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批評家・宇野常寛が主宰するインディーズ・カルチャー誌「PLANETS」とサイゾーによる、カルチャー批評対談──。

宇野常寛[批評家]× 森 直人[映画評論家、ライター]

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『STAR WARS フォースの覚醒前夜 ~ポー・レイ・フィン~』(講談社KK文庫)

 夏頃から尋常でない量の広告展開がなされ、満を持して昨年12月に公開された『スター・ウォーズ』エピソード7。生みの親であるルーカスが手を引き、J.J.エイブラムスが新たに監督の座に就いた本作が見せたのは、意外な出来の良さと、それがゆえの「映画」というもののあり方の不可逆な変化だった──。

宇野 僕は全然『スター・ウォーズ』マニアではないんですよ。さらに言うと、J.J.エイブラムス【1】も世間ほど高く評価していなかった。『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(13年)がそうだったように、脚本のギミックで勝負しようとする作品が多くて、どうにも小賢しく感じていた。映画的な快楽を全然信じていないし使えない人なんだな、と。唯一好きだったのが『SUPER8/スーパーエイト』【2】で、あの作品に現れていた、映画史的なものに対するノスタルジックな視線のほうが、エイブラムスのオタク性が有効に働くと思っていた。今回も彼の二次創作作家としての才能がプラスに働いたんじゃないか。こんなこと言ったらファンに怒られるかもしれないけれど、単純に1本の映画として観た時、シリーズ全7作の中で一番「出来が」いいと思う。これはこれで褒め言葉に聞こえないかもしれないけど(笑)。

 僕も感想をひと言でまとめるなら「すごく上手」に尽きる。まったくストレスを感じずに楽しみました。とはいえ基本的にそれは想定内で、もしルーカスが監督するんだったら「今度は何をしでかすのか?」と皆ドキドキしていたと思うんですけど(笑)、J.J.がやるとなった時、誰もがある程度安心したんじゃないかな。宇野さんのおっしゃることもよくわかるんですけど、J.J.に対する世間の評価は『スター・トレック』のリブートを優等生的に成立させた時点でかなり固定したと思うので、今回も確実に80点を取ることは予想できていた。でもエピソード7は「無難以上の出来」だったと思う。

宇野 きっちり現代風にアップデートされていましたね。今初期三部作を観ると、恥ずかしくなるくらいストレートに、少年の社会化の物語から始まって父殺しの神話に接続していくというのをやっている。それが今回は、物語構造はほぼエピソード4を踏襲し、主人公格を黒人の青年と若い女の子に分散していて、政治的な配慮と共感のアイコンの分散として非常にうまく機能していた。キャラクター消費として旧来のファンの欲望を満たしつつ、現代の新しい神話として再提示するという役割を果たしていた。その時点でこの映画は、我々の期待しているものをクリアしていたと思う。

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