメイド会”があるんです。オンワード樫山をはじめ、一流アパレル会社の社員がやってきて、生地やボタンなどの素材から、シングルかダブルかといったデザインまで、自分の好みでスーツを1着作ってもらえるんです。でも、こんな贅沢ができるのは、カネがある警視庁だけ。神奈川県警なんかでも、以前はAOKIのスーツ券が配られましたが、予算削減でなくなりました」(前出・A氏)

 オーダーメイドスーツとなれば、1着10万円近くすることも珍しくはない。しかも、その対象者は「一般にイメージされる刑事部の刑事たちだけではなく、捜査員全般」(同)とのことで、警視庁の警察官4万2918人(15年度現在)のうち、実に半数以上が当てはまる。いわゆる制服とは違うものの、彼らにとっては、こちらも十分、制服に該当するのではないだろうか。

戦闘装着セットは100万 高額なミルスペック制服

 続いては、警察に次ぐ制服公務員組織である自衛隊を見ていこう。自衛隊と一言でいっても、陸上自衛隊(約15万人)、海上自衛隊(約4万5000人)、航空自衛隊(約4万7000人)で、それぞれの制服はまったく異なる。さらに、それぞれが活動するフィールドごとに服装が変わってくる。例えば、迷彩服は陸海空自衛隊で色彩が異なるし、パイロットや搭乗員は映画『トップガン』のようなフライトスーツに身を包み、事務仕事を行う自衛官は作業服を着用する。その種類は、制服公務員の中でダントツに多いのだ。

 そんな自衛官の中で、制服などの支給品が特に多いのが、陸上自衛官だ。すべての陸上自衛官に支給される制服や戦闘服などは、26品目42着(個)にも上るという。陸自関係者によれば、その額は「調達時期や場所によって一概には言えないが、陸上自衛官1人当たりの制服類が約40万円、戦闘服などの戦闘装着セットが約100万円」だという。任官時に全員に支給されるとすれば、現役陸上自衛官(予備自衛官等を含む)の分だけでも、約2100億円ものカネが動いたことになる。

 海空自衛官についても、「ヘルメットや防弾チョッキなどの戦闘装着セットを除いて、同様の制服が支給されている」(同)とのことなので、海上自衛隊の制服が約180億円、航空自衛隊が約188億円と計算すれば、こちらも現役自衛官には2500億円近い額がかかっている。さらに、警察官同様に着用期間があるため、平均3年ごとにそのすべての品目が交換されている。

「自衛隊の場合、私費で購入するものが多いのも特徴です。幹部自衛官(一般的な軍隊の将校に相当)のほとんどが、支給品とは別に制服をオーダー(約5万円)する慣習がありますし、支給品とは別に、制式化されているブルゾンタイプの簡易制服(約2万円)やセーター(約1万円)を多くの隊員が購入しています。さらに、陸上自衛隊官は予備の戦闘服(約2万円)やインナー類(数千〜数万円)も購入しますね」(同)

 現に、自衛隊駐屯地内には、衣料品店や雑貨屋並みの専門業者の店が並んでいる。

 ちなみに、自衛官の制服、特に戦闘服が高価なのことに関しては、「耐久性はもちろんのこと、対視認性などが考慮された、いわゆる『ミルスペック(軍用企画)』で作られているためです。戦場という最悪の環境の中で隊員を守るための性能が、金額に転嫁されているんですよ」(同)と話す。

 ちなみに、現在、陸海空自衛隊はそれぞれ緑色、青色、灰色を基調とした迷彩戦闘服を導入しているが、これを生地から製造しているのが大手アパレル企業「ユニチカ」だ。同社は14年、染め工過程を行う子会社「大阪染工」(大阪府島本町)をメディアに初公開し、その様子が同年7月27日付の産経新聞に掲載されている。

 記事によれば、防衛省が定めた迷彩柄の生地を製造して戦闘服に縫製できるメーカーは国内に3社しかないという。一見適当にプリントされたと思える迷彩柄は、実は緻密に計算されたパターンであるため、染めズレが市販品の許容範囲の半分、0・25ミリに抑えられている。そして、生地には耐火性に優れた「難燃ビニロン」、染料には摩擦に強い「スレン」が使われており、赤外線カメラでの判別を防ぐため、染料の反射率を計算しながら染めているという。このように、市販品には用いない高度な技術がつぎ込まれているため、戦闘装着セットの金額は100万円近くになってしまうということらしい。

消防団員にも制服支給あり デザインの自由度も高い制服

 最後に、非常勤公務員の数を含めると全国に100万人以上が存在する「消防士」についても触れておきたい。一般に「消防士」、「消防官」と呼ばれる彼らだが、正式な官職は「消防吏員」。警察と同じく自治体ごとに組織されている(ただし、消防の場合は都道府県単位でなく、市町村単位)。加えて、東京消防庁、横浜市消防局のような消防署を持つ常設の消防組織とは別に、一般市民からなる非常設の消防団が約2200団置かれている。これが、消防における非常勤公務員、「消防団員」だ。

 その数は、「消防吏員」が約16万2000人、「消防団員」が約86万人。消防は、最も地域に根を張る制服公務員組織なのだ。そんな消防行政を統括する総務省消防庁関係者によれば、消防の制服にもまた、「消防庁が定めた服制基準がある」という。

「制服(冬服)や夏服、活動服、救助服、防火服、救急服のデザインや素材は、全国統一で決められていて、その基準に沿って各消防組織が業者に発注します。これは、消防団の制服も同じです。ただし、防火服や防火ヘルメットは個人支給ではなく、消防署・消防団に常備されるもので、救助服や救命服はレンジャー隊員や救急隊員だけに支給されるものです」(同)

 消防の制服を製造するあるアパレル業者によれば、「制服(冬服)約4万円、夏服約2万円、活動服約3万円が、すべての消防吏員・団員に2セット支給される」という。1人当たり約18万円分の制服が支給されているということは、現役消防吏員・団員が着任時に動いたカネは1800億円以上だ。

「制服や活動服などの使用期限については、消防吏員か消防団員かで変わってきます。消防吏員については常勤ですので、全品目の平均を出せば、3年ほどで交換になります」(某市消防署関係者)

 つまり、その3年ごとに、およそ1500億円規模のカネが動いていることになる。これに、消耗が激しい防火服や救助服なども加わるため、市場規模の大きさは明らかだ。ちなみに、消防団員については、「入団した時にもらったきり」(某町消防団員)とのこと。

「うちは警察と消防の両方の制服を作っていますが、消防は警察に比べてかなり自由度があります。警察の制服は規定通りに1ミリの違いも許されませんが、消防は自由にエンブレムを作ってみたり、背中に◯◯消防局と大きく名入れしてみたりと、使いやすさと格好良さを追求している印象です。特に、新潟県中越地震(04年)の際、派遣された東京消防庁の格好良い救助服がテレビで放送されて以降、ほかの消防組織も“格好良さ”を求めるようになりましたね。我々も海外の消防組織を参考にしたりして、動きやすく格好良い服を提案しています」(前出・消防アパレル業者)

 今回、警察、自衛隊、消防関係者に取材をしたが、意外なことに、「制服1着の値段」については、担当者であっても把握していなかった。これは、制服ごとに複数の時期・場所で入札を行っているからなのだろう。このため自治体ごとに購入する警察や消防は、国の担当者であっても、「(自治体が)いくらで買ったものなかのかはわからない」との回答している。

 3月初め、制服アパレル企業として紹介したユニチカとクラレが、自衛隊の戦闘服などの納入を巡り談合していたとして、公正取引委員会が独占禁止法違反の容疑で立入検査したことが報じられた。両社は他社の参入が難しい自衛隊の制服市場を背景に、談合を繰り返していた疑いが持たれている。東証一部企業が談合してまでも参入したい公務員の制服市場は、年間約約610億円規模の統計よりも、実ははるかに規模が大きく、警察のそれだけで年間500億円にも上るという。景気にかかわらず、定期交換が法令で定められている公務員の制服。この手堅いビジネスによる売り上げがアパレル業界に与えている影響は、想像以上のものなのかもしれない。

(文/山野一十)

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