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哲学者・萱野稔人の"超"哲学入門 第30回

【哲学入門】英国がEU離脱を選択した背景には「主権は国民のもとにあるべきだ」という主張が根強くある

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(写真/永峰拓也)

『正しい戦争と不正な戦争』

マイケル・ウォルツァー(萩原能久監・訳)/風行社(08年)/4000円+税
正しい戦争と不正な戦争は区別できるのか。アメリカの政治哲学者マイケル・ウォルツァーが、リアルな政治哲学の観点から戦争の道徳的現実を考察する。1977年に刊行され、何度も版を重ねてきたウォルツァーの代表作。

『正しい戦争と不正な戦争』より引用
国家の権利はその構成員たちの同意に依拠する。しかし、これは特別な種類の同意である。国家の権利は個々の人間から主権者の一連の移譲をつうじて、あるいは個人間の一連の交換をつうじて構成されるのではない。実際に起きていることはさらに説明しがたいものである。長い時間をかけて、多くのさまざまな種類の共有された経験と協力的な活動が、共通の生をかたちつくっている。「契約」は結合と相互性のプロセスの比喩であり、その持続的な性質こそ、国家が外部からの侵略に対抗して保護しようとするものである。その保護は個人の生命と自由だけでなく、彼らの共有された生命と自由、彼らがつくった独立した共同体にも及ぶものであり、個人はときとしてそれに身を捧げることもある。

 今年6月におこなわれたイギリス国民投票の結果は世界を驚かせました。まさかイギリスが国民投票でEU離脱を選択するとは、多くの人は予想していなかったに違いありません。その結果について日本では、イギリス国民はいかにバカな選択をしたのか、いかに後悔しているか、といった観点からの報道や論評ばかりがなされています。

 ただ、このEU離脱という選択が今後、イギリスにどのような帰結をもたらすのかは現時点では必ずしも自明ではありません。たとえば経済的な側面についていえば、イギリスはEUという巨大な統一市場への自由なアクセスを失うことで大きな損失を被るのではないか、という見立てがほとんどです。が、それとは逆に、イギリスはEUのくびきから解放されて、より自由にグローバル経済のなかで自国の利益を追求できるのではないか、という見立ても一部には存在します。

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