>   >   > 【稲田豊史】“俺の嫁”にこだわり続けるオトコと、ライフステージを駆け登るオンナ
連載
【premium限定連載】フィクションで解剖——オトメゴコロ乱読修行【1】

やっぱり女性には年上がちょうどいい?“俺の嫁”にこだわり続けるオトコと、ライフステージを駆け登るオンナ

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――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

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『her/世界でひとつの彼女 ブルーレイ&DVDセット(初回限定生産/2枚組)』 

  今回は、超高性能OSと恋愛に落ちてしまうSF映画 『her/世界でひとつの彼女』をピックアップ!

 年明け早々から高橋ジョージと三船美佳の離婚話がワイドショーを騒がせ、バツイチ男性とロリコン志向な中年童貞の耳目を集めたのは記憶に新しい。離婚の原因についてはさまざまな憶測が飛び交ったが、98年の結婚当時16歳だった三船の16年間の変化に、同じく当時40歳のジョージ兄貴が追いつけなかったと見て、まず間違いないだろう。女性の16歳から32歳という期間には、容姿から思想信条、男の好みから好きな体位まで、ほぼ別人になると言ってもいいほどの変化があるが、男性の40歳から56歳なんぞ、性欲と毛根(とリーゼントの完成度)が弱まる程度にしか変化がないのだから。

 とはいえ、これを「24歳差カップルの悲劇」とイロモノ視して他人ごと扱いするのは早計だ。16歳に限らず女は変化・進化・成長する生き物だが、一方で40歳に限らず男は基本的に変わらない生き物だからである。「変わったのは君であって、僕ではない。だから僕は悪くない」は、離婚係争中の夫婦間に飛び交う会話ベスト3に入る(筆者調べ)。こうした物言いに「納得いかねえ!」という方、および手痛い離婚の総括がまだ済んでいないという繊細ボーイズは、ぜひ2014年のアカデミー脚本賞を受賞したオシャレ映画『her/世界でひとつの彼女』を観ていただきたい。金田一少年ばりに謎がすべて解けること請け合いだ。

 ストーリーは単純だ。妻キャサリンと別居中で離婚に踏み切れない主人公セオドアが、人工知能型のOS「サマンサ」に恋していい仲になるものの失恋する話、おしまい。

 宣伝アートワークが“繊細で優しい僕に舞い降りた切ないラヴ・ストーリー in LA”系のルックゆえ、文化系男女のゆるいデートムービーに偽装されているが、映画の主張はむしろエゲツない。

 そのエゲツない主張とはズバリ、男女の絶望的な性差である。曰く、「男は女の変化に戸惑い、女は男が変化しないことに苛立つ」。男は結婚しようが子供ができようが、基本的には変わらない。否、変わりたくないと願う生き物だ。独身時代と同じように地元の同級生と飲みたいし、フットサルをしたいし、パチンコに行きたいし、CDやDVDやフィギュアを揃えたいし、ニューバランスの1000番台を履きたいし、『劇場版ヱヴァ』の初日にも並びたい。

 しかし女は人生の各フェイズ、環境の変化に応じて、友人関係も、趣味も、生活習慣も、思想信条すら、どんどん変えていく。否、変えていく機能を備えている。学生時代に憧れだった先輩のTwitterアカウントに突然リプを飛ばしたりはしない。一方で、ノンポリ文化系女子が震災きっかけで突然デモに参加したり勉強会を開いたりする。適応力の高さと、それに伴う進化のスピードが、男性の比ではないのだ。妊娠や出産が肉体自体の作り替えを伴うから……的な説はそっち系の研究に譲るとして、セオドアが妻キャサリンと破局した理由とサマンサに失恋した理由は、いずれも同じくこれだった。

 キャサリンは厳格な両親に抑圧された箱入り娘だったが、結婚後、研究者として、人間として、夫のセオドアを軽やかに追い越してスペックアップし、セオドアが自分に押し付けてくる理想像を不快に感じはじめる。OSのサマンサは『アルジャーノンに花束を』よろしく急速に知性が向上し、セオドアの「お守り役」に飽きたらなくなっていく。結婚当時16歳、まだ少女だった三船美佳が、その後人間的・社会的に成長したことで、結婚当初にジョージ兄貴が魅了された“お嬢ちゃん”のフレームに収まりきらなくなってしまった流れとそっくりだ。

 女子は箱入りな“お嬢ちゃん”から、言葉と知能を得た“成熟した女性”へと必ず成長する。しかし“お嬢ちゃん”時代に関係を結んだ男としては、“お嬢ちゃん状態の彼女”に惹かれて交際を“契約”した手前、彼女が人間的・社会的に成長するにしたがって、約束が違うと声を荒らげる。これは、12歳のジュニアアイドルに萌えていた男がその4年後、順当に成長した彼女を見て「超絶劣化」だの「終了のお知らせ」だのと不満を漏らす醜態と、さして変わりはない。だがサマンサの言葉を借りて言うなら、女としては「停滞こそかえって苦痛」である。停滞を「少年の心」と言い換えてもいい。

 なぜ「女に学問は必要ない」といった差別的な物言いが、そこそこ近現代に至るまで潜在的な市民権を得てきたのか。なぜ総合職の商社マンはキャリア志向のない一般職の女性と結婚“すべき”であり、新郎は新婦より学歴が高くある“べき”だったのか。その理由は、「男は成長しない生き物だから、変化・進化・成長しない(と夫に錯覚させられる)女性を嫁にもらうのが、家庭安泰のためにはベストソリューション」という経験則が男の側にあったからではないか。もしかすると女の側にも、(諦めに近い打算として)あったかもしれないが。

 では現代日本において、変化・進化・成長しない“俺の嫁”を愛でる嗜好が何かといえば、先進国の中でも日本だけが重度の異常者扱いを免れる二次元ロリコン文化であり、少女アイドル文化である。ちなみに劇中のセオドアはロリコンでも少女趣味でもないが、最後まで未練を引きずる元妻のキャサリンは幼なじみという設定だ。

 ……「幼なじみ」! そう、日本のギャルゲーや萌えアニメ界において、本命ヒロインの定番属性の座に君臨し続けた、例のアレだ。『ときめきメモリアル』の藤崎詩織である。

 しかしセオドアは藤崎詩織(キャサリン)に届かない。詩織と見合うスペックをセオドアが持ちあわせていないからだ。だから、キャサリンにもサマンサにも去られたセオドアは、物語のラストで自分のスペックに見合った別の女に接近する。元カノだ。その「このあたりで手を打とう」感たら、半端ない。元カノのスペックは「セオドアのことを学生時代から知っている、才能のないドキュメンタリー作家」。この元カノが元妻(自分をもっと幼いころから知っている、才能のある幼なじみ)の超絶劣化妥協版であるのは、絶望的に間違いない。絶望的に。

『her/世界でひとつの彼女』(2013年・米)
少しだけ近未来のLA。手紙代筆屋の中年男セオドアは発売されたばかりの人工知能型OSに恋をするが……。OSの声を担当するのはハスキーエロボイスのスカーレット・ヨハンソン女史(バツイチ)。監督は高偏差値オシャレ映画連発野郎のスパイク・ジョーンズ(バツイチ)。
監督・脚本:スパイク・ジョーンズ
出演:ホアキン・フェニックス、エイミー・アダムス

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