>   >   > 日本社会と【カメラメーカー】史

――世界に冠たる日本の産業であるカメラ業界。しかしなぜ、他のどの国でもなく、日本企業が世界のカメラ市場において覇権を握ることができたのか? 20世紀初頭から現在まで、国内カメラメーカーの産業としての動向が、日本社会の変革にどのように左右されてきたか、110年余りを紐解いてみた。

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 あらためて言うまでもないが、世界中で売られているカメラの大半はメイド・イン・ジャパンだ。2013年の調査では、デジタルカメラの世界市場における日本メーカーのシェア占有率は85%。レンズ交換式カメラに絞れば、実に98・6%が日本メーカー製だという。有力ブランドが軒並み国内企業なのだから当然だが、そもそも日本がこれほどカメラ産業を発展させたのには、一体どんな経緯があったのだろうか。

 日本に初めて写真術とカメラが伝わったのは1848年、産業としてのカメラ製造が始まったのは明治末頃だった。

「薬品を扱う商店などが高価な海外製カメラや現像用品の販売をするうちに、自分たちでもカメラを作るようになっていきました。最初に大量生産された国産カメラ『チェリー手提用暗函』の価格は2円50銭。公務員の初任給が月50円の時代ですから、庶民の間にもアマチュアカメラマンが数多く誕生したはずです」(日本カメラ博物館主任学芸員・山本一夫氏)

 これを皮切りに、明治末から戦前にかけて多種多様な国産カメラが大小さまざまなメーカーで生産される。が、そのほとんどはイギリス、ドイツ、アメリカなどの先進国で作られたカメラを模倣したものだった。知財やライセンスに今ほどうるさくないご時世、日本メーカーは海外製品を盛大にパクりまくることでカメラ開発のノウハウを蓄積していく。コニカ、ミノルタ、ニコン、キヤノン、オリンパス、リコーといった主要メーカーの母体が続々と誕生したのもこの時期だ。

「カメラ開発の黎明期から、日本にはカメラ一式をすべて国産の部品で製造できるというアドバンテージがありました。とはいえ、当初はレンズ技術もボディの精度も一部を除き海外メーカーに劣るものも多く、世界的には『安かろう・悪かろう』とあまり評価されていなかったんです。それゆえ国産カメラは内需が主で、模倣品を作っても、さほど問題視されなかったともいえます」(山本氏)

 その頃、世界のカメラ産業の中心は精密機械の製造を得意とするドイツだった。ツァイス・イコンやライカといった花形メーカーの「レンジファインダーカメラ」は、近代的な撮影スタイルを確立させ、高性能カメラの代名詞とされた。日本では「ライカ一台で家が建つ」とも言われ、国産品との価格差は圧倒的だった。

 そんな状況に変化が訪れたのは、第二次世界大戦が終結した後の50年代だ。焼け野原になった戦後日本でカメラ産業の復興が始まると、日本メーカーは進駐軍を相手に小型カメラを売り、一方で「打倒、ライカ」を目標に高性能カメラの開発を進める。その成長を後押ししたのが、日本全国に「朝鮮特需」を巻き起こした朝鮮戦争だった。カメラ産業にも特需の余波が押し寄せ、新規参入メーカーも続々登場、技術水準が大幅に上がる。と同時に、世界市場では日本製カメラの評価が大きく見直される出来事が起きる。

「著名な写真家D・D・ダンカンが、日本人の友人に紹介されたニコン製レンズで撮った朝鮮戦争の写真を米国の『LIFE』誌に寄稿したところ、そのクオリティが世界中のプロカメラマンの間で一躍評判になったんです。それまで“安くて性能が悪い”と敬遠されていた日本製カメラが、一転して“安くて実は性能が良い”というイメージに変わっていきました。こうした追い風を受けて、日本製カメラは世界水準の技術力とブランド力に肉薄していきます」(山本氏)

 そんな日本メーカーの行く末を決定づけたのが、「一眼レフ」への方向転換だ。高級カメラの象徴だったライカ型(レンジファインダー機)の模倣に見切りをつけ、より将来性のある一眼レフカメラの開発に力を注ぎ始める。

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