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哲学者・萱野稔人の"超"哲学入門 第15回

「権力」とは何か? 「相手を従わせる可能性」について考える

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(写真/永峰拓也)

『権力』

ニクラス・ルーマン(長岡克行訳)/勁草書房/3200円+税
ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンによる権力論。ルーマン独自の社会システム論を背景にして権力現象を分析し、コミュニケーション・メディアとしての権力という新しい捉え方を提示する。

『権力』より引用
それゆえ、権力は、具体的に明確に定められた何事かをなすべきだとする強制とは、区別されなければならない。強制を受けるとき、彼の選択可能性はゼロに下がってしまう。強制は極端な場合には、物理的な暴力の行使ということになり、ひいては、他者が聞き入れない行動を自分で代ってするという結果になる。

 権力とは私たちにとってとても馴染みのあるものですね。「あの人は権力者だ」とか「マスコミは権力を監視すべき」といったように、私たちはよく「権力」という言葉をつかいます。ただ、権力とは何か、と改めて問われると、それを説明するのはなかなか難しいかもしれません。

 基本的な機能に着目するなら、権力とは「たとえ相手がそうしたくなくても、こちらのいうことに相手を従わせる可能性」のことだと定義することができるでしょう。

 たとえば会社で上司が部下に翌日までに大量のプレゼン資料の作成を命じたとします。部下はこの日、たまたま恋人と夕方からデートする約束をしていたのですが、作成を命じられたプレゼン資料があまりに大量なため、残業をしないと翌日までに終えることができません。このとき、部下がデートの約束をキャンセルして残業してくれる可能性がどれぐらいあるかによって、上司に権力がどれぐらいあるのかがわかります。部下が遅くまで残業してでもプレゼン資料を作成してくれるなら、上司にはそれだけのことを命じられる権力があるということになりますし、デートの約束を優先するようなら、上司にはそれほど権力はないということになります。

 権力を有する、とは、このような「相手を従わせる可能性」をもつということです。よく「あの人には大きな権力がある」などといわれますよね。それは、多くの人を自分の意向に従わせることができるということです。あるいは、たとえ無理難題でも他者を自分の意向に従わせることができるということでもあります。より多くの人を、より難しい(より無理な)命題に従わせることができるほど、その人は大きな権力をもつ、ということですね。

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